0話 おっさん顔のパン妖精
俺の名前は、鈴木大次郎。もうすぐ50歳になるただのおっさんだった。
それが、なんの因果かわからんが、死んで剣と魔法のファンタジーな異世界に転生していた。いや、本とかファンタジーものより推理ものの方ばっかり読んでたはずなのに、ファンタジー世界に転生とか、なんでやねん!!
しかも、普通に人間に転生したんじゃなくて、どうやら妖精に転生したようだ。人間の手のひらくらいの大きさの体に小さな羽が背中に生えていて、一応飛べる。おっさんが妖精になるとか、なんでやねん!!
更に他の妖精達は、有名な某少年合唱団の子ども達みたいな美少年美少女達なのに、俺だけ転生前と同じおっさん顔だった。なんでやねん!!
更に更に、この世界では妖精というのは神々の使いとされ、小さい体に見合わず凄い魔力を持っていた。なので、みんなそれぞれ物凄い火やら水やら風やらを出せるというのに、俺が使える魔法は、転生前に食べた事のあるパンを出せるというものだった。俺はどちらかというとパンよりご飯派だったのに、なんでやねん!!
因みにこのパン魔法?について、色々試してみたところ、魔法の判定がガバいのか、ケーキやらドーナッツやら肉まんやらも出すことが出来た。焼きそばパンみたいな惣菜パンなら、ちゃんと焼きそばも一緒で出せるぞ! パンの認定どうなってるんだよ、なんでやねん!!
周りの妖精どもは、パンを気に入ったようで、毎回毎回俺を取り巻いては、甘い奴を出してくれだの、チーズか伸びる奴を出してくれだの、煩くて敵わない。妖精いわく、この世界にはパン自体が存在しないらしい。というか粉物が無い。
一応麦や米に似ている穀物はあるみたいなんだが、基本的にそのままスープに入れて煮たり、蒸したりして食べており、粉にする事はないらしい。世界的な主食は芋類の様だ。なので、パンはとても珍しい。ふわふわパリパリで甘かったり、しょっぱかったり、今まで食べたことがないと、妖精どもはみんな夢中で食べていた。パンが無い世界か……飽食の時代に生まれた身としては、考えられない世界だな。
……本当になんでこうなっちまったんだろうなあ。真っ青な晴天のもと空を見上げながら、今日も今日とて気ままに飛び回りながら異世界ライフを過ごしている。
さて、今日はどこに行くかな。思いがけない異世界ライフ。こうなったら、色々楽しんでみてやるさ!