Episode8 엉망 めちゃくちゃ!!
『今の爆発音!!』
地下駐車場で待機していた私・クミホと少年は、敏感に反応した様子で車内から見える辺りの光景を見渡す。"一体何が起きてるの?"そんな不安の種を摘み取るように、耳に取り付けた無線で仲間との交信を試みる。
『誰か応答して!!今の爆発音は!?』
『分からない。だが、今の爆発でミヤビとの連絡が取れない』
私の無線に反応したのは、リーダーとして指揮するコウの声だ。
『ヒョウガが彼の様子を見にいく!!』
『じゃあ、月田 冬至は!?どうするの!?』
『俺が奴を殺す。お前たちも来い!!』
焦りのある声。状況はあまり良くなさそう。私の応答する姿を見ていたのか、トウクマ君の顔色は少しずつ不安の渦に呑み込まれていく。その子供の表情に私は感化されたのか、少年の手を強く握り、こう言い出していた。
『コウに合流するまで時間はある。そのうちに母親を探しにいくよ!!』
そう彼の手を引っ張り、バンの外へと走り出していた。
* * *
脳震盪の感覚が襲いこむ。
『クソ!!しっかりしろ!!!ミヤビ!!』
そう自分を奮い立たせるように、頭を左右激しく振る。ブルドックが首を振るときに近い早さで。
ゆっくり上体を起こした先には、人体をかけ離れた(変異者の)怪物。一見は二足歩行、鋭い爪、そして剥き出した歯から人狼のように見える。だが両方の背中から生えた扇形の大きな翼が人狼という定義を否定する。鋭い目つきには、青色の虹彩を宿していた。
『こいよ!!怪物同士で戦おうぜ!!!』
その挑発に見事に乗った(変異者の)怪物は俺も同様、人間の姿から怪物に変身したと同時に襲いかかる。
全身に掴みかかる腕の怪力に、潰されそうだが、以前習得した剣を手を通し変形させていく。5本の指を兼ね備えていた手はスライム状からあっという間に鋭い日本刀へとして、怪物を切り裂く。
『いっぱい血を出させたらいいんだろ!!』
ここから反撃に入る変異者は手をガトリン砲に切り替え、俺の胸部へと撃ち放った。堅い皮膚が打ち砕かれた勢いで、俺の身は大きく後ろへ吹き飛ばされる。10メートルくらい先まで後退したはずの距離を、瞬きもしない間に間合いを詰められた。またお見舞いしにくるガトリン砲と片手の刀に変形した変異者の鋭い刃先が向けられる。瞬時の対応に、背中に繋がれた片方の羽を軸に自分の体を起こさせた。だが次の攻撃がもう襲いかかる。目の前の変異者は、人間の速さを優に超えるスピードで、瞬間移動を繰り広げる。
今、ぶつかり合うのは、腕に切り替わったソードの斬り合い。激しく火花を放つ斬り合いに、妥協しない。刀の刃が折れる勢いで押し寄せる敵の怪力に押し潰されそう。なら・・・
そう、俺は空いた右手には、敵のガトリン砲を模倣し、顔面にお見舞い。予想通り、堅い皮膚を貫くほどのパワーで、出血量は多い。というか、顔半分の原型をを失うほどだ。強烈な痛みに限度が超えたのか、肩に掴みかかった勢いで、俺は、風を切る鋭さと線となって吹き飛んでくる威力に、数秒間は真っ白に消え去る。気づけば、目にも見えない速さで、俺の胴体や脚を鋭い斬り込みで、斬り裂いていく。体には赤い線をなぞるような線を描いたあと、その線からは大量の血が吐き出されていく。やばい。さすがの出血量が多すぎると、死んでしまう。
『俺の方がいっぱい血を出させたが?』
優勢の立場に転換したせいか、男の生々しい息遣いしか漏らさないはずの変異者には、話す余裕ができたご様子だ。
『ああ〜!!よかったな!!!』
最後の限り、拳を相手に振りかざそうとするも堅い皮膚で覆っていた俺の手には、怪物を打ち止めす力もない。
むしろ、俺の手には強烈な痛みが走った自業自得な展開に。
『いってええエエエエ!!!!!』
振るった拳になんの効果も見出せない。その理由を辿るように、身体に目を向ければ人狼ような肉体と自慢の大きな翼が引っ込んでしまった。同じ2メートルだった身長にも差が生まれ、変異者の顔を見上げるほどの距離感を生んだ。
『あ?れ?』
『血が足りねえみてえだな』
さらに、俺が素の人間に逆戻りしていく姿に微笑みを見せる怪物。ああ、クソ!腹立ってきたな。
『さすがにこの状況じゃ、勝てねえな!だから、俺は・・・』
『俺は??』
敵の低い声と共に突きつけられた次の言葉。俺は敵に背を向けながら、50メートル先にあるエレベータの方へと走っていった。
『はあ!?逃げるのか!!そうはさせないぞ!!!』
そう、変異者である怪物は、逃げおおせる俺の背中に向けて、何発もの砲弾を喰らわせる。出血しすぎて、怪物になる気力はないものも、逃げ足の速さは人間並の速さを上回っていた。空気の抜けるような音ともに、撃ち放たれた砲弾。背後に向けた一瞬の視線には、俺の背中にぴったりくっついてきた砲弾が差し迫る。勢いをつけた足の速さを生かし、どこまでついてこられるか試す。いくら擬態能力で生み出されたとはいえ、性能はリアルなものと変わりねえ。
一瞬で床にへばりつく低い体勢に変える。その瞬発力に追いつけない砲弾はそのまま、宿泊部屋のドアに直撃。爆風で体が宙にまで投げ飛ばされるが、すぐ上体を起こし、エレベータへと走る。
また繰り出された砲弾と連射音を奏でるマシンガン。床に次々とクレーターを描き出す銃弾の音が俺の背後にまで追って来る。コツは砲弾の描いた軌道がエレベータに向けられないようにすること。故障したら、飛び降り決定だからな。
そのとき、エレベータの向こう側の扉がゆっくり開いていく。そこに現れたのはお仲間のヒョウガ。だが、ただ現れたわけじゃなさそうだ。片手には大きい武器のようなものが見える。それを確認したいがごとく、俺の足はさらなる加速でエレベータへと向かっていく。また空気の抜けた音。今度はスライディング方式で相手の砲弾を回避。
『くそ!!』
肩を掠めたマシンガンの球が俺の肩甲骨を抉るように。入り込む。
『早く!!!そこのドア閉めろ!!!!」
『いいから伏せろ!!!』
ヤケクソになった俺は、ヒョウガの抱えたミサイルランチャーの銃口を躱すようにまたスライディングのポーズ。撃ち放たれたミサイルランチャーの砲弾、変異者はまさかの攻撃に思わず呆気ない声を披露する。
『うあ!!』
身体は今すぐ動かせる状況じゃないのだろう。手元しか瞬時に対応できない様子の敵は、そのままミサイルランチャーの砲弾と対抗したガトリン砲を撃ち飛ばす。互いに撃ち合いになった大きい砲弾。俺はその爆風に巻き込まれないように、最後の最後まで走り続けた。
だがそれも遅し。ミサイルランチャーの弾とガトリン砲の弾が触れ合った瞬間。その廊下には凄まじい風圧と衝撃波,さらに真っ白な光に包まれたエリア。そのエリアは、肉体を宙へと浮かびあがらせるも、そのままエレベータの中へと送り出される。
ガタン!!!身を打ちつけた痛みが走るこの背中。
『いってえええな!!』
『おい!大丈夫か?』
『例の血袋をよこせ!!』
『お、おう!!』
そうヒョウガのポケットだらけのズボンから血液がたんまり入った点滴用の袋を手渡された。次の瞬間、なぜかその袋からは複数の穴を開けられたと同時に、中の血液が溢れていく。
"なんで!?"なんて言う暇もない。
目の前には瞬間移動した2メートル以上の怪物がエレベータ内に乗り込んできたのだ。ドアも閉まった瞬間、隅に座り込んでいた俺とヒョウガの首を鷲掴み。そのままエレベータ内の金属で作り上げた壁に何度も体を打ち付ける。しまいに、俺はエレベータの天井を突き抜け、エレベータのカゴから飛び出した鬱蒼とした空間に追いやられる。見えた視界には、エレベータを上げ下げするガバナーロープが見える。・・・と言うことは、エレベータから突き抜けた証拠。
だが鷲掴みしてくる大きな爪と手の腕力によってまた引き戻され、エレベータ内の鳥籠へ。
『おい!(ヒョウガ)例の携帯よこせ!!』
『お前、持ってるだろ!?』
『俺は怪物化するから、くれねえんだよ!!』
兄弟喧嘩のような声量でエレベータ内をあちこち振り回される身体。
『じゃあ、俺のポケットから取り出せ!!』
『どのポッケだ!?』
『右!』
『え?』
『右!』
『どっちから見ての右だ!?』
エレベータに乗り込んできた怪物のせいで、どこからの右なのか定めがつかない。
ついに、鷲掴みされていた胴体は怪物の手からすり抜け、今度は銃口を向けた鋭い右手が俺の顔面前に向けられる。すると、背後にチラつく物陰。それは、宙へと投げ飛ばしたヒョウガの携帯電話。だが、たかがの携帯じゃない。
俺は、怪物の向けた銃口をすり抜けた。あとは宙で託されたバトンを掴み取りながら、またエレベータの外へと飛び上がる。そこには、エレベータを引っ張るガバナーロープが4本見える。要はエレベータが下の階や上の階に移動するための長いロープのことだ。
それらの獲物を捕らえた俺は、携帯電話の原型をとどめていたアイテムを最も簡単に鋭い日本刀へと擬態を遂げる。大きく振りかぶったその勢いで、ガバナーロープをあっという間に切り離す。そのまま空中に浮いていた身体はエレベータの落下速度を追うように、急速落下していく。
『ひゃあはあああああああああああああ!!!!!』
全身に伝わる風の波。俺はスカイダイビング感覚でこの感覚を楽しんでいた。そのまま、相手のいるエレベータ内へと加速。体を垂直に地面へと頭を向けたその角度とともに、敵の胴体にアタック!!
それを図ったかのようなタイミングで1階へと衝突。その勢いは、1階にいる人々にも破片を飛び散らす勢いを解き放つ。
* * *
『なんだ!?』
爆発音に続き、エレベータ付近から聞こえる尋常じゃない爆裂音。さすがの事態に、刑事たちは黙っていられない様子。私・クミホが顔を見せるのもおかしい。
『さあ!!早く!!母さんを連れ戻したら、遠くに逃げて!!!』
そう少年・トウクマの背中を強く押した。私の冷静で張りのある声は、トウクマの行動を真っ直ぐ導いていく効果があった。
『母さん!!!』
『え?トウクマ!!なぜここに!?』
母の疑問に応える余裕もなく、少年は母の服袖をシワが寄るほど引っ張っていく。
『ここにいたら殺されちゃうの!!!!父さんにも怪物にも!!!!家にいる父さんは、偽者なの!!!』
少年の不安な表情は少しずつ、涙目の悲しい表情へと移り変わる。
『何をいってるの!!とにかく・・・』
一瞬、彼の表情で揺れ動く目の泳ぎ具合。しかし、仕事を全うすべき現場の雰囲気に駆られ、また仕事へと意識を戻してしまう。
その間にエレベータから立ち込めた煙からは、人間の手とは思えない獣の手が伸びてくる。鋭い猟奇的な爪、狼のような荒れた息遣いが緊張感を漂わせる。
あれこそ、コピーマンであり変異者の本性。
あたりの人間は、打ち破られた扉の向こうから顔を出す怪物。獣の如く鮫歯を見せた怪物は、背後から襲いかかるもう一体の怪物に成り果てたミヤビに驚きを見せる。
『ギィああぁあアリア!!!』
そう、肩にかぶりついたギザギザのサメの歯。そのまま硬い皮膚にめり込んでいく。強烈な痛みが走るのか、噛みつかれた怪物はミヤビに肘打ちを披露する。
『もう狭あああああああい、場所はカンベンぢゃあああああああ!!!!』
荒れ狂う低声に二重の異なる声が重なる現象に、耳を押さえ込む一般市民たち。その威勢と共に吐き出された怪力でホテルの外まで投げ飛ばされていく。
* * *
ホテルの目の前には一般の車が行き来する道路。エントランスの原型を失うほどの曲がりくねった鉄の塊に車道に飛び散ってきた高級車の数々が、車道を走る車へと落下していく。
* * *
煙に埋もれた世界に、一定のリズムで鳴り響く車の悲鳴。そこから唸り声を上げた怪物が声をあげる。ヒョウガが予備に持っていた血袋でなんとか怪物に復活できた。ならその分の役割は果たすかあ。てかむしろ快感。法律で縛られ、誰かの命令を聞き入れる毎日。でも、怪物になった時は暴れながら殺せる!!
そんな快感が俺・ミヤビの中で大きくなっていく。その高ぶりに身を任せるように、飛び込んできた怪物に強烈な拳をお見舞いする。まだ俺の満足感は足りねえ!!その意思と共に、拳は鋭利な先端を輝かせるドリルへと変形。そのまま、ふらふら揺れる変異者の顔面を抉るように、食い込ませていく。
『そうそう、これだよ!!!!これええええええええええ!!!!!!ひゃ!!ひ!!きゃああああはははは!!!』
大量の血飛沫を撒き散らしていくと同時に、敵の荒げる声も大きくなっていく。奪われていく変異者の能力と激痛のボルテージを超えたサインとして上げられた悲鳴。最後まで抗い始める変異者の手足が、俺の顔面を打ち砕く。
まさかの勢いに何台もの車を背に打ち付けるも、まだ戦える余裕がある。だが、変異者の方がヤケクソになっている。
隣に位置していた車に擬態した怪物は、そのまま全速力で俺のとこに突っ込んでいく。視界に映る車を何台も投げ飛ばしていく姿、もしかしてビビってるのか!?
俺には"敵が俺のことを倒せるのか否か"を匂わす焦りに見えた。
その時によぎったコウの声と怒りの表情。
『あまりにもふざけすぎるとあいつに怒られるからな。もう終わらせるか!』
その言葉で自分に鞭を打った俺は、地面に込めた脚力と共に瞬間移動並みの速さと両手に構えた鋭い刀で車に突進していく。あっという間に真っ二つになった車と荒げた声。そしてその車体に思い切り、トドメを突き刺す。
これで THE END
大量の血飛沫がさらなる雨となって俺の身体中を染めていく。あー。サイコー!!!!!!!!!




