2話 クミホさんの推し愛
出演 クミホ、コウ、ミヤビ、ヒョウガ
視点:クミホ
ドーム内へとたどり着いたある日の出来事。
ドクンドクンドクン・・・今日は推しのコンサート・韓国女性アイドルグループ・キルガールの抽選が発表される日。
少し現実的な話をすると、大気汚染に塗れたこの日本に来ることは考えられないだろう。とはいえ、このご時世だからこそ、日本には希望を与えてくれる推しを必要としている。この苦しい世の中から少しでも解放されるように。もちろん韓国アイドルグループには、安全な配慮を徹底してるのだとか。
そのおかげで、推しを目の前で見れるかもしれない。あとは抽選が当たるだけ!!
期待と不安が渦巻く感情で、次のクリックボタンを押した。
* * *
『やったあああああああああああああああああああああああああああ!!!』
感動と嬉しさに満ち溢れた笑顔と声も自然と高鳴る。
『推しのライブ当たった!!チケット2枚当たったんだけど、行く人!!!』
『・・・・・・・』
『そこは、彼女のコウが行くでしょ!!』
ソファと同一化したミヤビは視線とフラつくように揺れる指を彼女に向ける。一斉にコウに集まる視線。
『な!!!私がか!?』
『当たり前でしょ!!コウさんよ。行かないなら、俺ミヤビ様が、クミホと浮気しちゃうぞ!!!』
さすがの恋心をくすぐられたせいか、鬼瓦な剣幕で私たちに鋭い視線と牙を見せつける。
『いくよ!!!』
『顔こっわ!!』『顔こええ!!』
* * *
そして当日を迎えた今日。私はラッキーだ。韓国アイドルグループをこの距離感で見られるなんて私の目はハートに埋め尽くされる。
『痛!!!』
強烈な皮膚の厚さが私の左肩に強くぶつかかる。喜びから苛立ちへと成り代わった視線を突きつけると、志望で埋め尽くされた2メートルの大男が、体当たりを仕掛けてきた。大男といえど、私の肩へと当たるには不自然だと思うくらい通路には余裕がある。明らかにわざとな攻撃だ。
『そこ!!座席じゃないんですけど!!!』
そう。完全に目の前で推しを間近で見るために、通路で止まる迷惑客だ。
『まだ、始まってないからいいだろ!!小せえことでうるせんだよ』
野太い声と見下ろされるその生意気な瞳に、私の顔は険しく鋭い態度へと挑み始める。その時、大きい力に引っ張られると同時に重たい城壁はあっという間に後ろへと尻もちをつく。"ドシン"と大男の尻から広がっていく振動の波紋。
『ちょっと邪魔』
『誰だ!!おしt』
大男の顔面にのしかかる靴底。さらにその足は大男の腹へと足跡を残し、隣へと歩み寄ってくるのはコウだった。
『ごめん、トイレ行ってた』
* * *
ついに始まるライブ。その時のワクワク感は心臓を飛び越え、奇声に成り代わっていた。若干、周りの人たちは、引いていただろう。でも、この感動は言葉に表現できない。また登場の仕方がかっこいいんですよ!!!
イントロのbgmが流れると同時に現れた5人のスタイルいいシルエット。くっきりとした体のラインと小さい顔つきは全体のバランスの良さを物語っている。
『きゃあああああああ!!!!!!』
そしてイントロからサビへと移行したキレのあるダンスとセクシーな歌声。女好きなコウならハマるに違いない。そう軽く視線を移すと、コウの瞳もハートを描いていた。そんな私の視線に、軽く気づくコウ。どうやら、コウが韓国アイドルグループに惚れてると言うメッセージを感じ取ったのか、弁解を求める泳ぐ視線があちこちへと描かれる。
『私が好きなのはクミホだけだからな!!!』
『別にコウが、浮気するなんて思ってないし、彼女たちに惚れてるのはわかってる。でもそれは恋じゃなくて、"推し愛"って言うんだよ!!』
『そうなのか・・・』
また視線は、舞台の上へと移り、推しアイドルたちの輝かしいダンスを目に焼きつけた。
* * *
視点:コウ
すべてのプログラムを無事終え、サイコーの空気感に浸っている夜。街は京東市辺りから放たれる光が暗い空へと届ける。まるで、俺たちはこの地で生きていると伝えるように。
『あー!!サイコーのライブだったな!!』
クミホはご満悦のようで嬉しい。歓喜の波になんて呑み込まれる人生なんて送ったことないから、私・コウもいい経験となった。夜道は静寂とかすかな電灯で道先を示していく。私たちはそれを辿るように歩いていく。
『なあ、クミホ』
『うん?』
『気の早い話かもしれないが、今日楽しい1日を過ごせて思った・・・・・この戦いが終わったら、クミホと結婚する』
『・・・』
あれ?嫌だった?
見上げた空に映った視線は、彼女の横顔へと移る。そこには、夕日なんて関係もない頬を真っ赤に染めるクミホの横顔があった。
『嬉しい・・・最近忙しかったせいか、私のことなんて気にも留めてないのかと』
『なわけないだろ?私が愛したのは、あなただけだ』
そんな気持ちはやがて大きくなり、触れそうな距離を描いていた手はさらなる距離感で、私の手を包み込むように繋ぎ止めてくれる。
『じゃあ、新婚旅行とかどうする?』
『それは気が早いだろ!!』
『いいじゃん!!夢は膨らむだけ、膨らむんだから』
そんな会話に私・コウも笑顔で溢れていた。
* * *
視点:ヒョウガ
地下の隠れ家にて。
『あああああああ!!!』
『急に叫ぶな!!ヒョウガ!!!』
ミヤビに珍しくキレ気味で返された。お楽しみ中を邪魔されたら嫌らしい。まあ、当たり前か。
っていうかさっきのは夢?それにしても、リアルすぎる夢だったな。
『どうした?ヒョウガ?』
部屋のドアから顔を覗かせるミヤビの鋭い目つき。
『いや、変な夢見たというか・・・リアルすぎるというか』
『怖い夢か?』
『え、、、、何でそう思う?』
『泣いてるの、気がつかねえの?』
ミヤビの言う通りだ。目元を軽く擦ると、目から滲み出て、溢れてきた涙が線を描いていた。




