表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/22

Episode3 この世界を生きてやる!!

『おいおい、どうすんだよ!?あんなことしたら残りの奴らがここに攻めに来るぞ!!!』

そう一人の一般市民が、額に冷や汗を垂らしながら、コウに訴えるような喚き声をケチ鳴らす。

『過ぎたことは、もう変えられない』

だが、そんな彼の言葉で収まるわけもなく、廃校に逃げ込んだ人々たちに責められていく喚きはさらに溢れ返る。


『あーあ。すごい責め立てられるね』

『そもそも、お前が大人しくあいつらの元へ連れて行かれれば良かったんだよ!!!』

そう、事の発端である俺に怒りの矛先は向いていく。

『それは、言い過ぎだよ!!』

ヒョウガの怒りに女性が介入することで、情緒不安定な彼と衝突を繰り返し、互いに築いていた関係が壊れていく様子が目に見えた。そんな状況がしばらく続いた後、なんとか怒りの嵐は過ぎ去っていった。



*  *   *


また俺は、初めて連れられた時と同じように、紐で手足を結ぶられた状態で監視されていた。交代制のようだが、次にきたのは、ヒョウガの発言に水を差したあの女だった。姉貴的な美女で、優しさある瞳とロング髪が見事に似合っている。と言ったのは第一印象。真面目さとルックスのどこかに備えられたカリスマ性に魅了されていることも感じ始めた。そんな彼女の容姿にも性格にも見惚れてる間に、俺は初めて声をかけられる。

『あなたがどういう人間か知らないけど、このまま武装集団に連れ去られなかったことに関しては、正直良かったと思ってる』

『そう・・・か』

『でも、コウが自らこんなことするなんて・・・』

そう独り言並の声量で、僅かながらにも本音を吐露していた。それにしても・・・

『コウという男は・・・一体何者なんだ?』

そう呟く俺の言葉に、純粋な視線が向けられる。

『・・・出会った時には、あの武装集団・ミュウからみんなを守るリーダーだった。でも・・・この頃は絶対、自ら危険な攻撃や奇襲はしないように避けていた』

『じゃあ、俺が彼を変えたと?』

『かもね・・・あ!』

突然、何かを思い出したかのように、大きな声量が教室内に響く。

『あなた・・・コウのこと、男って言ってたよね?』

『おお・・・』

『実は、女性だからね!』

次の瞬間、驚きの声は廊下まで響いていく。

『ええええええええええええええええええええええええ!!!!いや、どう見ても!!』

『なんでも見た目じゃないよ、君、名前は?』

『ミヤビっす』

『ミヤビくん。なんでも見た目じゃないですよ!!』

改めて、名指しで注意された。だがそんなことより、コウという女性との関わりを今振り返っている。今まで接してきた時のこと思い出しても、声は男の声に近いし、髪型も目つきも。それに胸元・・・・今自分の頭に浮かんだ一つのワードをかき消すように左右の頭を振りながら、次の話題へと話を変える。

『なあ、アンタ、彼氏とかいるの?』

俺的には、普通の質問をしたはずが、彼女は、鼻の下を伸ばすようにドヤ顔を見せつける。

『彼氏じゃなくて・・・彼女ならいるよ!!』

彼女?目の間にいる女性はどう見ても女性だよな?

『私は女だよ!!!』

少し、膨らませる頬や眉間に皺を寄せた仕草で、大体、彼女たちの関係に気づいた。目の前の女性とリーダーのコウはガールズラブということだ。

また俺の驚きの声は廊下まで伝わっていく。

『えええええええええええええええええええええええ!!!』


*  *  *


『おお!!!お前!!!!おじゃべりが過ぎるぞ!!』

絶妙なタイミングで顔を覗かせてくるのは、さっきまで噂にしていたコウという女。相変わらず、真っ直ぐな眼差しは真面目さを表し、伸びきった髪の長さは努力や苦労の象徴を表している。俺と女の会話を盗み聞きしたのか、やけに(俺に対し)動揺してることで、二人の関係に確信した。だが、あっという間に静まり返った空気を機に、コウは任務へと頭を切り替えていく。

『お前らに今から頼みがある。さっきの反撃でやられた部隊をきっかけに、他の武装集団がここに奇襲をかけるかもしれない。だから、俺たちで先に本部を鎮めるぞ』


『え?マジで言ってんの!?』


思わない一言に、女性は、さっきまでの優しい口調は消え去っていた。教室のドア付近には、ヒョウガという奴と弱そうな大人たちが不安な表情と共に、コウのとこへと歩み寄る。


『ほら!クミホでもこの反応だ!?そもそも、俺たち、まともに戦ったことがないんだぞ?』


そう、愚痴をこねるヒョウガは、ドアに背もたれる態度でコウの考えを撤回する。それは絶対あり得ないと言わんばかりの腕組みを示して。


『なら!!お前らの好きらにしろ!!俺は止めない!!』


コウの張り上げた声で、駄々をこねていた大人たちの小言はあっという間に消え去る。自分のプライドを貫き通しそうなヒョウガも思わず、ビクッと体を震わせる。


『だが、このまま動かず、ここで死んでくのか?敵に感づかれて、死ぬことになっても?そうなるぐらいなら、抗って抗って、このクソみたいな世界を生き抜いてやる!!!それぐらいの覚悟が俺たちには必要だろ!』


そう、真っ直ぐに仲間たちに突きつける瞳とエラを突き出すかのように歯を食いしばった筋肉が微かに見える。その威厳はまさにここのリーダー像を見せていた。


それに対し、おどおどした歩幅でコウとの距離を詰めるヒョウガ。さっきの威勢は夢だと思うくらい小鹿サイズに丸まっていた。いわゆる口だけお達者なタイプだな。そう俺の中で彼にレッテルを貼り付けた。


『なんでだよ!?コウだって、前まで戦わず隠れてる方がいいって言ってったじゃないか?』


また、相手の怒りをかうことを恐れながらも、コウの考えを必死に改めさせようとする。そう反撃を返したヒョウガの言葉に、コウは俺へと鋭い視線を突き出す。


『こいつは、相手が突き出す銃を前にして立ち上がったんだ。それを見て・・・俺も変わらないといけないって思った。そもそも、俺たちが行動していれば、あの子供、タイキくんも救えたのかもな』


これ以上、言葉にしてもコウの意志が変わらないことを痛感したのか、深い溜息と共にヒョウガは教室から去って行った。



『俺の本音を聞いた上で、付いてくる者は?』



*  *   *


結局、あの女・コウに付いてくるのは、クミホ、ヒョウガ、そして捕らえられていた俺だ。紹介が遅れました。クミホというのは、さっきガールズラブの話をしていた見張りの女性です。つまりクミホとコウは恋人関係にあると。確かになかなかお似合いの二人だ。ぜひ結婚式を開くなら、俺もお祝いしたいです。と心の声で語っていた。話は戻して。さっきの戦いぶりに驚いたのか、(戦う)素質があるということで、俺は無理やり連れて来られた。なんだかんだ、反対しているサインは嫌な表情に表れているヒョウガも、コウの指示には素直に従っている。いや、従わざるを得ないって感じだ。


相手の本部までどうやって来たかって?それは、敷地で殺した武装集団の装甲車から見つけた無線と紙切れのようにボロくなった地図を元に、導いた。まあ、仲間になりすまして、無線で聞いた方が圧倒的に効果的だ。バレる心配はあったものも、酒で酔ってたのか、すんなり本部の場所を教えてくれた。



挿絵(By みてみん)



そして行き着いたのがここ。武装集団の本部というのは、元々、陸上自衛隊基地に使われていた敷地。辺りには高層ビルのような建物がなく、最低でも4階建ての建物が何箇所かに配置されている。そして、2箇所に運動場のようなものが、俺たちがいる隣のビルから微かに見える。兵士の様子は、敷地の辺りを巡回している武装車が3台と正門で見張る2人の兵士。運動場には、何台もの武装車と兵士が寒さに負けぬよう所々、焚き火をしているであろう光が輝く。


『大体の配置、状況はわかった。問題はどう侵入するかだ』


俺たちの気持ちを揃えるように、これからするべきことを指し示すコウ。でも、正直こういう作戦会議が退屈でつまらない。それにしても、コウ、ほんとに女性なのか。そう確かめるべく、俺の視線はゆっくり彼女の胸元へと・・・


『おい!聞いてるのか?』


俺の知りたい欲は、コウの声とともに掻き消される。


『俺一人で、なんとかする!』


その気持ちを言葉として相手にぶつける。もちろん、皆は承諾しようとは思わない。


『お前、バカか!!!一人で勝手に死んでいくようなもんだぞ!』


そう、一番俺のこと毛嫌いしているであろうヒョウガが首を突っ込む。だが、グダグダ計画を立てる方が面倒し、イラつく。


『いいさ!前も死にそうだったけど、生き延びてきた。きっと運が良いんだろうな』

『そうだとしても、一人であの中を突っ込んでいくのは無理がある。それにお前が失敗したら、連帯責任だぞ』


コウは落ち着いた口調に込めた警告を突き出す。だが、そんなのお構いなしだ。

『その時は、一緒に死んでくれ!』

元気満々に溢れた笑顔とそれにそぐわない言葉に思わず、みんなは眉間にシワを寄せた態度を見せる。

『は?』

そう反応するも、その時にはすでに遅し。気づけば、3人だけが取り残された。



*  *   *



周囲を何度も回る武装車。とはいえ、武装車3台で巡回するには大きな基地。武装車から死角に入ったことを感覚で察知した俺は、そのまま助走をつけながら、高い障壁を軽々と飛び越える。無事、2本の足で着地した俺の身体能力。やっぱり、明らかにあの日から俺の身体能力がずば抜けているように思える。まあ、今はそんなことはどうでもいい。だが、身軽な感覚を覚えてしまえば、それが武装集団にも効くのか試してえわ。



そう。これはただの特攻じゃない。レベルアップした俺の力が、雑魚にどれだけ通じるか早く試したかっただけ。



足音をたてない忍び足で運動場へ近づくようにはするものも、期待が高まるばかり。早く誰かを痛めつけてやりてえ。そこで視界に入ったのは、生贄で拘束されたであろう人々が一列に並べられている。膝をつき、目隠しをされた状態。中には死を覚悟した者もいれば、泣きっ面で子供みたいに嘆き出す者も。


『お前、うるせえぞ!!!』



警告のサインとして、膝辺り一帯を銃弾の穴で埋めつくす。それと同時に鳴り響く銃撃音に、思わず泣くのをやめる一人の男。だが、どっちみち数分の延命をしただけで、この後、殺されることに変わりはなさそうだ。生贄の前に立ち、銃弾を装填する姿がまさにそう言っているようなもんだからな。


なら、ここで披露するか!!!


『おい、生贄ばかり増える日が続くとは思うなよ!!!』


声の方向性にすぐ察知できないことに思わず、辺りを見渡す武装集団たち。あちこちに移り変わる視線の先にはやがて、(運動場で駐車されている)武装車の上に立つ俺に注目が集まる。一斉に視線が集まった瞬間にドカンだ!!!


俺は静かにテイクダウンした兵士から奪い取ったアサルトライフルで連射をお見舞いする。次々と倒れていく兵士たち。無様な表情で倒れていくのは、まさに爽快だ!!次々と繰り出される銃弾に急いで物影に隠れるもの、全くの意味を持たない。何せ、今度は武装車の中から発見したグレネードランチャーでどデカい爆発音を轟かせているのだから。いくら武装車の陰に隠れたとは言え、車に目掛けて放たれたら、陰にいた兵士も爆発に巻き込まれる。


今度は、俺が放っていない発砲音が後ろから聞こえる。その感覚に頼るように、急いで背後へと視線を移す。その先には、もはや手が1本入るくらいの距離感まで詰めたグレネードランチャーの弾が、俺の顔面へと目掛けて撃ち放たれてしまう。



次に意識が飛べば、真っ白な世界。しばらく揺さぶられるような感覚が続くが、まだ死んではいない。そう神経が俺の脳へと伝わらせる。だが、なんだ!? もっと身軽になるどころか、人体を超えた身体へと変形していく。その胸糞悪い感覚に呼び起こされるように見開いた俺の目には、人間の手とは思えない鋭い爪と黒く硬質な皮膚を身に纏った怪物の手をしていた。背中も何か違和感だ。左側は普通なのに、右の背中にはバサバサと翼のような風力が肌を伝わらせる。


『なんだ・・・・怪物だ!!!』


それだけじゃない。そう怯えた兵士も小さく見えるくらい身長差が生まれている。屈強な体格と高身長な兵士のようだが、俺からは小さく見えるくらい背丈が高くなっている。俺の外見に怯えて銃弾を打ってくるも、ほとんど意味を成していない。俺はこの人体離れした体で容赦無く相手を引き裂いた。



*  *   *



『よし!!武器は確保した。このまま、突っ込むぞ!!』


付近を巡回していた武装車を借り、その堅いボディに頼りにそのままゲートを越え、運動場へと突っ込む。だがすでに運動場は砂嵐を巻き起こし、何も見えない。さすがの状況にブレーキをかけるコウ。すると、ボンネットを伝って、飛び散った誰かの血。


『うわ!!』


その奥から何が出てくるのか、息を呑む。しばらくして視線の先に映ったのは、敵をドミノ倒しのように倒していく黒い怪物。一見は二足歩行、鋭い爪、そして剥き出した歯からは人狼のように見える。だが片方の背中から生えた人の手みたいな形をした大きな翼と鋭い目つきは、人狼という定義を否定する。同時に鎧のような硬質な皮膚は、騎士にも見えた。もうこれは・・・怪物としか言えない。


それだけじゃない。人間とは思えない怪力で兵士を20メートル先の建物まで吹き飛ばしていく。野球選手のボールのスピードなんてとうに超えている。羽の振り下ろす勢いで、平行に保っていた武装車はバランスを崩しながら、兵士を下敷き。さらに、手元は相手の銃をコピーしたのか、狼のような鋭い手から銃の形へとスライム状に蠢く過程で変形する。そこから放たれる銃弾は本物と変わらない。一体どこから弾が装填されているのかわからない。そんなことを考えてる間に本部は炎の海。


『ほら!!勝っただろ!!!』


そう喚く怪物は次第に人間の姿・ミヤビへと変身をする。


『あいつ!!怪物だったんだ!!今すぐ殺さないと!!!』


いつもより1トーン高い声で恐怖を感じていたヒョウガは、俺とクミホに警告する。だが、クミホの考えは違った。


『ねえ、彼を仲間に入れよう。彼は最高のモンスターだ・・・あの怪物を仲間にできれば、このドーム外にいる兵士たちを全滅させられるかもしれない』


彼を仲間にすれば、この先、あのドームの中で暮らすのも夢じゃない。政府が俺たちを救う気がないのなら。武力行使で攻めるのみ。そう思っているようだった。それに俺・コウもウズウズしたいた。



これが、コウが指揮するレジスタンスグループ・MAD KNIGHT マッドナイトの誕生秘話だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ