<後編>
激しい表現が苦手な方!
申し訳ございません。<m(__)m>
イラストは15歳時のナミちゃんです。
「タバコ吸って来る」
重い腰を上げてオヤジが出て行った後の、テーブル……ビール瓶やコップや皿をササッ!と片付けてナミちゃんはオレを見る。
「今のうちに晩御飯作っちゃう? お父様も帰って来たらちょうど召し上がれるように」
「あんなぐうたらオヤジ! 放っておいていいよ!」
「ダメよ! 今だって私の為にわざわざタバコを吸いに出かけたんだもん!」
そう言いながらナミちゃんはマスクを付けた。
「富江ちゃんがカツオ持って来てくれたからタタキにしよう!」
世界中にパンデミックを引き起こした感染症がようやく下火になっても、この島の観光は壊滅したままだ。
民宿の収入が途絶え、猫の額ほどの畑では生活が立ち行かず、ウチはオフクロが本土に出稼ぎに行っている。
幸いナミちゃんの実家はお父さんがほぼ不在なので(ナミちゃんがここに住むのとバーターで)オフクロは家賃タダでそこに住まわせて貰っている。
でも、本当に、そんな好意的な“お話”なのだろうか?
畑仕事も僕とナミちゃんでほぼこなしている今の状況で、オヤジはひねもすビール飲んでブラブラ……
こんなどうしようもない男と比べれば、ナミちゃんのお父さんはバリバリ働いているらしいから、さぞかし男としての見場は上がっていて……ふたりは実はどうにかなっているのでは??
こんな風に考えてしまうオレはもう中三だ。
もちろんナミちゃんも同じ中三で……中身もほぼ島っ子だ。
唯一違うのは、ナミちゃんは喘息の持病があって……煙、特にタバコの煙を浴びると激しい発作に襲われてしまう。
調理の際の煙は、性能の高いマスクを付けていればなんとか大丈夫なくらいまでにはなったけれど……
でもまあ、ナミちゃんと一緒の生活は、オレにとって“幸せそのもの”だった。
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「お前、『せりあがり祭』がどういう祭りが知ってるか?」
祭りの前の日、いきなり勝男さん家の納屋に呼び出された。勝男さんは中学を卒業して今は家業の漁師をやっている。
「“男”の祭りですよね」
“せりあがり岩”は男性のシンボルの形をしていて……それにまつわる祭りだという事はオレも知っていた。
「富江の言ったとおりだ!! お前!やっぱりガキだな!」と勝男さんは鼻で笑い、教えてくれた。
「『せりあがり祭』は大木様の“お種付け“のお祭りだ!」
「“お種付け“?」
「大木様が“お種付け“した破瓜の血を“せりあがり様”へ奉納するんだ?」
「??」
「ヤるって事だよ! ただ、ご神殿の“せりあがり岩”でヤるのは、宮司である大木様だけじゃない!男衆も何名か加わる。どういう事か分かるか?」
オレはただ、首を振った。
「『大木様の次のご当主はオレの種から生まれたのかもしれない』 そう思う事で島の男衆は大木様を終生支えるというわけさ」
あのお祭りがまさか、こんなものだったとは!!
驚きを隠せないオレに勝男さんは続ける。
「ところで、昨年からは勇太様が宮司をお勤めなのは知っているな?」
勇太様は東京の有名な進学高へお進みになられたが、お祭りの日には島に帰ってらっしゃっていた……
ここまで話して勝男さんは、納屋に何本かある鉈の1本に手を掛けた。
「お前は鉈を……雑草を刈り、枝を払うのに使うよな!」
「はい!」
「オレたちは、大木様そのものであられる勇太様の鉈だ!!」
「はい!!」
「お前のオヤジは今年の“供物”としてナミちゃんを差し出し、勇太様はそれを了承なされた」
「えっ???!!!」
オレは目の前が真っ暗になった。
「お前のオヤジもお前も……勇太様の鉈に過ぎない。お前はナミちゃんが逃げないように目を離すな!!」
勝男さんの言葉に……膝がガクガク震えて止まらない!!
「ちぇっ!! もうヤりてえのか? ガッツキやがって!! お前とオヤジの二人分だけ“種付け”の確率が上がるのは、オレ達には面白くねえんだ!! ヘタ打つとタマ落すぞ!!この野郎!!」
鉈を振り上げ勝男さんは凄む。
「……いや、オレは……」
と言いつつ言葉が見つからないオレを勝男さんは更にねめつける。
「ナミちゃんと逃げようなんて思うなよ! タバコの煙を浴びなければ、すばしっこいナミちゃんは逃げおおせるかもしんねえ! だが、お前は取っ掴まって、一生、足が不自由になるぜ!」
そう言いながら勝男さんは薪に鉈を振り下ろした。
「しっかし!お前のオヤジもコスイな!! 『ナミちゃんに煙の耐性が付かないようにタバコは外で吸ってる』ってぬかしやがった!! こんなオヤジを持ってお前も幸せだな! 島での地位は安泰だ!! まったくムカつくぜ!!」
そう吐き捨てて勝男さんは薪を割り砕いた。
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結局オレは……ナミちゃんには何も知らせず、ただその姿を目で追いながら祭りの夜を迎えた。
「富江ちゃんに誘われたから出掛けて来るね」とナミちゃんが家を出るまで……
どのくらい時間が経ったのだろう……オレのスマホにオヤジから電話が掛かって来た。
「“せりあがり岩”まで泳いで来い!!」
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泳ぎ着いて“せりあがり岩”をよじ登ると、例の“平らな岩肌”に丸太が組まれていて、その丸太に“大の字”に括り付けられたナミちゃんが居た。
剝き出しの裸の上に申し訳なさ程度に毛布が掛けられている。
その横には番犬の様に、裸のオヤジが蹲っていた。
「おお、来たか! じゃあオレは帰るからよ! ナミちゃんは明日の朝、船が迎えに来るまでこのままにしてろ!儀式だからな! 夜が明けるまでは動かせねえ」
オレは涙で目の前が見えなくなりながらも尋ねる。
「ナミちゃんは!! そのあと、どうなるの?」
「大木様のお屋敷へ搬入だ! “種付け”はひと月続くからよ!!」
それを聞いてオレはグシュグシュになる。
「ケッ!! 何を泣いてやがる!! お前もさっさとその毛布を剥いでやっちまえ!! いつまでもガキやってんじゃねえ!!」
オレは海パンのケツに隠し持っていたナイフを握りしめた。
けれども、裸のまま海へ飛び込んでいったオヤジには何も出来なかった。
ただただ泣きながら、ナミちゃんを拘束していた縄を切った。
ナミちゃんはよほど抵抗したのだろう!! 岩の上に置かれたLEDランタンの薄明かりの中でさえ、どこもかしこも腫れ上がっているのが見て取れた。
解放されたナミちゃんは自らの手で掛かっていた毛布を剝ぎ取った。
「ほら! アンタもヤったら?!」
「デキる訳ねえだろ!!」
ナミちゃんは毛布に身を隠す。
「そう!残念だわ!!」
「どういう事だ!!」
「アンタが私を抱けば、アンタもこの世から消し去れたのに!!」
こう言いながらナミちゃんはオレを睨む。
「ワタシはもう消えるしかない!! アンタが私を!!約束を!!……守らなかったから!!」
「??!!」
「ワタシはオトコ達によって凌辱され殺められた女達の血と涙の結晶!! だからワタシが泡と消える時、ワタシを抱いたオトコ達も泡となってこの世から消える!! 人々の記憶からも!!」
「???!!!」
「ワタシがこの世で一番憎いのはアンタ!! ワタシを!!ワタシ達を救って欲しいとの願いを込めて、あの日、アンタを死の縁から救い出したのに!! アンタはそれを踏みにじり平気で裏切った!!」
「違う!! そうじゃない!! オレは!!……」
こう口走るオレにナミちゃんは高笑いした。
「そうやって小ズルく逃げるのはアイツの遺伝かしら? 良かったわね! ワタシは憎いアンタの為になる事を、これからしてあげるわけだから!! 邪魔モノをその記憶ごと全て消し去ってあげる!!」
そう叫びながら海に向かって体を滑らしたナミちゃんは、波に触れた足先から泡を吹き、ついには全てが海に溶けてしまった。
きっと、十数秒の事が……
オレには果てしないスローモーションに見えた。
けれども、オレが今見たものは……
えっ?!
右足首……
ここでケガしたんだっけ?
あれ、何でオレ
ここに居るの??
ってここどこよ?!
……ああ!『エッチ岩』かあ
このランタンの明かりじゃ牡蠣とれねえなあ
帰ろっ!!
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海から上がると辺りがワサワサしていた。
「大木様が亡くなられた!!」
「富江の腹の上でおっ死んだ!!」
「もうご高齢だったからなあ~」
「逃げようとした富江のオヤジは船ごと沈められた!」
「跡継ぎの居ねえ大木の家はどうなるんだ?この島は??」
「そんな事より!!今は富江をとっ捕まえねえと!!オレ達の身が危ねえ!!」
『せりあがり祭』に纏わる血生臭くも悲惨な騒ぎの中、オレは夢遊病者の様に彷徨い歩いていた。
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私、斉藤樹は中学三年生の時に父を亡くし、母一人子一人で、あの小さな小さな島を出た。
高校を出てすぐ、今の会社に就職し、ささやかながらも親子つましく過ごして行けると思った矢先に母も亡くなり……長い独身生活の後、何とか嫁さんを貰った。
今は愛美と名付けた娘と三人で社宅暮らしだ。
嫁は社宅生活に色々不満があるようだが、あの島に比べれば……なんと生き易い事か!!
そんなある日の事……
「ねえ~パパ!! かってきたにんぎょひめのマンガみせて!!」
「いいけどお隣に迷惑だから、音は小さくしてね」
人魚姫のDVDをセットして……
娘の隣に座って
ビールを飲みながら
見るとは無しに画面を眺めていた私は……
段々と“マンガ”に引き寄せられて
気が付くと涙と鼻水が止まらなくなり
私の太ももを枕にしながらマンガを見ていた娘の髪を
汚してしまっていた。
終わり
オトコ視点だけど、徹底的にオトコをディスると言うのが今回のテーマです!!
夢でこれらのシーンをみた私は怒りに震えました。
取り急ぎUPします。
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