危険な狩り
数日後、村の長からビンセント家にクマの駆除への協力要請が届いた。近くの森で、家畜が襲われる被害が相次いでいるという。ステイシーはすぐさま駆除隊の編成を命じ、ロベルトも同行を申し出た。
「君は関係ない」
ステイシーは冷たく言い放ったが、ロベルトはひるまなかった。
「お言葉ですが、私はもうこの家の一員です。それに、新聞記者として取材させてください」
ロベルトの言葉に、ステイシーは何も言い返さず、ただ険しい表情でロベルトを見つめた。その瞳の奥には、ロベルトを危険な目に遭わせたくないという葛藤が見え隠れしていた。
翌朝、夜明けと共に駆除隊は森へ向かった。先頭を進むステイシーの背中は、いつも以上に張り詰めているように見えた。その隣を歩くロベルトは、いつでも彼を守れるよう、警戒を怠らなかった。
森の奥深くに進むにつれて、空気は重くなり、不穏な気配が漂い始めた。そして、不意に、草むらから巨大な影が飛び出してきた。唸り声をあげたクマは、隊列の先頭にいたステイシーに襲い掛かった。
駆除隊の男たちが一瞬ひるんだその隙に、クマの鋭い爪がステイシーへと振り下ろされる。
「ステイシー!」
ロベルトは、考えるよりも早く、ステイシーの前に飛び出し、彼を突き飛ばした。衝撃で二人とも地面に転がり、ロベルトはステイシーを庇うように覆いかぶさった。クマの爪はロベルトの背中を掠め、激痛が走る。
「大丈夫か!?」
ロベルトは、ステイシーの安否を確かめようと、彼の体を抱きかかえるように起こした。そのとき、ロベルトの腕が、ステイシーの胸に触れた。
その感触は、硬い筋肉でも、たくましい骨格でもなかった。その柔らかな感触は、ロベルトがこれまで触れたことのある、どの男の体とも違っていた。
はだけたシャツから覗く白い肌に、ロベルトは信じられないものを見た。そこに、男にはありえない膨らみがあるのを、ロベルトは確かに感じたのだ。
ロベルトの瞳が、驚きに見開かれる。ステイシーは、そんなロベルトの表情を見て、すべてを悟ったようだった。彼の顔から血の気が引き、その碧い瞳には、絶望と恐怖の色が浮かんでいた。
その瞬間、ロベルトはすべての謎が解けた気がした。なぜ、ステイシーは男装しているのか。なぜ、血を繋ぐことを拒むのか。そして、なぜ、マデイラは彼に異常なほど執着するのか。
ロベルトは、激痛が走る背中も、凶暴なクマの姿も忘れて、ただ目の前のステイシーを見つめていた。彼の体は男装で完璧に隠されていたが、その真実を、ロベルトは今、知ってしまった。




