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秘密の関係4

「まあそこらへんも計画あるなら何も言わないけど」


 商売に関しては流石にエニも口を出せない。

 何かあれば手伝うけど別に商人としての教育を受けたわけじゃないし商品についても口を出せるほどに理解はしていない。


「まあ色々試してるよ。上手くいけばオズドゥードルはかなり太客になるな」


「悪い顔してるね」


「あんまりうちを食い物にすんなよ?」


「ちゃんと正当な取引するさ」


 当然のことながらこれまでジケはずるいやり方はしてこなかった。

 割と良心的な値段で戦ってきた方だと思う。


 だからこそ今でも取引が続いているのだ。

 ずるいやり方をしてきた商会はいくつも見てきた。


 結局長いこと残っているところでずるいやり方をしていたところはなかった。

 誠心誠意、真心を尽くして真面目にやっているところがなんだかんだと残っているものなのだ。


 ジケだってフィオス商会をたたむつもりはない。

 長くやるためには真っ当にやっていく。


「そろそろ野営いたしましょうか」


「少し早くないですか?」


 キノレが立ち止まって周りを確認する。

 ジケは空を見るが日はまだ出ているしまだ進むことはできそうだった。


「まだまだ日が落ちるのは早いです。気づけばあっという間に暗くなります。そして暗くなり始めるとぐっと気温も下がる。雪の上で野営するのにも準備が必要です。それに、あちらをご覧ください」


「あちら?」


 キノレの視線の先には何本かの木が密集したところがあった。


「ここら辺は山脈から冷たい風が吹き下ろすこともあります。あのような木々の影で野営することで少しでも風の影響を減らすことができます」


 もう少し進んでもいいかもしれないとキノレも思うが今いる場所が最適そうなので早めに休むことを提案した。


「じゃあそうしようか」


 経験者の意見には従っておくのがいい。


「野営準備!」


「おや? こちらなんですか?」


「ん? ああ、これは防水布ですよ」


 サッとテントを張るのかと思ったらユディットは大きな布を取り出した。

 キノレが布で何をするのだと不思議そうに眺めている。


 軽く雪をならしたところに防水布を敷いて、その上にテントを立てる。


「防水布……」


 キノレは軽くユディットが敷いた防水布に触れてみる。


「こちらもうちの商品で水などが染み込まないようになってるんです」


 雪を下敷きにすればどうしても多少濡れてしまう。

 テントは下がパロモリ液で加工してあって地面の冷たさを直接感じないようにしてある。


 けれども全ての熱を完全に遮断してくれるものでもない。

 どうしても下の雪が少し溶けてしまったりはする。


 そうすると使うたびに断熱効果が薄れてしまうことになる。

 だから先に防水布を敷いたのである。


 これだけでも濡れなくなる。

 パロモリ液の効果が薄れることなく、濡れることもなく、快適に過ごせるというわけなのだ。


「ううむ……なるほど」


 本当に驚きが尽きないとキノレは感心してしまう。

 断熱効果を持つパロモリ液だけでもすごいものである。


 なのに防水布なんてものまで商会で持っている。

 これで戦争まで止められたのならオズドゥードルはジケに足を向けて寝ることができなくなるなとすら思う。


 直接的に関わることはなくても大きな力を持つ商人が家督争いに影響を及ぼすことがある。

 ジケがユダリカの友人として後ろ盾になってくれたらこれほど頼もしいことはない。


 商人としての取引を見るにこれから北の地でジケの商会の影響は大きくなる。

 カルヴァンもまだまだ健在だろうし、ジケの存在を無視できなくなる時が来る可能性は大きいだろうとキノレは目を細めた。


「ほほ……分からなくなりましたね」


 トレイラーはいまだに勢力固めに奔走しているが、ユダリカがワイバーンを誕生させたことで中立を保つ家臣も多くなった。

 家督を得るために必要なのは家の外の存在も必要なことをトレイラーは分かっていない。


 今ユダリカは家の外の存在に支持されつつある。

 家の中でも中立を保つ人が多いということはユダリカの行動次第では支持してくれる人もいるということだ。


 このままトレイラーの思い通りになると少し前まではキノレも思っていた。

 だが今やこの先どうなるかキノレにも読めなくなってきている。


 慣れないテント張りの手伝いをしているユダリカを見てキノレは穏やかな笑顔を浮かべる。


「昔のカルヴァン様を見ているようですね」


 ーーーーー


「これが秘密通路ですか?」


「その通りです」


「確かにこれじゃあ外から見ても分かんないね」


 山脈の麓までジケたちはたどり着いた。

 遠くから見ても洞窟らしきものはないので、本当に秘密の抜け道があるのだろうかと少し心配になっていた。


 しかし近づいてみて分かった。

 パッと見では分からないが横から入っていけるような入り口があったのである。


「私が先に入りましょう」


 洞窟の入り口はあまり広いといえず、空気の流れも悪い。

 代わりに外の空気が入りにくく少し中は暖かい。


 キノレが魔道具のランタンを持って先に中に入った。


「誰だ?」


「私だ。キノレだよ」


「キノレ? ……あのキノレか?」


 洞窟の奥の暗闇から獣人の男が姿を現した。

 縦に長い耳を持っていてジケが以前に出会ったトースたちスイロウ族とはまた違った特徴を持っている。

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