Episode11 トラップ
月田冬至が乗ると思われる新幹線のナンバー・0821。
ヒョウガが偶然、駅にいる彼らに鉢合わせしたそうだが、護衛の数は五人らしい。その中で強そうなのが二人。一人は、長身の男。特徴は切れ目に、デコだしヘア、そしてエラの張った骨格。名前はテキトーに"ゴリラ"と呼ばせてもらおう。
二人目は小柄な女性。金髪ヘアに、キリッとした二重が特徴。愛想なさそうな表情の写真まで送ってくれている。まるで"反抗期の娘さん"みたいだ。
それより大きな問題を俺たちが抱えている。この頃、コウの態度に我慢できないクミホ。少年・トウクマの復讐心を利用して、今回の作戦の盾にしようとしている。そんなことを、延々と愚痴られた。クミホが暴走しないといいが、、、
それにしても、この俺・ミヤビがスーツ姿のサラリーマンになりすます日が来るなんてな。もちろん顔は変えて、座席に腰を下ろしている。周りの人からするとどこにでいる人。
新幹線に乗るのはいつ以来だ?白い壁や天井一面に広がると同時に、定位置に置かれた座席の構成。通路のデザインは、周りの空間に統一しながらも、遊び心を感じさせる色合いが床一面に広がる。
俺は、後方の窓側。辺りを見渡せる状況を確保することに重きを置いた。あとは、コウの指示を待つだけ。
駅、ホーム内を響かせるアラーム。発車の合図だ。俺は、それが降りることを許されないジェットコースターに思えた。いつもは殺すことに楽しみが上回る気持ちが、なぜか緊張感で埋め尽くされているる。
なぜだ?ガキの父が殺されたか?いや、今は考えるな!
* * *
日本の技術が誇れる新幹線のスピード。窓から映る光景が数秒ごとに切り替わっていくものに、しばらく心奪われる。そんな感動を一瞬で打ち切るコウからのメールが光り輝く画面が現れる。
コウの指示によると...少年・トウクマを囮に、二人のボディガードの誘導に成功。それをヒョウガとコウで仕留めるみたいだ。メールの文面から得た内容で、また束の間の安堵に埋もれる。まだ出番じゃない。
* * *
『おい!そこの少年!』
ガキ・トウクマが、3号車と4号車の連結部分へとたどり着いた。足音と物陰から通り過ぎる少年の動きに合わせて、急所へとみぞおちへと打ち込む。素早い速さで、手前のボディガードの首へと手刀を当てる。後方にいたボディガードは、背後から忍足で近づいていたヒョウガの拳でテイクダウン。
『よし!こいつらをトイレに運ぶぞ!!』
* * *
また、明るい画面と共に現れたコウからのメール。無事、二人のボディガードは始末できたそうだ。そろそろ出番かな。読み通り、俺とコウの二人で強い男。ゴリラの方を仕留めることになった。
また同じ作戦か。
コウは先ほどの手下をテイクダウンできたことに、手応えを感じてるのだろう。また少年を囮に、号車との連結部分へと誘い出す魂胆らしい。
* * *
ようやく立ち上がった視界に映る座席で和む人々。カップルもいれば、家族連れも。
* * *
今度、誘い込むのは、5号車と6号車の連結部分。つまり俺たちはそこで待機だ。
少年を餌に引っかかったのは、まさしく俺たちが標的にする相手ゴリラだ。そのゴリラがどう動くかは、5号車で待機していたクミホからの連絡が来るまで。視覚的な情報は、クミホのみで、俺たちは耳元で相手の動きを把握するしかない。
その時!!
『おいおい!!どこにいくつもりだ?』
低いトーンと生意気な口調。クリアな音でなくとも、そのくらいの特徴は捉えられる敵の声。その声が聞こえると同時に、少年の抗う声を荒げる。敵に掴まれたのか。
『このガキはそもそも誰の子だ?貧乏人の子供?いや、違うな。それともお偉いさんの子供?まあ、そっちのほうが近いな・・・まあいい、どっちみち殺していいやつだ』
そんなことを、グダグダ言っている。
その言葉で引き締められた少年の首元。同時に向けられた銃口。そんな絵図が脳内で描かれていた。その絵図のせいで、危険信号が心臓の鼓動音と共に高鳴る。だが、コウからの指示はない。
『待って!!子供を殺して、何の得があるの?』
今の声!?クミホが、ゴリラの行動に苦言を突きつけたのか!なぜか全身を駆け巡る変な汗たち。
『何の得がある?そうだな。環境大臣を殺そうとしてる暗殺者をあぶりだせることかな?』
そのまま、微かだが、銃口を突きつける時に鳴り響いた装填音。
任務とは言え、元カノに危機が訪れたことに、冷静さを失うコウの横顔が俺の視線に映る。
* * *
『もしかして、君がその暗殺者か?』
私・クミホに向けられるその銃口。いつ放たれるのか、分からない銃弾。だが、怯えることなんてない。この子を守るためなら、、、
『アンタが捜してるその暗殺者はこの私よ!』
『なら、お前を抹殺する!』
笑みをこぼした敵はそのまま、構え直す銃。トウクマくんも命を狙われる私を見て黙っていない。抗い続けるも、相手が回した腕の腕力で、首を締め付けられる少年は声も出せずにいる。
救いなどない。ここで終わる。そう深く目を瞑ると同時に、勢いよく跳ね上がる音が鼓膜を打ち破る。コウが放った銃弾か。私の横を掠めていった攻撃を躱すように、無駄のない動きを見せるゴリラ。彼の手には、まだ少年の首に回す血管の浮き出る腕が。
『おっと!!これ以上は近づかない方がいいぜ』
そう少年との頭部に距離のない近さで銃口が突きつけられていた。人質に取られたこの状況にコウもミヤビも下手には動けなさそう。
『さあ、ショーの始まりだ!!!』
さっきからニヤけた笑み溢れる余裕を見せるが、なぜそうなのか。その答えがわかった。こいつらすでに、私らの計画を知ってた。
私らのいる空間に座っていた一般人は成りすましだった。それは、一斉に席から立ち上がった彼らが、私・クミホに銃口を突きつけたのでわかった。咄嗟の判断でシートを盾に、伏せる。次の瞬間に、撃ち放たれていく何発もの銃弾と抉られていく床や壁は大きなクレーターを生み出す。
『くそ!!どこから情報が!?』
コウの焦り声。
『おい!!やめろって!!!』
青々しさを感じる少年の声が必死に抗う声。
『トウクマくん!!!』
この短い間しか接していない子供でも、私にとってトウクマは弟のような存在になっていた。その意志さえあれば、銃なんて怖くない。目の前や背後から銃口を向けられようが、瞬発力ある動きで、通路側へと顔を出す。
ミヤビと共に姿を現したコウが、私に何か呼びかけるけど、関係ない。
今は何も考えるな、ただただ動け!!戦え!!!
ポケットから繰り出した携帯電話。それは私の強い意志とともに、銃の形へとナノ粒子が蛇のように連なる過程で完璧な銃へと遂げる。それも2丁のハンドガンへと分裂した武器は、リアルな武器へと型どっていく。これで準備は揃った。
突き抜けていく通路に向けて、銃弾を放っていく変異者たち。
奴らもなかなかの命中率を持つが、装填を含め、射撃の方は私が勝る。
次から次へと放っていく銃弾は、敵をテイクダウンさせるのに効果的。首の側面を流れていく大動脈を打ち砕き、噴水と化した血液の波。
この物を擬態できるこの武器は、コピーマンの細胞や血液で作られたものだからダメージ力はさらに高い。シートの上を軽々と超えていくこの身軽さを頼りに、敵の銃弾はあっという間に回避。フィギアスケートの回転と同じく、宙に舞った身。引き付けられたはずの敵は、回転力と共に放たれる銃弾を最も簡単に食らっていく。
あっという間に片付けてしまった敵たち。それにしても、私の気持ちが追いつかないぐらい、行動が先行していた。
『なあ、待てって!!!』
気づけば、コウの力強い指が私の皮膚を押し入るほど、自分の行動を呼び覚ましていた。コウの振り向かせる手の動きと同時に、私の目には涙があった。その瞳を見た彼女は必死な顔つきから驚いた表情へと移り変わる。
『あの子が死ぬのは、見逃せない。ドーム内の人間だろうと・・・。でも、あなたは・・・いつもいつも・・・あの子を人間と同様の扱いをしなかった』
『そ・・・それは・・・』
『だから、これ以上・・・あなたの命令を聞くつもりはない』
強い意志とともに、振り払った力はあっけなくコウの手を振り払った。
* * *
『お、おい!!』
なぜ私・コウの体は動かない!? 愛する人に失望させたか。だが今はそんなことを考えてる暇はない。そう、ミヤビの掴みかかる大きい手に引き起こされる。
『早く!!クミホを援護しに行けって!!!』
気づけば、私の胸を突き飛ばし、誰かと向き合うミヤビの後ろ姿とともにドアはゆっくり閉じていく。
* * *
コウを向こうの号車へと非難させたことは、ドアの閉音で感づく。俺・ミヤビはこの罠にまんまと嵌められた。目の前には、応援に駆けつけたヒョウガ。見た目も口調も性格も全く同じ。でも、俺には分かった。
『お前、ヒョウガじゃないだろ?』
いや、ヒョウガに化けたコピーマンだ。なぜなら・・・
『お前がくれた敵の情報で動けたものも、俺たちを嵌めるための罠だったんだな』
ヒョウガの姿から解放されたいのか、今日身につけていた服装や髪型は粘土状に溶けていく。そこから現れたのは、小柄な金髪女。例の"反抗期の娘"だ!
『敵の情報は、ほんとだよ』
幼い声で、敵意の無さを澄まし顔で披露する女性。だが、スーツに身を包んだ姿からするとやはり月田冬至の手下か。
『本物のヒョウガは?』
『私が何度も痛めつけてあげた。死に際も死んだ後も・・・今頃、駅のトイレで首が座ってるんじゃない?』
淡々と話す口調に、久しぶりに怒りに満ち溢れるエネルギーが皮膚から血管の筋を浮かび上がらせ、顔を赤く染めていく。
『なら、お前を同じように殺してやるか!!』
頭の血管がキレる合図と共に、体は再び獣の肉体と天使の翼を兼ね備えた怪物へと変貌する。2メートルの身長を超える肉体に慣れた俺は、そのまま小柄な女へと走っていく。
その時、彼女も毛皮を備えた何かに変化を遂げた後、俺を簡単に投げ飛ばす。それも小柄な体型は、堅いのいい2メートルの何かになりかわっていた。急いで上体を立て直す俺の視線には、茶色の毛皮に覆われた2メートルの大熊が現れた。
『マジか!?』
人間の走る速さを超えた熊はそのまま、俺の肉体に体当たり。吹き飛ばされる過程で、浮いた体を瞬時に掴んだ熊は、地面へと叩き込む。超人の身体能力を得た状態でも、脳震盪を引き起こす歪みが目の前に起こる。
その後の攻撃はしばらく来ない。相手が時間をくれたのか、そう思った矢先、視界全体を覆うサイズを纏った象が俺を下敷きに、勢いよく踏み付けの刑へと移行する。
こいつ!!動物になりすます変異者か!?
物語は新たな方向へ・・・
あと3話で完結。




