Episode4 12.18(新キャラside)
第2新京東と呼ばれる都市にて。
大きなドームに囲まれた内部は、かつて発展していたような高層ビルがいくつも並んでいる。ドームに描かれている側面には、大きな役割を担っている。昼頃は、太陽の光を取り入れるため純透明なガラスを通して空の様子が拝める。そして、夜頃はまるで完全に外と断絶し、ホログラムとして夜の映像を映し出している。
そんな不思議な空間にはもう慣れたもんだ。
* * *
12.18の朝
『朝ごはん、できたぞ!!』
低い声の中にも優しさ溢れる雰囲気で起こされる。ゆっくりしばらく閉じていた瞼を開くと、黒いスーツ姿を身につけた、いつものかっこいい父が立っていた。
『ううう・・・・おはやます』
まだ寝起きで頭がぼーっとしているのか、僕は半目でゆっくり身体の上体を起こしていく。
『後ちょっとでクリスマスなんだから、頑張れ!ここでへこたれてたら、サンタさんが来なくなっちゃうぞ』
『サンタさん!!!』
そう、父の口から告げられた"サンタさん”という言葉に、恐る恐るしか動かなかった体は、あっという間にベットから身軽に脱出していた。
『あ!!侑芽!そこに、昼の弁当作っといたから』
『ああ、ありがとう!!』
父の手助けに感謝を示す母さん。微かに見えたのは、警察手帳をコートの懐にしまう母さんの姿。そう。僕の母さんは刑事さん。そして、スーツの襟元につけている円形のバッジ。黄金の如く輝くそのマークの象徴から、父さんは大臣の証であることがわかる。そして、僕はドーム内で暮らす小学生、トウクマです!!よろしく!!!
* * *
綺麗な色合いをした目玉焼きにベーコンを挟んだ上にレタスを乗せる。そしてその上にほっかほかのパンを挟み込めばサンドイッチの完成!!それを頬に膨らませるほどの早さで食べ進める。
『そんな急いで食べるな!まだ時間はあるから』
その食べ急ぐ姿に、少し笑みを浮かべる父。低く、覇気ある口調には威圧感や怖さを強調しているが、どれも表情でそれが優しさだと感じれるものがあった。
『父さんは・・・今度いつ休みなの?』
『今度?うーん。どうだろうな』
僕の一言に、なかなか素直に返せない様子。
『悪いけどな、父さん、この頃仕事が立て込んでてな。しばらくは無理そうだ』
『クリスマスでも無理なの?』
『そうだなー。でも、クリスマスまでには何とかする。約束する』
そう、爽やかな笑顔と共に、突き出した小指。指切りゲンマンの合図だ。僕は父との約束を信じるように、父が立てる小指に自分の小指を絡める。
『約束だよ!!』
* * *
食事、支度を済ませて着いた学校。僕を取り囲むような正門を越えれば、大学のような綺麗さ、敷地を持つ小学校が見える。門前に刻まれている彫刻には"本宮小学校”。辺りには、黒い制服を身につけた生徒たちがはしゃぎながら、靴箱の場所へと走っていく姿が見える。
* * *
僕の教室は3階。4年2組と書かれた教室だ。
『おはよう!!!』
明るく声をかける僕に、何人かのクラスメートは笑顔で応える。あの太っちょの少年を除いて。
『うわ!!ボンボンのデブクマが来やがった』
小学生なりの太い声で、軽蔑と侮辱を込めた目を突き出す。だが、その彼に言い返すどころか相手にもしない。だって、相手にしていたら僕が疲れるだけ。なんのメリットもない。そう自分の気持ちで律した僕は、そのまま教室のドア付近に位置した席へと座り込む。
『相変わらず、人の愚痴が懲りないのね』
僕の隣には、太っちょガキの態度に嫌悪感を示す少女が座っていた。綺麗な黒色で癖毛のないロングヘア、ほくろも肌荒れもない色白の肌に、ふっくらとした頬が幼さを見せる。
『トウクマ君も!!あんな奴、やり返せばいいのに!!』
僕のことを気にかけてくれる少女は、”七奈羽”と書かれた縦型の名札を身につけて居る。彼女のいう通り、1回ぐらいはやり返した方がいいかもしれないが、それでもやり返そうとは思わなかった。なぜなら・・・
『相手にするのが、馬鹿馬鹿しいからやり返さない』
そのまま僕は、茶色のランドセルから必要な教科書やドリルを机の収納箱に収めていく。
* * *
その静かでどこか大人びた横顔はまさしくお偉いさんの息子、そのものだった。だが、彼にも欠点はある。
* * *
算数の授業にて。12月までにやるべき範囲は終わったようだが、まだ時間はある。何をするんだろう?
その時、眼鏡をかけたおじさんの先生に言われたことは”今まで、ペケされた所を直す"ことだった。いわゆるドリルを終わらせること。
『じゃあ、今まで直せていない問題は青丸もらうまで、解き続けるように!!それが終わった人は冬休みの宿題をするように』
僕の周りにいる生徒たちは、同じようにある程度使い古されたドリルの開く。だが、その手直しのスピードも、先生に見せに行くスピードも圧倒的に周りが早い。さすがに周りの離席率が高いせいか、僕は焦り始めた。その焦りは、額を熱くするように体温が上がっていくほど。何度も空いた箇所に計算をするしかなかった。一番心に落ち着きを失うのは、計算は合ってるのに、間違いだと判断された問題だ。くっ・・・どうすれば・・・
『あのさ、ナナハさん』
ついに、自力で解けないと判断した僕は、隣の席に座るナナハさんに声をかける。
『うん?』
『ここの問題、教えてくれる?どうやっても分からなくて・・・』
そう、彼女に見えるように何度も解き直した形跡と共に、苦戦した問題を突きつける。彼女は僕の要望に応えるように、そこの問題を自分のドリルで再確認する仕草を見せる。その時・・・
『あ!ナナハちゃん!トウクマ君には一人で考えさせて。それも一つの成長につながるから』
一見、穏やかな口調には聞こえるが、完全に僕の裕福な生まれ育ちに嫌悪感を出しているのは瞳から感じられる。その嫌悪感を同じように抱く太っちょのガキもクスクスと笑い始める。僕は周りの人たちに突き飛ばされたように、再び自力で問題を解くことになった。
先生に目をつけられたことに、僕とナナハはそれぞれのやるべき課題へと取り組む。だが、訂正し直す箇所が多すぎて、僕の身体からは寒く冷たい空気が流れるも額から汗が溢れ出している。
すると、自分のことをしていたかのように見えた隣の少女・ナナハさんは、解き方を記載した白い紙を先生の見えないようにそっと手渡す。
『内緒だからね』
* * *
紅色の空に、帰宅後のチャイム。一斉に正門と裏門から黄色い帽子をした生徒たちの波が溢れていく。その頃、僕と少女・ナナハは登校の時とは違う裏門から、下校していた。この頃、彼女と仲良くなって下校の時は、一緒に帰ることが多くなった。
『今日は教えてくれてありがとう』
どこかで照れているのか頬を赤くしながら、ナナハさんにお礼を言う。直接、目を合わせることができなくても。それに、ナナハは満面の笑顔で微笑んでいた。
『どういたしまして!!!』
その後は、何気ない会話に盛り上がっていた。どうやら、少女・ナナハさんは、最近人気の韓国アイドルグループにハマってるのだとか。それもスタイル抜群の5人組で構成された女性アイドルグループ。
『ああ、あの曲なら有名だよね!よく聴くよ!!』
『本当?やっぱり、あのグループしか勝たないよね!!』
そんな熱量を感じる思いに、僕も笑顔で応えていた。
『じゃあ、ナナハさんは・・・』
『"さん"じゃなくていいよ!!トウクマくん!!』
『じゃあ・・・ナナハちゃんのクリスマスプレゼントは、そのアイドルグループのDVD BOXってこと?』
『もちろんよ!!!トウクマくんは?』
『え?僕は・・・』
突然、言葉が詰まる。せっかく親しく声をかけてくれたナナハちゃんが目に入ったと同時に、僕は別の人物に見られてるように感じた背後へと視線を向ける。しかし、そこには誰もいなかった。
* * *
無事、塾の講義も終えた後は、そのまま真っ直ぐ家に帰っていた。なるべく人通りの多い道を選ぶようにはしてるものも、5時、6時でこの真っ暗さはもはや、夕方が亡くなった世界のよう。それにしても、塾は今日の分を機に、しばらく休みが続く。そんな状況に自然と笑みが溢れていく。あとは手紙で送ったプレゼントを楽しみにするだけ。僕はなんだかんだで、幸せなひと時を過ごしていた。
* * *
『ただいま!!』
そう、勢いよく玄関を開けた。と言っても、今日もいつも通り、誰も帰って来てないか・・・うん?そう頭の中で認識してたはずの情報は、なぜか父さんの靴が玄関にある。
『パパ?』
『ん?何だ?帰ってたのか・・・』
何事もなかったような表情で、父が玄関に現れた。
『あれ?クリスマスまで早く帰って来れなかったんじゃ?』
『あ、ああ・・・それが、予定より早く終わってな』
『じゃあさ。遊ぼうよ!!!』
僕の予定は大きく変わった。元々、家で一人で遊ぶ予定だったのが、父と一緒にマルチプレイのゲームを楽しんでいた。土管の兄弟が繰り広げる試合をしたり、カーチェイスしたりと。夜遅くに染まっていたから、外で遊べなかったのは残念。だけど、母も父もいないから、寂しい日になると思ってたのは勘違い。
* * *
『今日はありがとう!!』
気分の良い感じで寝れるのは久しぶり。そんなことを笑顔で表していた。そんな僕を寝かしつける父も笑顔で応えていた。
『いいさ。お前はいつも頑張ってるんだもんな』
そう、皮膚が厚く、大きな手が僕の頭を包み込むように撫でてくれる。
『さあ、もう寝なさい』
その言葉とともに、フカフカの布団を被せてくれる。まだ父の温もりを感じる手。そして脳裏に焼き付く父の優しい言葉。それと共に、今日のいい思い出が夢のように蘇ってくる。
そんな素敵なことを考えながら、眠りにつく。深く、深く・・・
* * *
意識が遠のいたはずの僕は、ゆっくり閉じかけていた瞼が開かれていく。父の部屋から聞こえる話し声だ。時間は・・・時計が進み三十分後の夜10時。
こんな夜に電話をするのは、珍しい。父は"仕事は仕事、家庭は家庭"と区切りをつける人だ。そう思いながらも、興味本位で父の部屋へと近づいていく。サンタさんに電話かな・・・なんて考えたり。でも、本当にそうだったりして!!僕は期待と共に、足音を立てないように、慎重に廊下を進んでいく。
『はい・・・計画通りに・・・』
ところどころ、聞き取れない箇所があるものも、一部の言葉が、僕の耳に入ってくる。ゆっくり相手にバレないように進んだ僕は扉の前に。興味本位で、そのまま耳元を父の部屋につながる扉へとくっ付ける。さっきよりは声が聞こえる。
『ええ。本物の父・月田 冬至は殺しました。無事、自宅へ潜入できてます』
身体は動いてはいながらも眠気で遠く感じていた意識は、今の一言であっという間に目覚める。月田 冬至は、父のフルネーム。僕の父を殺した?でも、確かに今日は容姿が全く同じ父と遊んだり、食事をしたはず。
『息子も完全に信じ切っているので、大丈夫でしょ』
じゃあ、僕は・・・父の姿をした別の人物と今日を過ごしていたの?