3話 ヒョウガの見た夢
出演:ヒョウガ
『おーい!!目が覚めたか?』
呑気な声風こわぶりで語りかける男性の声。正直、爽やかではない30代くらいの声質にも思える。
俺・ヒョウガは重い重い瞼を開けていく。微かに開いた視界からとても眩い光が差し込む。それでも重い瞼を開いた。
『やっと目覚めたかー』
目の前の男に、俺は驚かざるを得なかった。だって死んだはずの人物が目の前にいるのだから。
『に、兄さん!!!』
『おー、分かるか。登山する麓前で倒れるなんてな』
『登山!?』
* * *
どうやら、俺は兄さんと登山することになっていたらしい。実際、過去に登ったことがある。でもあり得ない。この場所、この山は大気汚染によって入ることが難しくなっている。と言うより野生の変異者の住処にもなっている。何より信じられないのは、死んだはずの兄さんが隣に触れ合う距離で生きていること。
『じゃあ登ろうか』
兄さんはいつも呑気でマイペース。のほほんとした雰囲気で頼りがいはないと思うだろう。でも、なぜか安心感がある。それに俺は何度救われたことか・・・そんな兄貴の背中をマジマジと見続ける自分にどこか懐かしさを感じた。
『そんなに俺ばかり見てどうした?』
気づけば、兄さんにも俺の行く視線に違和感を持っていた。慌ててなぜかごまかすも、この現実を受け入れることができなかった。いや、夢なのか・・・
『兄さんさ、今日何日か知ってる?』
『何日?わかんねえわ』
『え・・・そうなのか』
兄さんから見ると、今日の俺は不自然なのだろう。彼から声がかけられた。
『どうした?なんか悩みでもあるのか?』
『いや、何でもないって。ただ兄さんと会うのは久しぶりな気がして・・・』
『そうだなー。お前と会えて嬉しいよ。でも・・・』
『でも何?』
『もうちょっと歳をとってからのお前と再会したかったな』
『何だよ!!それ!!』
兄さんは何が起きてるのか理解している様子だが、俺にはよくわからなかった。兄さんは何を思ってその言葉を言ったのか。でも明らかに俺と住む世界が違う。目の前、山から外側へと視線を向けた世界には色鮮やかな緑の自然。そして、その先へと展開されていく広大な街並み。飾りとして、明るく純粋な青空が俺たちを解放へと導いていく。
『なあ、ヒョウガ』
『うん?』
『お前、彼女はいるのか?』
『な、何だよ!!』
『お前には幸せになってほしいんだ。この頼りない兄貴からの頼みだ』
『悪いけど、そういうの興味ないんだ』
『コウさんが好きなのに?』
『は!?何でそれを!!!』
『ギャップがあって可愛いって・・・』
何でそれを!!!!そんなことが必死に脳内で駆け巡っていく。でも理性で兄貴の誘惑を断ち切った。
『彼女には彼女がいるの!!』
『あら、そうかい』
『何でちょっとオカマになるんだよ』
『じゃあ、モテたいか?』
『はあああ!!!!今日、兄さん大丈夫か!!』
結局、兄貴からいくつかアドバイスされた。モテるためには清潔大事。特に髭やすね毛には注意と。ある程度、体は鍛えること。そして最後に大事なこと。女心を理解すること。そんなことを語っていく。
でも、正直、コウさん以外を好きになろうとは思わない。同時に彼女から大事な人を奪おうとは思わない。だって彼女が一番幸せだと思う人生を生きてほしいから。
そんなことを話したら、兄貴には大笑いされた。
何を言ってるんだと・・・
すると、なんだ?急に兄貴は鼻をすすりながら、俺の距離からも見える熱い涙を流していく横顔が映る。
『急に泣いたりして、どうしたんだよ!!!』
『お前はいつも人の幸せを喜ぶだけで、自分の幸せを捨ててしまう。それが・・・兄貴としては辛いんだ』
『なんで!?そこまでして俺に幸せになってほしいと思うんだよ!?』
『ここは単なる夢じゃない。死者の世界なんだ』
『はあ!?俺はまだ死んでないぞ!!!』
『お前に・・・死期が近づいているということだ』
『・・・・・・』
それからのことはよく覚えていない。ひどく混乱していた。膝からついてかなり絶望していたように思える。
でも気づけば、山頂まで登っていた。夢だから都合のいい世界なんだろうと自分の気持ちを沈めた。次第に、自分の死についても冷静に考えられるようになっていた。
それより山頂から光り輝く紅色の夕日。そして純粋な色合いを描く空に俺は心を奪われた。
自分でこんなことを言うのは、あれだが・・・確かに自分の人生は他人の人生だった。
家族が貧乏なばかりに、大学へいく夢は絶たれた。家族が笑顔で暮らせるようになることを祈るばかり。その笑顔のためだけに、俺はいつもいつも仕事に熱中していた。仕事で働くときもそう。自分の昇進は家族の幸せへとつながることで、喜びを感じていた。もちろん俺の真っ直ぐな気持ちは、家族を幸せにできた。貧乏のレッテルからかけ離れた生活を送ることができた。なのに、自分は楽しくなかった。
今度は両親の夢を叶えようと思った。両親がやりたいと思ったことを。やっぱり、誰かの幸せが一番だ。そう自覚したのは両親が夢を叶えた時で、自分のことなんてどうでもよかった。
その頃にあの大きな大気汚染が引き起こされたのだ。
『俺は・・・自分の喜びを喜べない。でも・・・死にたくない』
『なら、運命を変えてくれ。頼む。自分の生き方を見つけてくれ』
そんなことが兄貴最後の言葉だった気がする。
* * *
『あああああああ!!!』
『急に叫ぶな!!ヒョウガ!!!』
ミヤビに珍しくキレ気味で返された。お楽しみ中を邪魔されたら嫌らしい。まあ、当たり前か。
っていうかさっきのは夢?兄貴と登山したのも、死者の世界の話も。それにしても、リアルすぎる夢だったな。
『どうした?ヒョウガ?』
部屋のドアから顔を覗かせるミヤビの鋭い目つき。
『いや、変な夢見たというか・・・リアルすぎるというか』
『怖い夢か?』
『え、、、、何でそう思う?』
『泣いてるの、気がつかねえの?』
ミヤビの言う通りだ。目元を軽く擦ると、目から滲み出て、溢れてきた涙が線を描いていた。そうだ。俺は死者の世界へ行ってたのか・・・
『なあ、ミヤビ』
『うん?』
『今度みんなでドライブ行かないか?』




