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菊池と国立

「菊池祭り」参加のローファン薄口BLです。


 プロローグ 


 その日は雨が降っていた。


 梅雨が明けても雨天が続く。

 時折吹く風は、女の泣き声のような音をたてる。

 深夜である。

 向かう道端にはコンビニ一つなく、点滅を繰り返す街灯以外、灯は乏しい。


 暗闇を縫うように、三人ほど動く者たちがいた。

 先頭に小柄な者。少年だろうか。後に続くのは成人年齢の男たちだ。

 皆、静かな呼吸を繰り返しながら、迷いなくその場所を目指している。


 人工湖周辺の。新興住宅地である。

 その一軒の前で、少年はぴたり足を止める。

 その一軒だけが不自然に、玄関が明るい。


「此処ですか、若」


 後ろに控える者の一人に「若」と呼ばれた少年は頷く。

 二人の従者は音もたてずドアを開ける。


 流れ出る強烈な血臭。

 同時に飛び出す闇の塊。


 少年は真言を唱え、従者が塊に独鈷を投げる。

 闇の色は消え、塊は球体に変わる。


「はぐれですか?」

「ああ……」


 訊かれた少年は短く肯定する。

 居間に進むと、血まみれの男と女。うつ伏せの二人は既に命を手放していた。


「遅かったか……」


 少年の目は、女の腹の微弱な動きを捉えた。

 覗き込むと、腹の下にもう一体、小さな体が隠れていた。

 この二人の子どもだろうか。

 全身、血まみれだ。


「親子三人、死亡ですか」


 従者の一人が言ったその時、子どもの指が僅かに動いた。


「いや待て。まだ息がある、子どもは」


 そうは言っても瀕死状態。

 このままでは、早晩命は尽きるだろう。


「救急車を呼んでも、間に合わないですね」


 従者二人はあちこちに連絡を始めた。


 よく見れば、血まみれの子どもの年齢は、少年と同じくらいだ。

 男子だろうか。

 服装は男子用だが、血の気のない顔貌は、女子のようにも見える。

 へばりついた頬の血糊の上を、一筋の涙が流れる。


 少年の胸に痛みが流れる。

 それは無音の鎮魂歌だ。

 子どもを腹の下に抱いたまま、逝った母親へ。

 その母をかばうように、腕を伸ばしていた父親へ。

 理不尽な力で家族を奪われた、血まみれの子どもへ。

 子どもの手が重みに逆らうように、動く。

 思わずその手を少年は握った。


 意を決して少年は己の指を噛み、子どもの口元に何滴か自分の血を垂らす。

 それは禁忌の法。少年の一族だけが受け継いでいる。

 よって、一族以外の者に施すことは禁じられている呪法である。


 運が良ければ。

 命の綱が残っていれば。


 この子ども、生き残れるかもしれない。

 いや。

 生き残って欲しい。



 七月某日。

 K県S市において、一家三人殺傷事件発生。

 犯人の手がかり、なし。




 ◇◆五年後



 何処の学校も新年度は行事が詰まっている。

 県下で進学校として有名なS高校も、ご多分に漏れずだ。


 特に数年前までS校は男子校であったので、男子の体力増強などを鑑みた行事が多い。

 毎年五月の連休明けに、一年生の男子だけ、一泊のオリエンテーリングが催される。

 ちなみに女子は都内の会館で、進路についての研修を受ける。


 オリエンテーリングの場所は県内の山地だ。

 地図とコンパスを渡され、二人一組で夕方までにゴールを目指す。

 何十年も続いている、歴史ある行事だという。     

 菊池蒼(きくちあおい)国立弘務(くにたちひろむ)と組んで、山道を歩いている。

 出席番号で機械的に決まる、オリエンテーリング用バディである。


 入学して一ヶ月たったが、クラスの中では菊池と国立、殆ど会話はしていない。

 だが、放課後の付き合いで、おおよそ互いの性格は知っている。

 黙々と少し先を行く国立の背を見ながら、菊池は入学式直後の会話を思い出していた。


 入学式後、各部活動の見学会が行われた。

 進学校であっても、運動部の活動も盛んである。男子生徒の大半は運動部へ入るが、菊池は己の体力を把握していたので、文化部への入部するつもりだ。

 菊池が希望する生物部は、生物実験室に集合することになっており、人波を避けながらそこへ向かう。

 実験室の鍵は開いていたが、生徒は誰も来ていなかった。

 ふと。

 嗅いだことのある臭いが漂う。

 外から入って来ているようだ。


 臭いの元を確かめに窓際に行くと、ベランダに座り込んでタバコを咥えた奴がいる。

 真新しい制服。

 菊池と同じ、新入生らしい。


「よお。たしか同じクラスだよな」


 悪びれることなく、タバコを片手に挨拶してくる男子。

 入学式で菊池の後ろに並んだ奴だ。

 肩まで伸ばした髪が目立つ。

 名前は確か、国立……。国立弘務。


「学校の敷地内、禁煙だぞ」


「わりい、消すわ。っていうか、気にするトコ違くね? 俺ら未成年だよ、菊池君」


 笑いながら国立は、携帯灰皿に吸殻を落とした。

 同じクラスとはいえ、彼が自分の名を覚えているとは思わなかった。


「生物部、入るの? く、国立君」


 立ち上がった国立は菊池よりも拳一つ以上背が高い。


「え、ああ、どうしよっかなあ。ここ、タバコ喫うには良い場所だから。隠れやすくて」


「そんなに喫うの? ニコチン依存?」


「うん。喫うっていうか、煙吐くだけ。ヘンなもの、煙吐くと飛ばせるから」


 彼の言う「ヘンなもの」の詳細を、菊池は訊かなかった。

 なんとなく、訊いてはいけないような気がした。


 その後もしばしば、国立は生物実験室にやって来た。

 先輩の数も片手で足りる生物部は、一年生の部員は菊池一人。

 国立はベランダで何回か煙を吐き出すと、先輩らが来るまで菊池と駄弁る。

 いつしか互いに「蒼」「ヒロ」と呼び合うようになっていた。



「なあ、竜っているのかな?」


 唐突に国立が言う。


「さあ、どうだろ。世界各地で伝説が残っているから、いるかもね。でも、何で?」


 蚕の世話をしながら、菊池は答える。胸がざわつく。


「俺、見たことある、ような気がするような、しないような」


「何だそれ」


「冗談冗談。またな」


 国立はあちこちの運動部から誘われていたが、軽音に入ったそうだ。

 女子が多いからとか言っていた。

 国立の外見なら、さぞかしモテるだろうと菊池は思う。



「蒼」


 上り坂の山道を歩く菊池に、国立は振り向く。


「大丈夫か?」

「う、うん」


 国立は菊池が病弱と思っている。

 体育の授業を、たまに見学しているからだろう。


「なんか空がヤバい」

「ヤバいって、ヒロ、何が?」


 国立は立ち止まり、空を見上げる。


「雨が来る」


 国立が言った瞬間、ポツリと雨粒が落ちる。

 直後、墨を流したような雲に山全体が覆われて、驟雨が二人を襲った。


菊池蒼:ウバ クロネ様作

挿絵(By みてみん)

Q:BLですか?

A:はい(断言

 次話にはちゃんとBLっぽくなります


短編連載となります。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] びびびーえる! 初めてかも。忘れてるのかな?いや、初めてだと思う。 楽しみたいと思います!╰(*´︶`*)╯♡ [一言] 菊池祭りに参加下さりありがとうございます!
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