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革命の女帝

 帝都フィリシアの朝は静かだった。


 だが、その沈黙の裏で、百年ぶりとも言われる政変が完遂された。

 宰相ヴァレンの失脚、王太子レオナルドの退位、旧勢力の粛清と再編。


 そして、そのすべての中心にいたのは――

 

 一人の元・令嬢、セリナ・アルベリヒである。


 「よくぞ、ここまで……」


 王宮の一室で、軍中将ロイド・マクシムが深々と頭を下げた。


 彼のような軍人が貴族でもない少女に敬意を表する――それが、何を意味するのか。


 「私は、正しい未来を望んだだけです」


 セリナの言葉に、ロイドはわずかに目を細めた。


 「だが、その正しさを証明するために、血も涙も流れた……女王以上の仕事だった」


 「いいえ。私は王になったつもりはありません」


 そう返したセリナの視線は、決して誇らしげではなかった。


 むしろ、疲れと静かな覚悟がにじんでいた。


 ====


 セリナは摂政の地位を与えられた。


 名目上は「新体制移行のための暫定執政者」だが、実質は国の最高権力者である。


 各地で混乱が続く中、彼女は素早く政務を再構築していった。


 ・腐敗した税制の刷新

 ・物資輸送路の整備

 ・信頼できる地方官の登用

 ・貴族議会の制限と民意代表の導入


 そして、彼女はとある改革案を提示する。


 「……王家の象徴化ですか?」


 若き貴族エミール・ルヴァンが目を見開いた。


 「ええ。王は守る者に戻ってもらう。治めるのは、民意と法」


 「それでは、実質の共和制では?」


 セリナはわずかに頷く。


 「完全な共和政は急すぎるわ。だが、第一歩にはなる」


 旧来の権威を崩さずに、新しき制度を構築する。

 

 それが彼女の描く穏やかな革命だった。


====


 そんなある日、セリナの私室をノックする者がいた。


 「……アラン?」


 ドアを開けると、そこには常に冷静沈着な護衛――ではなく、どこか戸惑いを帯びた青年がいた。


 「どうかしたの?」


 「いや……いや、何でもない」


 視線を逸らすアランを、セリナは訝しげに見つめる。


 だが、次の瞬間、アランは深く息を吸い込んだ。


 「君は、もう復讐のためには動いていないんだな」


 セリナは目を細めた。


 「最初から、それが目的じゃなかったもの。解放よ、私も、この国も」


 「……君の背中に、帝国の未来が見える。俺は……その未来に、並んで歩けるのか?」


 静かな問いだった。


 セリナはふと笑みを浮かべた。


 「あなたが傍にいるなら、私は道を間違えない。だから――これからも支えて」


 それは、彼女なりの愛の言葉だったのかもしれない。


 アランは言葉にできず、ただ深く頷いた。


 ====


 その夜。帝都の広場には、数千の民衆が集まっていた。


 臨時政庁の設立を告げる式典――そして、新たな時代の幕開けを祝う場である。


 セリナが壇上に立つと、騒がしかった広場が静まり返った。


 「皆さん」


 その一言だけで、空気が変わった。


 「私は、かつて王太子の婚約者でした。けれど今日、私は国のひとりとして、皆さんに伝えます」


 視線が、群衆一人ひとりに注がれるように。


 「この国は、変わらなければならなかった。腐敗と偏見、特権と沈黙――それらを見過ごすことは、未来を殺すこと」


 風が吹く。


 「だから、私は立ち上がった。令嬢としてではなく、一人の人間として」


 「……皆さんに問います」


 言葉に熱が宿る。


 「変わる勇気を持てますか? 誰かに任せるのではなく、自ら選び、考え、歩む覚悟を」


 沈黙の中――一人が拍手をした。


 それが次々に連鎖し、やがて大きな波となる。


 「セリナ様!」「女宰相万歳!」「革命の姫君!」


 夜空に叫びが響き渡る中、セリナは、どこか遠くを見るような目をしていた。


 「……私は、国を救ったのではない。変化の扉を開けただけ」


 その独白は、誰の耳にも届かない。


 だが、彼女の背中を見た人々は口を揃えて言う。


 ――帝国は、ついに女帝を得たのだ、と。


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