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Episode4 12.18 (ミヤビside) 修正版

第2新京東と呼ばれる都市にて。

大きなドームに囲まれた内部は、かつて発展していたような高層ビルがいくつも並んでいる。ドームに描かれている側面には、大きな役割を担っている。昼頃は、太陽の光を取り入れるため純透明なガラスを通して空の様子が拝める。そして、夜頃はまるで完全に外と断絶し、ホログラムとして夜の映像を映し出している。


そんな不思議な空間にはもう慣れたもんだ。


*  *  *


体全身に伝わる水の冷たさ。そして揺さぶられるように、靡いていくる波。でもこの浮力で、あの時に起きた出来事が夢のように思えてきた。そして、屋内の天井に貼られたガラス張りの先には、明るく照らし続ける月が目に見えた。その色合いがどこか落ち着く。純粋までは行かなくとも、白に近い光はおれのクソみたいに汚れた心を浄化してくれる・・・ような気がした。


『そっれーーーー!!!!』


突如、頬を強く叩きつける水飛沫。


『クソ!やりやがったな!!』


せっかく浮き輪の浮力に頼っていた上体を起こした俺は、クミホに向けて鋭い水飛沫を仕返しする。


『キャ!!』


勢いよく顔面に襲いかかったスプラッシュ状の水に、咄嗟に目を瞑る仕草。そして、素に戻ったような乙女な声。めちゃ可愛い。いつも、任務の時に見せる姉貴肌とは大違いだ。何より、綺麗な曲線を描いた身体のラインに、フィットした青色の水着がセクシーな女性へと進化させる。ウッホ!


『おい!目つきがエロジジイになってるぞ!!』


つまんねえ現実へと追い出す男の声と同時に、後頭部に平手打ちをお見舞いされる俺は我に帰った。振り返った先には、鍛えられた筋肉質な体型を見せるヒョウガの姿。出会った時はヒョロヒョロだった体型もこの半年の過酷な試練で変わった。メンタルも弱々だったのにな。そんなことがよぎりながらも、俺は彼に言葉を突きつけた。


『目つきがエロいだけで、まだ何もしてねえよ!!』

『おいおい!!まだって!!お前、人の女に手を出そうとしてんのかよ!!!』


そう言い返してくるヒョウガの言葉と舐め腐った態度に、俺は眉間にイラつきの印を刻んだ。人の女だと!!"それは過去の話だろ"と突き出す前に、落ち着きのある口調でクミホが割り込んでくる。


『ミヤビくんだったら、全然いいけどな〜』

『え!?』


思わず、俺とヒョウガが息の合うタイミングで、クミホへと視線を向ける。


『いいと言うのは良いってこと?』

『うん!!ミヤビなら、私の彼氏になってもいいって()()


その時に見せる彼女の頬杖を突く姿が眩いほど光り、俺は完全に頬を赤らめていたに違いない。もう好きだ!けど、またヒョウガが口を割ってくる。


『お前には、彼女のコウがいるだろ!?』

『もうあんなの元だし!!!』


せっかく綺麗な顔立ちをしたクミホの表情は、"コウ”の名と共に目を細め、口を尖らせた。


『まだ、ドーム内の人間とは分かり合えねえか・・・』


そんな独り言を呟き、プールの中で浮かんだ俺は空を見上げる。その時・・・


『分かりたくもないな!』


俺の言葉に激しく反応する女の声で察した。噂をすればだ。一応、確認する程度の気持ちで横目に移した先には剣幕な表情で仁王立ちを披露するコウの姿が。もちろんドーム内で異様な雰囲気を掻き消すために、ツインテールではない紺色のパーマに成り代わっていた。さっきのコウの愚痴に関する会話を聞かれていたのか、彼女の表情からすると不機嫌な雰囲気に覆われている。嫌な顔を晒すのは彼女だけじゃない。せっかくの可愛い女の子、クミホも鋭い目つきへと早変わり。


『これが、いわゆる夫婦喧嘩ってやつですか?』

『一緒にされたくない!』『一緒にするな!!』

場の空気を和ませようとした結果、二人合わせて、俺に怒鳴りつけるように返してくる。気遣いしたはずが、あっという間に空回り。その状況に自分を恨んだのか、逆ギレを披露した。


『ってか、コウは何しに来たんだよ!!水着にもならずに入り込んで』

『お前に仕事だ』


あ、最悪だ・・・


*  *  *

12.18。

数々の試練を超えて、着いた学校。俺たちを覆うくらいの正門を越えれば、大学並みの綺麗さ、敷地を持つ小学校が見える。門前に刻まれている彫刻には"本宮小学校”。辺りには、黒い制服を身につけた生徒たちがはしゃいでいく姿。最近の奴らは、大層な生活送ってくんのか。


*  *  *

これは7時間前に戻る。

『標的はこいつだ。』


プールサイドの白いテーブルに置かれたタブレット。そこには、標的であろうスーツ姿の男。パッと見の印象は、おでこを見せたバックヘアに、鋭くキリッとした二重に、ワイルドなヒゲを蓄えている。前頭葉が発達してるのか、デコが突出した輪郭が顔立ちが良いと認識させる。


『こいつ・月田冬至つきだ とうじを脅すために、まず情報収集してほしい』

『脅す?』


俺の疑問にピリオドを付けるために、スーツ姿の男からスライドしたもう一枚の写真を見せつける。


『月田 トウクマ。この男の息子だ。このガキに近づいて、父の冬至を利用する計画を練る』

『と言うことは、俺の能力を使って、この子供に変装しろと?』

『とりあえず1日目はこのガキの行動範囲を確認しとけ。成り切るのは、次の日だ。あと・・・』


また横にスライドした画面には、別のガキが映り込む。


『明日は、コイツになりすませ。万が一の時に、何日か通えない体にしといた』


は?その言葉に少し引っかかるものがあった。


『何日か通えない体って・・・』

『子供にもそんなことするのかって言いたい顔だな。もちろん・・・』


次の言葉に備えるように、テーブルに両手をついた彼女は前のめりで迫り、威圧感を与える。


『ドーム内にいる奴だったら、何でも利用するし、何回でも殺す』


*  *   *


そんな暗く冷めた目つきと暗いトーンの言葉が蘇ってくる。いや!!今は任務に集中だ。あのガキを観察すればいんだな。今は算数の授業。課題は眼鏡をかけたジジイに言われたことは”今まで、ペケされた所を直す"ことだった。


例のターゲット・トウクマの周りにいる生徒たちは、少年と同じようにある程度使い古されたドリルを開く。だが、その手直しのスピードも、先生に見せに行くスピードも圧倒的に周りが早い。さすがに周りの離席率が高いせいか、例の少年は焦って何度も、空いた箇所に計算をしているのが背中からも伝わる。


『あのさ、ナナハさん』

ついに、諦めかけていたのか、その少年は隣の席に座る少女に声をかける。


『うん?』

『ここの問題、教えてくれる?どうやっても分からなくて』


そんな会話が微かに聞こえてくる。どこの問題がわからないんだろうな?


『あ!ナナハちゃん!トウクマ君には一人で考えさせて。それも一つの成長につながるから』


一見、穏やかな口調には聞こえるが、完全にトウクマの裕福な生まれや育ちに嫌悪感を出しているのは瞳から感じられる。その嫌悪感を同じように抱く太っちょのガキもクスクスと笑い始める。逆に、後ろのぼっちゃり少年は隣のドリルを奪って、写しているだけなのに、先生はそれを見ぬ振りをするだけ。そんな状況に、生徒や先生の反応やポジションが把握できた。このデブにはある程度罰が必要なようだな。あ!いいこと考えた!


*  *  *


俺のいい考え。それは5時限目に起こる。5時限目の先生には悪いが、この算数準備室でしばし眠ってもらおう。


『ごめんな。人生で1回してみたくてな』


そう。それは先生に成り済ますための服装に着替え、見た目を本物にコピーしていく。目から入ってくる情報だけ、先生の髪質、シワの数、顔の輪郭を完璧にコピーすることができた。あの時に見せた怪物の力を応用したら、こんなこともできる。俺がしたいことっていうのは、完璧なコピー体になってから授業に挑むことが絶対条件。


*  *  *


『はーい!みんな席に着いて』


やべえ。俺が今、小学校の先生になってる。どうせなら。若手の男に変身したかったが、5時限目の先生になり切るしかない。ちなみに、その先生はどんな容姿かって?長年、勤めていた女性の教師だ。


『えっと・・・どこまでやったっけ?』


その振りも、先生あるある。俺はそのあるあるを楽しむように、一番前に座る女の子に授業範囲を聞く。えっと・・・やるのは社会の温かい地方の暮らしについて・・・か。了解。さっそく、手に握る白いチョーク。まだ長めに残っているチョークの手触りはツルツルしている。この感覚、懐かしいな。


まあ、最初に書き込みのは、今日やることのテーマを左端から書いていく。あれ?なんか字汚いな。そう思ったのは俺だけじゃない。前の席に座るガキどものヒソヒソ声から、俺と同じことを思ってるのは見当がついた。


*  *  *


約20分が経った。そろそろ俺のしたいことを実行していくか。


『じゃあ、今日は18日だから18番。じゃあ、デブの・・・』


やべ!教師なら絶対言わない悪口を言ってしまい、真面目な子は俺の暴言に顔をしかめ始める。


『失礼、じゃあ・・・・金田 ユウセイくん。答えて』


そう。この名を持つ人物こそトウクマのいじめっ子であり主犯。俺はこいつにいい罰の与え方を考えた。


『分かりません!』


自信満々に、ドヤ顔を披露するその表情。そう言う態度を見せるなら・・・こっちも反撃と行こうか。


『考えて。あなたが何かしら答えるまで先生待つから』

『は?』


思わない言葉に、少し動揺を見せる仕草が泳がせる目に現れている。


『じゃ・・・じゃあ・・・栽培・・されてるのはレタス?』

『違う』


その後も、静かな雰囲気と先生が金田から視線を外さないことから、当たるまで答えないといけないことに勘づき始める。その空気感によって、さらに泳いだ目と横に助けのサインを送り出す。さすがの焦り具合に、答えがわかる隣の女の子が、教科書に指を指す。


『サトウキビ・・・です』


何かが詰まったように口調で、苦しむ姿。デブな脂肪が詰まっているせいか、汗も人の倍流している。はあ、やっぱクズを痛めつけるこの感覚、マジ最高。


*  *   *


『じゃあ、この問題は・・・金田 ユウセイくん』


予想通りすぎる反応に、思わず笑みが溢れる。またかよ!!っていうその表情、たまらない。


*  *  *


『じゃあ、この問題を・・・金田』


これで同じ生徒を当てるのは3回目。周りの人たちも視線が金田と俺に行き来している。


*  *  *


『さすがに違う人当てるか、じゃあ金田』


*  *  *


『次当てるのは・・・金田』


*  *  *


そんな束の間の遊びを、その日の夜のバーで明かした。


『それを連発したら、さすがに怒鳴り散らかしてさ!!あははは!!!』


その話を、仲間達に披露したら、笑み溢れる瞳と大笑いした時に開く口元。


『やっぱりミヤビは最高だな』


いつも、俺にケチをつけるヒョウガも、これには賞賛の声を漏らす。


『本当それ!!』


クミホなんか、涙が出るほど、大笑いしてくれた。いつも、この雰囲気を壊すのは無表情のコウ。俺の話なんて、くだらないと見せるサインが、無言で酒を飲み干す横顔から感じ取れる。


『で、ちゃんと標的の観察はしたんだろうな?』

『そりゃ、もちろん!!明日は変革を起こす次の一手にしましょうや』


俺がコウに突きつけた酒のガラスに、彼女も乾杯の印を示した。


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