Episode 10 BAD or GOOD
1日にしては、いろんなことが起こりすぎる。
朝は、殺されそうなトウクマを呼び寄せる。昼には、担任になりすました奴からこの少年を救い出した。そして、ホテル内でのバチバチバトルを繰り広げ、今は(少年の)実の父捜しに至る。これ全部、1日に起きたことだと思うと、身震いする。
じゃあ、今は何時かって?
そう、腕に付けていたデシダル時計には、深夜12時を指していた。
さすがにお疲れなのか、少年はおんぶした俺の背中でぐっすり眠っている。
少し愛らしい光景にも思えるって、俺の角度からじゃ、見えねえや!!
* * *
クミホの指示どおりに、B地点へたどり着いた。確かにタイヤの跡になりそうな場所だった。そこは、建設現場だった。現場からは、建設中のビルを囲むような青い網で守られ、クレーン車が作業中であると目に教えてくる。
さすがに、ここは違うだろ!だって、こんなとこで父を殺したり、遺体を隠そうとしても作業中の男たちに見つかるのはほぼ確実。そう、思わずにはいられなかったが、エリア的には、結構広い範囲を占めてる。
ドームでもつくるような勢いを感じさせる。
とりあえず、俺は背中で眠る少年を起こし、立ちはだかる建物内へと入っていく。
* * *
『まあ、それっぽい現場じゃ現場だけど、、、とてもいるとは思えねえな』
そのことばと同時並行に繰り広げられるライトの動かす仕草。もはやテキトーだ。
一方、少年は呼吸さえ押し殺す様子で、手元にあるライトを左右へ照らしていく。視野はあまり広くない。ほとんどライトの中央しか、先への道のりを示してくれなかった。
そのまま、淡々と進んでいってる時、、、
"カラン!!!!"と金属音が激しく鳴り響く。俺は周囲の警戒を高めるが、その正体はすぐわかった。
『ごめん!なんか倒してしまったみたい』
そう照れペロした表情をむけてくる少年の姿が。
『お前なー!!』
少年に対しての説教を披露しようと思ったが、建物の隙間から微かに赤く光り輝くライトが警告を促してくる。今度こそ、危険の察知が働いた俺は少年と共に低い体勢に移行する。
腰を低く、かがんだ姿勢で物音を確認。今、聞こえてくるのは、"カッカッ"と鳴らす靴底。それも複数の足音で大人たちの歩き方だと情報を絞る。
『絶対、誰もいないと思うがな』
『でも、足跡があったぞ!それも新しく残ったものだ』
『それが夜に侵入した証拠に?』
『多分な・・・でも、通報があったのは本当だし・・・』
そんなことを話してるように聞こえる。通報を受けたってことは、今こっちに来ているのは警官か。
俺は、別の出入り口があると信じ、向かってきてる方向から離れていく。
"カラン!!"
また鉄パイプらしき金属音が鳴り響く。もう何が起きたか言うまでもない。少年の不注意で、鉄パイプを蹴り飛ばした際に複数の金属音を響かせていた。
『早く来い!!』
ライトが俺たちに照らされたら、もう走るしかねぇ!本当はいつもの爽快感を活かし、殺してやりたいが、、、警官は後々面倒になる。
とりあえず、俺は少年の腕を強く引っ張りながら、建物内からの脱出を試みる。
警官たちが向かってくる速さに間に合うとは思えない。俺は意を決して、少年の襟元を強く掴んだ。
* * *
『ここら辺から聞こえたぞ!!』
警官たちは、散乱した金属の鉄格子あたりからライトをたどり、捜索していく。
ついでだ!!ガキに対してのストレスをここで発散させろ!!
その強い気持ちは、景観に成り済ました姿から警官の背後へと近付いていく。
『誰だ!?』
誰かの気配を感じ取った後方の警官は、瞬時に振り返るものもう遅い。俺の強烈な拳を警官の頬をめり込ませる勢いで放つ。
『うお!!』
そのまま一人目の警官は、網目状のネットに囲われた向こうの部屋へと一直線飛び。もう一人の警官も腰に付けていた銃を手に取るが、回し蹴りを食らった脳天は瞬時に、意識が途切れる。
これでテイクダウンしたかに見えた状況に少し期待しながら、俺たちは外へ飛び出した!
『おい!手を挙げろ!!』
しかし、もう一台のパトカーで待機していた二人組が、俺たちのところへ向かってくる。
警官の姿に擬態はしているものも、警官は本物を見破っているようだ。これ以上、事態が大きくなればもう暴れてやる。その意志に乗っ取って、先に倒した警官たちのパトカーへと飛び込む。
『よし!かっ飛ばすから、良い子はシートベルトしろよ!!』
危機が何度もおとずれる展開にもう声も出なくなった少年は、黙々と素早い動きでシートベルトに手を掛ける。俺は容赦なくハンドルを切り、出口の方へと猛加速。エンジン音も俺の踏み込むアクセルの力と同等の雄叫びを上げていた。
* * *
建設現場から飛び出して、アスファルトの道路へと戻っていく。もちろん、こんなのでパトカーは諦めない。背後から何度も鳴らされる"止まりなさい!"アナウンスと警告音。それはやがて視界にも反射するほどの赤い警告音を飛び散らす。
『上等だぜ!!』
またもや、アクセルの踏む力は、強化されていく。
『ね!飛ばし過ぎだよ!!』
さすがの加速に、少年の表情は完全に緊張感に包まれた。だが、止める気はない。
そのまま、トンネルの中へとはいっていく。スピードは、障害物と化した前の車両を躱すため、ややおさまる。でも、基本変わらない。一直線の道ならチャンスと思ったのか、パトカーもとんでもないエンジン音がボルテージを上げると同時に、追いやげてくる。
トンネルを抜けた先には、交差点。そして目の前の信号が真っ赤に染まったと同時に、横から飛び出してくるトラック。対応しきれないと思ったものも、トラックの前方と後方のタイヤにある小さな空間へと突っ込んでいく。
『ねぇ!!やばい!やばいって!!!!』
思い切り、カーブを描くように左にハンドルを切ると車体はちょうど、トラックの間をすり抜ける。そのまま、加速はやめないが、背後から激しい衝突音が鳴り響く。
それから、パトカーが追っかけてくることはなかった。
* * *
『で?何があったか説明してもらおうか』
腰に当てた両手に仁王立ちのポーズ。そして眉間に寄せた怒りの印。俺たちは、少年と互いに目を合わせるばかりで、クミホの言葉に反応しない。
『何があったの!?ミヤビ』
クミホは、沈黙をぶち破る覇気を突き飛ばしてくる。
『警官になぜか警戒されてて』
『ここまで追跡されてる可能性は?』
ひとまず、二人とも服のチェック、辺りの警戒は高めたものも特に跡をつけられてる様子はなかった。
『ミヤビに子供を任せた私がバカだったわ。もういい。次の場所に一緒についてきて』
* * *
しばらく車の中に眠っていた僕・トウクマ。眠っていた数十分は、兄さんの呼び声で目を覚ます。
『ついたぞ!』
ハンバーガーを食べていた男、名前はミヤビさん。その彼に叩きつけられるように身を起こした僕は、そのまま暗がりの中から抜け出す扉をあける。その先には、蛍光灯の電灯が照らすゴミの山たちが高高と積み上げられていた。巻き起こる紙と同時に、強烈な臭いが鼻の中にツンと入ってくる。ここは、ゴミ処分場だった。
『うっ!!臭い!!!』
『わ、私もさすがに耐えかねる』
『でも、行くしかねぇだろ!俺もう寝たいんだよ!』
弱音を吐く僕達に鞭を打ち付けるミヤビの言葉で、有刺鉄線の張られた先へと足を伸ばした。
* * *
見た感じだと、土の粘り具合と色合いが、車のタイヤに張り付いてたものと似てる。
『父さん!!!! 僕!!! トウクマだよ!!』
声を上げて、ゴミの山から現れてくることを期待した。何度も何度も。でも、一向に返事が返ってこない。それにしても、どこまでいっても広がるゴミの山と襲いかかる悪臭。そこで効率性を上げるべく、三人分かれて捜すことにした。
何度も呼ぶ声に、返ってこない父の声。まだ見つかっていなくとも、僕はどうしても泣きそうになる。
もしかして、この場所自体間違ってるの? そう、気の遠くなるような考えに悩まされるようになった。
その時、僕の肩にのしかかる手に、振り返る。
背後には、何かを見つけたような顔をしたクミホ。でも、そこに"安堵"の2文字はなかった。僕は急いで、クミホに手を繋がれながら向かっていく。そしてようやく顔を出したその先には、ゴミの山から湧き出ていた一つの腕が目に見えた。思わぬものに僕は手で口元を抑えた。
『ゴミの山が崩れないように慎重に出すぞ!』
そう悪臭お構いなしに、かき分けていくクミホさんとミヤビさん。もちろん、僕が率先してその腕が伸びてる先へと手を伸ばしていく。それから、10分後、だいぶゴミの山は掃けてきた。あとは、崩れないようにこの腕を引っ張るだけだった。
『ちょっと待って!!!』
小声ながらも危機感を感じたクミホは、僕らに沈黙を貫くように"静かにして!!"サインを人差し指で示す。何が起きてるかわからないもの、クミホさんを頼るしかなかった。よく耳を澄まし、目を凝らすと、(ゴミの)山の分け目からライトを僕達の方に照らしつける複数の人影が目に映る。
『ひとまず!!ここから離れよう!!』
クミホさんの冷静な判断に、一瞬抗う。
『どうして!!このまま、この腕を伸ばせば!!』
『トウクマくん!!!今はここから逃げるの!!』
両肩を強く揺さぶるクミホさんの力と目に込められた意志の強さに、僕はそのままその場を離れた。
また来た道を戻り、安全な場所へと車を停めることにした。
* * *
『ねぇ、あの手だけじゃわからないよね?あそこに埋もれていたのは誰か?』
『さすがにな!』
そんな会話がしばらく続いていたものも、その人物の正体はある電話で明らかになった。
僕のポッケから鳴り響く携帯に、一瞬警戒を見せるクミホさん。でも、相手が刑事である母と知り、また落ち着きを取り戻した顔つきに戻る。"電話に出ていいよ"と言わんばかりの表情を見せるクミホさん。
その優しさに甘えるように、僕は電話に応答した。
『母さん・・・』
電話に出たものも、声が返ってこない。電波が悪いだけだと思ったが、息遣いが生々しく聞こえることから、声は通じてる。
『トウクマ、父さんが亡くなった』
え・・・その一言で、もう何も考えられなくなった。
『トウクマの言う通り、今の父は姿そっくりの偽物で、、、本当の父はすでに殺されてしまった』
その言葉を聞いて、すぐ返せる人なんているだろうか。僕はショックのまま、電話を切った。母さんが何度も呼ぶ声がかすかに聞こえたが、我に返るほどの威力はなかった。
『どうした?』
目の前にいる人たちにも、言葉を返せない。だけど、一人だけ、今の電話で何を語られたのか悟るような瞳をしていた。僕は、そのまま頼るようにクミホさんの胸に顔を埋めた。その時に溢れてくる涙と嗚咽。
我慢していた感情が爆発した僕をクミホさんは、しばらく抱きしめていた。
* * *
ゴミ処分場から駐車している車にて。
『さあ、次の任務だ。逃した月田冬至が、大阪の方ヘ向かうとの情報源を手に入れた』
ガキがまだ人の死を受け入れられていないこのタイミングで、コウから無線で任務が言い渡された。
詳細によると、まだ大阪に向かう新幹線には乗ってないとのこと。そこで、奇襲を仕掛けるみたいだ。標的はもちろん、トウクマの父になりすました月田冬至。
その任務を聞いたクミホさんは、僕を基地へと帰るように促した。でも、、、僕の瞳にもう迷いはない。
少年とは思えない強烈なオーラで決意を口にした。
『僕もその任務に参加する。そして奴をぶっ殺してやる』




