表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

999/1254

フィオスソリ1

「エニ」


「ん、ありがとう」


 ジケが手を伸ばしてエニを支える。

 イェロイドの案内で洞窟を進んでいっているのだけど、思っていたよりも洞窟の中は平坦な道じゃなかった。


 デコボコとしていて坂になっているところもある。

 見つかった時にあくまでもただの洞窟だと主張するためにも一切人の手は加えていないらしかった。


「水気がないのは救いだな」


 リアーネは大きくため息をつく。

 これで水が流れる洞窟だったら寒いだろうし、滑りやすくて移動も楽ではなかっただろう。


 乾燥した洞窟なので坂や段差も滑ることはない。


「あのオッサン……ずりぃな」


 グルゼイは必要以上の荷物を持っていない。

 戦いに力は貸すけれど荷物待ちまでしないわけで、ジケも師匠に強制はできなかった。


 ただそれだけでもなくグルゼイは平地でも歩くように洞窟の中を軽々と進んでいく。

 一体どんな鍛え方をしているんだとリアーネは思った。


「あいつなかなか強そうだ」


 毎日洞窟を通るイェロイドよりも軽々としているのでイェロイドも驚いている。

 強者を認める獣人にただの移動で認められるのはグルゼイぐらいのものだろう。


「ジケもずるいし」


「これはフィオスだからな」


 普通にあるのも大変なら杖をつくに限る。

 ジケはフィオスに棒状になってもらって補助具にしていた。


 ずるいとリアーネは言うのだけどこれも立派なフィオスの能力である。


「洞窟の気温が下がってきたもうすぐ着くぞ」


 寒気の吹き込まない洞窟の中は少し暖かい。

 けれどもまた洞窟内の気温が下がっている。


 つまり逆側の出入り口が近くなってきたということなのである。


「イェロイド、早いじゃないか……ん? そいつらは?」


「お客さんだ」


 獣人側も人が勝手に入ってこないように気をつけて見張りを立てていた。

 イェロイドと同じウサギ耳の獣人男性が二人、洞窟の出口で見張りをしていた。


「俺はお客さんを案内しなきゃならない。ケーロイド、お前が代わりに取引を」


「俺でいいのか?」


 ケーロイドと呼ばれた獣人はイェロイドに比べてかなり若いように見えた。


「お前もそろそろ経験を積むべきだろう。次に来る商人は良いやつだから騙されることもないだろう」


「ありがとう、父さん」


「ただ少しぐらい意地悪はされるかもしれないから気をつけろ」


 イェロイドとケーロイドは親子であるらしい。


「あなたも立派な父親になったのだな」


「やめてくれよ、照れくさい」


 ケーロイドは反対側の出口の方に走っていく。


「人間をこちらに入れるつもりなのか?」


「分かってるさ。こいつらも分かってる。ただキノレの頼みは断れないんだ」


「キノレ……あの、キノレか」


「そうだよ」


 もう一人の見張りはジケたちに対してやや渋い顔をしていた。

 やはり緊張が高まっている今人間を北方の蛮族側に入れることに抵抗があるのだ。


 ただ見張りはキノレという名前を聞いて驚いた顔をした。


「キノレさん、本当にただ交流してただけなんですか?」


「もちろんですとも」


 これは何かあったんだなとジケは思った。

 平然と何もないと言う人ほど何かやっているものである。


「まあキノレならいいだろ。怪しいやつ以外は止めないしな」


「感謝する」


「おっ! こういうのは役得だな」


 キノレが酒瓶を渡すと見張りの男は嬉しそうに受け取った。


「それじゃあほどほどにな」


 特に問題もなく洞窟を通り抜けることができた。


「わぁ……なんだか気持ちがいいね」


 洞窟を出てみると一面の快晴だった。

 雲一つない青い空とわずかな足跡だけが残る雪原のコントラストは一枚の絵のようである。


 寒いのだけど空気はカラッとしていて心地よさもある。


「我々の集落まではまだ少し距離がある。明るいうちに到着したいから急ごう」


 暗くなると冷えることは山のどちら側だろうと変わらない。

 雪に不慣れなものだと移動にも苦労するだろうとイェロイドは考えた。


「ちょっと待ってください」


「なんだ?」


「ふっふー、フィオス!」


 ジケは抱えていたフィオスをポーンと投げ上げる。

 空中でフィオスは形を変える。


 細長く伸びていって四角い箱の下に板をつけたような形になった。


「これは?」


「ソリだ!」


 フィオスは何をしているのだとエニは首を傾げるけれどジケはいい感じだと胸を張る。


「ソリ?」


 空のような青いプルルンソリをエニは指先でつっつく。

 軽く続いただけで全体が揺れる。


「ユディット、ジョーリオを召喚だ!」


「はいっ!」


「おわっ……」


 フィオスソリはひとまず置いといてジケはユディットに魔獣のジョーリオを呼んでもらう。

 フィオスの変身にもただ眉を上げていただけのイェロイドもジョーリオには驚いていた。


 ジケはロープを取り出すとジョーリオに繋いで、さらに逆側をフィオスソリに繋ぐ。


「フィオス、下側を硬くするんだ」


「な、なんだ?」


 ジケの指示に従ってフィオスの板部分や箱の下側が金属に変化していく。


「フィオスソリの完成だ!」


「これ……どうするの?」


「どうするって乗るんだよ」


 ジケは町で見た光景からあることを考えていた。

 雪が深い北の地では馬車も車輪ではないものが時々見られた。


 何かと思ったら車輪の代わりに板をつけて雪の上を滑らせるようにしていたのだ。

 ジケはそれを見て使えそうだと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ