Episode5 攻撃 (ミヤビside)
Episode5に関してですが、ミヤビsideと新キャラside、好きな方を選んで読むことができます!!!両サイドを読むことができますが、同じ時系列で困惑する可能性が高いので、どちらかだけを読むことをお勧めします。
アクションを重視する方はミヤビside。父との関係が気になる方は新キャラside。
次の日。12.19。
あのトウクマっていう少年と成り代わる作戦はあるのかって?昨日だが、あのガキはナナハと言う少女とそこそこいい関係を築いてるのはわかった。だから、そこを利用する。彼の家は確かここ。立派な高級マンションと言える外観を施している。そろそろ彼が自宅から出てくるはず。さっき、インターホン鳴らしたし!!お!少年が出てきたこと目視できた俺は、少女・ナナハに擬態した姿で、少年に合図を示す。高く挙げた手と声で。
『ヤッホ!!トウクマくん!!』
少女の声に気づいた少年は、目をまん丸とさせた顔を晒す。
『ナナハ!!どうして!?ここに?』
『朝合流するのに、理由がいるの?』
これ以上、俺・ナナハの言葉に返す立派な言葉はなかった。
『なんか・・・ありがとう!!』
そう少年は素直な気持ちを言葉にする。それに対し、彼女らしい満面の笑顔で返す。よし!!これがザ・ガールの振る舞いだ。
『なんか・・・どういたしまして』
私・・・私に成り済ました俺は、彼を気絶させるポイントへと誘い込むように、少年の小さく柔らかい手の皮膚に掴む。優しく少女らしく。
『じゃあ、いこ!』
よし!なかなかいい少女を演じられてるんじゃないかという態度や振る舞いに自賛したくなる。ぜひ、演技最優秀賞受賞してほしいものだ。実際、少年は、少女の可愛い笑顔に見惚れるように、私の引っ張っていく力に体を任せている。
『うん!?』
なんだ!今、不穏な空気を感じたが・・・もしかして・・・・
『ナナハちゃん?どうしたの?』
思わず、不穏な視線を追うべく見上げた5階の廊下。マンションの廊下から威圧な視線を感じたが、ただの悪い予感を示唆してるだけじゃない。俺がナナハに化けていることが見透かされているような・・・俺は、その感覚を従うべく学校まで向かうことに作戦変更した。
* * *
一時的にナナハに成り済ましていた体は、(下見の時の)昨日化けていた別の少年へと変異させる。細長い空間を形成するトイレの鏡には、清楚な女の子になりかわっていた黒髪や綺麗な瞳は、モサッとした頭に細めの目つきを施した少年に成り代わる。手で触れた感触はまさに本人そのもの。
それにしてもなぜだ?学校に着いてからは、クラスの笑顔に振る舞う姿で平和な1日に見える。だが、まだ不穏な空気が残っていると俺の中のセンサーが警告している。もしかして、あのトウクマが関係している?直感でしかないが、トウクマが登校中に見せた笑顔には引きつる口元と本心から笑っていない目元が何かを物語っていた。
* * *
今は2限目後に与えられた20分休み。男子はこの短い時間でも、遊びたいと言わんばかりに走り回っている。それを嫌悪感表すような視線を放ったり、無視して雑談を交わす女の子たち。そう目に見える情報を探知していくものも、あの標的の少年がいない。
『なあ!トウクマはどこに?』
そう歩み寄った先にいる本物のナナハに声をかけた。ちょうど他の女の子と話している様子だが、割り込んでくる俺の質問に彼女は優しく応えてくれた。
『ん?なんか係の仕事で、ユウセイくんと職員室に向かったと思うけど』
『金田と?』
あのいじめっ子が素直にトウクマという少年と行動を共にするとは思えない。その考えが口から溢れるトーンで表現してしまう。
『まあ、、言いたいことはわかるよ。いつもトウクマのこといじめてるもんね。でも、今日は珍しく大人しかったよ』
* * *
不可解な点が多すぎる。というか、昨日と今日で全く別の世界のような状況が起きている。確か・・・トウクマの係は、体育だったな。俺は急いで果てしなく見えてしまう階段を駆け降り、長い廊下を駆け抜けていく。
やっと見えてきた職員室という看板も、ドアの前には誰もいない。じゃあ、どこへ!?考えられるのは体育館か体育倉庫だな。どっちみち隣接しているから、俺はまた目的地へと走り抜けていった。
* * *
冷えた空気が顔を覆うように皮膚に侵食していく。それだけでなく、なぜか吸っても吸っても息苦しさを感じさせる。だが、今はガキの安否が不明なのが気がかりだ。そうやってきた先には、体育倉庫前に見える二つの人影が目に入る。相手に気づかれないように体勢低く、物陰で様子を伺う。次第に近づいていく相手との距離で、やっと肉眼で見えた金田 ユウセイらしき後ろ姿。よく見ると、倉庫前で何か整理しているトウクマに向けて、何か鋭利で光るものが手元から見える。
『おい!金田!何をしようとしてる!?』
目の前まで来た危機感を阻止せざるを得ず、俺は物陰から金田 ユウセイの鋭利なものを握る手首に掴みかかった。
全く気配を感じなかったユウセイと備品を倉庫へと仕舞い込むトウクマは、目をまん丸とさせた様子で、俺に視線を向ける。
『え?備品を包んでたダンボールを切り開くためにハサミ使ってただけだけど・・・』
確かに、俺の掴みかかったユウセイの手には銀色に光り輝くハサミを手にしていた。そして、ダンボールを締め付けていたガムテープがハサミで切り取られた跡が確認できた。
* * *
俺がおかしいのか?不可解な点を結びつけようと、一連の出来事に関する記憶の断片を繋ぎ合わせようとした。でも、どうにも腑に落ちない。気づけばもう4限目が終了し、お昼ご飯の時間だ。みんな白いエプロンと共に配膳をしている姿が一様に広がっている。
『トウクマ!!少し話したいことがある。ちょっと算数準備室まで来てくれ』
そう、先生に呼ばれるトウクマの姿に、俺は反射的に視線向けた。"何かしでかしたのでは?"と言わんばかりの表情で。あのいじめっ子はにやけた口元で、トウクマに視線を向ける。やっぱり不安の種はまだ取り除けていないようだ。
* * *
トウクマが算数準備室に連れて行かれて数分後のこと・・・
何事もないように、廊下の先にある算数準備室へと向かうが、次の一声で少年の危機感を察知した。微かに苦しむような声と激しく打ちつけた本棚の音が聞こえてくる。
『うっ!!!っく!!!』
『お前が父の仕事の盗み聞きをしたのはもう知ってる。だが聞かせてくれ。お前はどこまで聞いた?』
やっぱりそうだ。嫌な予感は完全に的を当てた。人に聞く態度じゃない。喋りたくても、めり込んでくる何かが子供を苦しめてる。そんな絵図が近づいていくドアの外側から感じられた。
『ご・・・ごめんなさい!!』
『ハハハ!!このツラはなかなか見応えがある。もっとだ!!もっと苦しめ!!!』
俺は、ガキになりすました姿から戦闘に合った大人の身体へと擬態していく。それを変化していく指の長さや筋肉質な体を実感した俺はその先にあるドアを開いた。
『なあ先生!!そう言うことするなら、部屋の鍵は閉めときなよ!!』
完全にうっかりしていたと言わんばかりの表情を晒してくれた先生は、標的のトウクマの首を締め上げている。やっぱりこいつ、人間に化けてたのか。確信した瞬間に、次のアクションは起こった。
気づけば、とても積もない風力と衝撃波で、算数準備室の壁は窓ガラスを破壊する勢いであらゆる物体を破壊していった。トウクマの身もその波紋に巻き込まれ、そのまま3階と言う高さから落ちていく。体全体に染み渡る風と目の前に見える運動場への地面。
体が浮いた感覚もやがて、重力と共に急速な落下していく。
『うわああああああああああああああ!!!!!!落ちるうううううううううううううううう!!!!』
そのまま、地面に叩きつけらるはずの身体は、俺の能力を使ってトウクマを抱き抱える。無事、地面との衝突を回避した少年は、俺の瞬発力で見事に姫様抱っこ状態。俺は次の敵の攻撃に備えて、早く少年を退かせる。
『お前早く退けって!!』
俺の焦りに気づくようにトウクマは急いで、両手から抜け出す努力を見せてくれるも、もう手遅れ。伸びてきた敵の腕が俺の首元を掴みかかる。
『っく!!!』
なんとか俺の手から抜け出したトウクマは、そのまま先生、いや・・・敵の胴体に突進していく。だが、子供くらいの体格じゃそんなの攻撃のうちにも入らないぞ!
『邪魔だ!!!』
最も簡単に、敵はトウクマの身体を放物線上に放り投げ出す。宙に浮いたこの肉体はそのまま運動場の砂場に叩きつけられる。頭を打ちつけた勢いで、気絶までは行かなくともすぐには起き上がれない様子だ。集中の的は地面に倒れる少年から彼を殺そうとした敵へと向ける。
『かかってこいよ!!』
俺の挑発に乗るように、凄まじい拳と蹴り足を次々と突き出される。だが、こんなの楽勝。確かに一つ一つの拳に威力は込められているが、隙のある腹部、横腹へ拳を打ち込む。蹴り技も披露してくるが、見事に当たっていない。高く飛び上がってから放つドロップキックなどの飛び蹴りで本物を見せつけた。それは相手の重たい肉体を後ろへ突き飛ばし、そのまま後転しながら転がっていく様が確認できる。
余裕だ。笑えるくらいにな。
『戦うのは久々なんだ!!もっと楽しましてくれよ!!!』
俺の期待に応えてくれ!!!頼む!!そう祈るように、地面を踏みつける左足を軸に、回転力をつけた肉体を活かし、そのまま右足で相手の顔面を蹴りつける。強烈な勢いで蹴られた顔は、ひょっとこの如く崩れた顔芸を披露する敵。
『おりゃあああ!!!!』
地面に打ち付けられた肉体に容赦なくのし掛かった俺は、お前の本気を見たいんだよ!!そう何度も何度も拳で教えこむ。だが、敵の様子がおかしい。どんどん、敵は運動場の砂と同化するように、地面へと飲み込まれていく。殴り込んでいく箇所にはアザや血が溢れるどころか、殴っていく頬からは砂が飛び散るのみ。
やがて肉体は運動場の砂と同化するように溶けていった。
『おい、ガキ!!今すぐ校舎の中に隠れろ!!』
恐怖でもう救いの声にしか反応できない様子でトウクマは、急いで校舎の中につながるドアの方へと走っていく。だが、すでに遅かった。同時に渦を巻いていく砂の嵐は、そのまま少年に向けて拳の形を描いた砂の塊に呑み込まれる。その威力で少年は砂のボールの巻き添えを喰らった挙句、校舎の壁面と強く衝突する。その威力はそのまま付近の壁面を粉々にしていくと同時に、地震と似た震度を校舎中に響かせる。
やがて砂の渦を描き出した敵は人間の上半身の形をしたフレームを浮き上がらせる。
『さあ、来いよ!!』
俺の挑発に乗った砂男はあっさりと視線を向ける。7メートルくらいの巨大な上半身は思い切り、俺に目掛けて拳を打ち込む。バク転した回避技で、その攻撃に対するダメージは0。地面に振り下ろした勢いで砂埃が起こるも、そんなのお構いなし。そのまま敵の腕に沿うようにバランスを保った重心で、駆け上っていく。そのまま手からくり出したハンマーで、砂男の顔面をまた打ち付ける。今度は砂で描いた顔はクレーター状の穴ぼこを生み出し、大きく校舎へと体制を崩す。その反動で校舎は、また城壁を打ち壊していく。今度は小学生の悲鳴がセットで付いてくる。
『おい、出番だぜ!』
この不穏な種をきっかけに応援を呼んでおいてよかった。そう笑みを浮かべる。彼女は俺のSOSに駆けつけるように、日光の光で、シルエットと成り代わった影を生み出しながら、屋上から飛び降りる。そのまま、手に持ったハンマー状の武器を手にしながら、砂男の頭上へと目掛けて急速に落ちていく。攻撃を定めたハンマーは頭を粉砕するように砂男の頭部を破壊する。打ち付けた衝撃で、四方八方に飛び散った砂粒に裾で目元を覆い隠す。地震の揺れに近い振動で、敵は一つ一つ崩れていく。支えていた身体も粉状に崩れていく塊に体の原型を失っていく。これ以上の反撃を見せずに大人しく敵は去っていったようだ。
やっと終わった。よし、次は例の少年の確保だ。
* * *
無様に倒れているポーズ。微かに見えた視界を頼りにする細めた目元を突きつけるトウクマ。
『助けてくれて・・・ありがとう』
そう言葉を呟くも、俺が向けたスタンガン銃で少年の意識はプツンと気絶させた。