表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縛られた城  作者: 輝 久実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/16

真夜中の談話

温室での出来事から数日後、ロベルトは中庭を散歩していた。夜空には満月が輝き、静けさに包まれた庭園は昼間とは違う顔を見せていた。ふと、開いたままの図書室の窓から明かりが漏れているのが見えた。

ロベルトが窓から覗くと、ステイシーが一人で暖炉の前に座り、本を読んでいた。その姿は、まるで絵画のように美しく、しかしどこか孤独を感じさせた。ロベルトは迷いながらも、静かに図書室へ足を踏み入れた。

ステイシーはロベルトに気づくと、一瞬警戒の表情を見せたが、すぐに元の無表情に戻った。

「また、君か」

「眠れなくて」

ロベルトは正直に答えた。ステイシーは何も言わず、ただ暖炉の火を見つめている。ロベルトは、その隣のソファに静かに腰を下ろした。二人の間に、重苦しい沈黙が流れる。しかし、それは以前のような冷たい沈黙ではなかった。

「……父は、この本が好きだった」

ステイシーが、唐突に口を開いた。その声は、ひどく寂しげだった。ロベルトは、彼が手にしているのが、温室で破れてしまった植物図鑑だと気づいた。

「シェラザードさんのこと、ですか?」

ロベルトが尋ねると、ステイシーの顔から、一瞬にして血の気が引いた。その碧い瞳には、驚きと動揺が浮かんでいる。

「……どこまで知っている?」

ステイシーの声は、微かに震えていた。ロベルトは、何も隠さない。

「町で、少し……。そして、シェラザードさんからも、話を聞きました。あなたのお母様との関係、あなたが父親のいない子として育ったこと……」

ステイシーは、ロベルトがそこまで知っていることに愕然とした。長年ひた隠しにしてきた秘密が、この男に、すべて筒抜けになっている。絶望的な感情が、ステイシーの心を支配した。彼は、自らの偽りの人生をすべて見透かされたような気がして、激しく動揺した。

「……なぜ、そんなことを」

ステイシーは、掠れた声で問いかけた。ロベルトは、その問いに、静かに答えた。

「僕がこの家に来た目的は、金だった。でも、今は違う。僕は、君を知りたい。君の背負う孤独を、そして、それでも失われなかった優しさを」

ロベルトは、ステイシーの瞳をまっすぐに見つめた。言葉にはしなかったが、彼の真剣な眼差しから、ステイシーはロベルトが自分に抱いている感情を察した。それは、同情でも、好奇心でもない、純粋な愛情だった。

ステイシーは、何も言い返せなかった。ロベルトの言葉は、まるで彼の心の壁を崩すように、静かに、しかし確実に彼の心に染み込んでいった。この夜、二人の間には、秘密を共有する者同士の、より深い信頼関係が芽生えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ