<前編>
おなじみ“月火真っ黒シリーズです!!!(^^)!
僕の住んでる小さな小さなこの島にも夏休みには本土から人がやって来る。
元々、旅館やホテルなどは無いから、観光客は皆、民宿に泊まる。
「どこの家がいつ民宿をやるのか?」
その順番を決めるのも全て“大木様“だ。
大木様は代々この村の村長で……この村を人が住めるように開拓(この言葉、最近、学校で習った!)したのも大木様のご先祖様だ。
大木様のところの一人息子の勇太さんは中1で『勝男』さんと『隆』さんと言う同い年の二人の舎弟がいらっしゃって……僕ら島の子供(男)は大抵、この二人のどちらかの舎弟だ。
僕も勝男さんの舎弟で……本土から観光で来た子供たちにカブトムシを捕らせたり堤防からの五目釣りをやらせて、勇太さんからおこづかいを支給してもらっていた。
でもそれもお盆までで……『せりあがり祭』の頃には観光客はすっかり引けて、島民しかいない。
その『せりあがり祭』だけど、始まる1週間前くらいから祭りの1週間後くらいまで、大人たちはなんだか異様なふんいきで、僕たち子供は外へ出してもらえなかった。
なんでも、祭りの最中に……たまに行方不明になってしまう人がいて……『たたり』を食らってしまったという話が大まじめに広まっていた。
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『せりあがり祭』のご本尊は沖合に見える“せりあがり岩”だ。
島民(それも男に限るが)は、このせりあがり岩にはお祭りの時にしか近付かない。
と言うのは、せりあがり岩周辺の漁業権も大木様の物だからだ。
しかし大木様ご自身はご自分の会社の船をあんなところへは寄こさない。
だから、せりあがり岩の周りはイセエビや岩牡蠣などの宝庫だ。
なぜそんな事を知っているかと言うと、勇太さんが気の向いた時に舎弟達に岩牡蠣を取りに行かせるからだ。
そんなわけで僕も何度か大きな牡蠣を取りに行かされたが、その収穫にありつけるのは『勝男』さんと『隆』さんまでで、僕たちにはお鉢が回ってくる事は無い。
でも祭りの後の今なら! まだせりあがり岩にしめ縄が張ってある今なら!!
僕は浜に誰も居ない事を確認して海に入ると、せりあがり岩を目指して一心不乱に抜き手を切った。きっと今日なら水泳大会で優勝できたくらいに!!
せりあがり岩に縋り付いて息を整えると、すぐに素潜りして、手のひらに余るくらいに大きい岩牡蠣を三つもむしり取った。
せりあがり岩の反対側、ちょうど浜から見えない方は、大人のおおきなベッドくらいの滑らかで平らな岩肌で、端っこに鳥居みたいなものがすえられている。
お祭りの儀式の後なのか、その下にはお猪口やお酒の瓶が置かれたままになっていた。
しめ縄にくっついている紙垂が風でカサカサ揺れる中、僕は岩牡蠣の殻の境目からナイフを入れ、中に向かってグリグリとやって貝柱を切り、殻をこじ開ける。
殻を開けると、むき出しになった身の下に刃を入れ今度は殻から身を削ぎ取る。
そうして日に照らさせれて眩しいばかりの身を一気にかぶりつく。
三個も食べれば十分だろうと思ったが美味し過ぎて牡蠣欲が止まらず、僕は再び海へ潜ると……岩礁の陰をゆっくりと這っている見事なアワビを見つけた。
どうしよう??!!
海パンの中に隠し持って帰れる大きさじゃない!!
やっぱりここで食べて証拠隠滅するしかない!!
迷ったけれど、僕の“食欲”の方が足を前に出させた。
その瞬間、踏み出した足は激痛に襲われて僕は思わず肺の中の空気を聞こえぬ叫びと共に水中へ吐き出した。
岩に噛まれた!!
痛みと苦しみと焦りでもがけばもがくほど足を取られもうもうと血煙が上がり、不気味な魚が寄って来て、程なく僕の意識は遠ざかった。
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「ゲボッ!」
激しく海水を吐き出して僕の意識は戻った。
目の前には大きくて黒曜石の様に光る瞳に真っ白な肌、さくら貝のくちびるを持つ女の子が居て、僕の顔に海のしずくをぽたぽたと落としていた。
「良かった!」
くちびるをちょっと口で拭った後、この子は両手で僕の頬をギューっと包んだ。
「この子は……どこの子?」
ここは狭い島、知らない子供なんて居ないはず。ましてや歳の近い子なら……
「ボード持って来てて良かった! でなきゃ運べなかった」
浜で寝かされている僕のすぐ脇にサーフボードが置いてあり、彼女のウェットスーツのあちこちが裂け、血が滲んでいる。
「それっ!!」
起き上がろうと動かした右足首に激痛が走る!!
「ダメ!!動いちゃ!! 止血しようとしたけど止まらない」
見るとグショグショの赤いタオルが足首に巻かれていた。
「大人の人、呼んでくるね」
「僕をせりあがり岩から助けてくれたの?」
「えっ?! ああ、あの変な形の岩の事?」
僕は頷きながら懇願する。
「せりあがり岩の事は内緒にして!!」
「分かった! 向うの岩に挟まっていたって言うから」
そう言いながら伸びやかな体を跳ねるようにして彼女は岩肌を登って行った。
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“僕の命の恩人”の女の子は“まなみちゃん”と言って……大人びて見えたけど僕と同じ4年生なんだそうだ。
まなみちゃんが「療養の為にこの島へ転校する予定」と聞いて、僕の両親は民宿として使っていた部屋をまなみちゃんに提供する事を申し出た。
僕はと言えば、夏休みの残り数日間を松葉杖(こんな体験は滅多にできないから、杖をライフルの様に構えて“ゴルゴ遊び”をした)で過ごした後、新学期を迎えた。
分校の事だから、全校生徒が集まる中、まなみちゃんは黒板に『岩下愛美』と書いた。
「いわしたまなみと言います。でも私、海が大好きだから……」
と『愛波』黒板に書いて
「こっちのほうがいいから『ナミちゃん』って呼んでください!」と自己紹介した。
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僕は一人っ子だし……学校では元々、女子は少な目なので、最初、ナミちゃんとは上手く話せなかった。
それでも、ナミちゃんは僕の命の恩人で……僕の両親も僕以上にナミちゃんを可愛がってしまうような、いい子だったので、いつしか打ち解けて、一緒にテレビを見たりゲームしたりした。もちろん海にはしょっちゅうつるんで出かけた。
そんなわけでナミちゃんはまるで昔からの島っ子のように、すぐに小麦色になってしまった。
ただ、海だと僕の悪友もゾロゾロくっついて来るので、時々、ウチの段々畑にナミちゃんを誘って畑仕事のまねごとをしながら二人でトマトなどを齧った。
そんなある日、畑の向こう側からナミちゃんの悲鳴が聞こえて、僕は鉈を持ったまま駆け付けてみると、ナミちゃんの目の前へ蛇がぬらぬらとにじり寄っていた。
とっさの事で後ろから飛び掛かる様に鉈を振り下ろし、鎌首を持ち上げようとした蛇の頭を切り落とすと、ナミちゃんは叫ぶ事すらできなくて後ろへ飛び退き、しりもちをついた。
転がった“アタマ”を蹴とばし確かめてみる。
「目の後ろに線が無いから“ヤマカガシ”かも!! 噛まれないで良かった!!」
ナミちゃんはまだ震えおののいている。
「“ヤマカガシ”って毒蛇?」
「マムシより毒は強いらしい」
僕のその言葉を聞いてナミちゃんはワンワンと泣き出してしまった。
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その日の夜、僕がお風呂に入っているとナミちゃんの声がした。
「樹くん! お母さんから! 新しいパンツ預かった! 古いの捨てなさいって! どんなの履いてるの?」
「あ~!! 見るな!」
「もう見ちゃったよ~!! キャラクターもの履いてるんだ!意外とお子ちゃまだね!」
「だから、それはもう古いのなんだって!!」
外に向かって怒鳴りながら顔を赤くしていると引き戸がガラガラと開いた。
「私も入るね」
「ええっ??!!!」
僕が仰天して湯船から飛び上がるとナミちゃんはクツクツと笑った。
でもどこかのマンガみたいに水着オチじゃなくて、焼けないでコントラストがクッキリと残っている裸の胸は
その……
ふっくらしてた。
「や、やめろよ!!」
大声で怒鳴って背を向ける。
「今日守ってくれた事へのほんのお礼!」
「その前に!ナミちゃんは僕の命の恩人じゃん!」
「じゃあ、お互いさまだね! でも樹くん! こっち向いて!」
「向かねーよ!」
「大事な話なんだよ」
「なんだよ!」
「私に何かあったら、今日みたいに守ってね! 樹くんに何かあったらいつでも守ってあげるから!分かった?!」
「うん」
「こっち向いてよ!」
「分かったからいいだろ!」
「良くない!! 不誠実! そんなヤツは~!!」
背中からナミちゃんの手が伸びて来て僕の胸をギューッ!とつねった。
「イテテテ!」
浴槽に潜って逃げようとしてもナミちゃんは後ろから抱き付いて攻撃の手を緩めない!
「お前!いい加減にしろ!!」
怒りで向き直るとナミちゃんは自分の胸をグイっと反らせた。
「じゃあ反撃してみれば!!」
僕は裸のまま、みっともなくも茫然と立ち尽くした。
<後編へ続く>
この物語は一昨日の夜、夢の中で観たテレビドラマ?映画?と昔の真っ黒なボツネタを掛け合わせました。
前半はのどかですが……
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