表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂恋  作者: はる
14/22

第14話

 草子は深い海の底に沈んだように眠っていた。海の底は心地よく、草子を包んでくれるように優しかった。



 トントントン。



 草子はリズム良く叩かれるドアの音で目を覚ました。


 一瞬、夫が探しにきたのかと思ったが、すぐにそれだけはないと確信する。では、先程のイボ蛙なのか、いや、それもないなと草子は落ち着いた気持ちで、鍵を外した。


 ドアの向こうには、高校生ぐらいに見えるド派手なTシャツを着た女の子が立っていた。



「えっと」


「三百円貸して」



 頼んでいるように聞こえない言い方で、その女の子は草子に手を差しだしてきた。


 草子は、お釣りの小銭から三百円を取り、女の子に素直に渡した。



「サンキュー」


「どういたしまして」


「おばさん、一人?」


「おばさん?」


「おばさんは嫌か」


「別にいいけど」


「じゃあ名前教えて」


「草子」


「どんな漢字」


「草の子供で、草子」


「ふーん。あたしは百花。百の花って書くんだ」


「可愛い名前ね」


「おばさんは草で、あたしは花か」



 何か楽しい発見があったように、百花はにっこりと笑った。


 草子は百花を見つめながら肌が綺麗だなと思った。思わず自分の手の皮膚と見比べてしまった。



「草子さん、いくつ?」


「三十九」


「へー。けっこういってるね。あたしは十七」



 若い。草子は自分に子供がいたら、もしかしたらこの子ぐらいになっていたかもしれなかったなと、複雑な気持ちで百花を見つめた。




 それから、百花はしょっちゅう草子の部屋のドアをノックしにきた。


 ドアを開けると、スルっと部屋の中に入り込み、何を喋るでもなく、草子の横で静かに眠っていた。


 百花を起こさないようにと、草子はなるべく物音をたてないように気を配った。


 百花を愛おしく感じている自分に驚いた。そして草子は、自分は子供が欲しかったんだと寂しく気づいた。


 部屋にあるパソコンの使い方を百花から教わり、草子はネットを見たりする事が出来るようになった。


 ある日、田中と検索してみた。よくある名前なので、膨大な量の田中が見つかった。だが、田中と名乗ったあの男はどこにも見つからなかった。


 それでもどこかにいるかもと、草子は目を凝らしてパソコンの画面を見続けた。



「誰か探してるの?」



 いつの間にか起きた百花が、パソコンを覗き込みながら草子に聞いた。



「自由を探してるの」



 草子が自分だけがわかっているという返事をすると、百花はしつこいぐらい事情を聞いてきた。


 草子は大事なものをわけてやるように、百花にあの男の事を話した。ところどころ、モザイクをかけたようにぼかして話した。


 あたしたちの物話を、十七歳の百花に分かってもらえるとは全く思えなかったからだ。


 百花は草子の話を黙って聞いていたが、何もかもを見透かしたように言った。



「会いたいんだ。その男に」



 わかったように言う百花に、ほんの少し苛立ちが沸き起こったが、顔には出さず、「探してくる」と草子は立ち上がった。


 例え百花であっても、あの男の事でもう一言たりとも言葉をかけられたくなかった。草子は逃げるように、ネットカフェを飛び出していった。


 しかし、飛び出したものの行く当てもなく、草子はまた歩き続けていた。


 男と初めて出会った時の事を思い出しながら歩いていた。



 そうだ、あの場所に行ってみよう。




                   つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ