秘密の関係2
「秘密通路を使う獣人とは私も多少関係を築いておりました。そこから狼王まで行けるかは……少し確実なことは言えません」
キノレの人脈を使えば北方の蛮族と接触することは難しくない。
ただしそこから先はキノレでも保証はできない。
狼王まで辿り着けるのか、そして安全に行けるのかは確実なことが言えなかった。
「狼王ってどんな人なんですか?」
結局はある程度行き当たりばったりなことは否めない。
でも少しでも確率を上げるためには相手のことも知っておかねばならない。
狼王という存在はジケも知っているが狼王がどんな人なのかは知らない。
過去では戦争が発生したために狼王のことを嫌っていた人も多いのであまり口に出す人もいなかった。
人間性を知ることができればどこかで役に立つこともあるかもしれない。
「狼王ですか……私も直接会ったことは数えるほどです。しかも話したことはありません」
キノレが狼王を見たのはカルヴァンに付き添いの騎士としてである。
そのために言葉を交わしたこともない。
「あまり悪い噂を聞く人ではありません。いまだに強いものが偉いという価値観が強い中で強さで上に立ち、賢さで統治を行っている存在です。カルヴァン様も狼王が北方の蛮族をまとめている方が楽なので支援も惜しみませんでした」
カルヴァンやキノレが評する狼王はかなり好印象であった。
蛮族と言われるだけあって獣人たちには粗暴なイメージも多い。
そのような中で獣人たちをまとめている狼王は実力もさることながら頭も良くて理性的な獣人なのであった。
これまで北方の蛮族が無茶な要求をすることもあったのだが、狼王はそうした要求をすることもほとんどない。
しても話し合えばうまく落とし所を見つけられる。
このまま狼王にまとめ役でいてもらいたいのでカルヴァンとしても狼王に対しては態度が柔らかかった。
「個人の人となりとしても戦いになれば苛烈な人ですが、普段はしっかりとしたお方ですよ。彼らがそう名乗らないのでそう呼称こともなかったのですが、あまりにも長く良く統治するのでこちらで勝手に狼王と呼んでいるぐらいです」
正式には北方の蛮族は国ではない。
そのために狼王も正確に言えば王ではないのだ。
北方の蛮族も自分たちを国だと呼ばず、狼王も自分のことを獣人の王だと自称したことはない。
だが獣人たちをまとめている期間も長くて安定した時代を築いているのでいつしか狼王と呼ばれ始めたのである。
「ただし厳格なお方です。ルールに厳しく、敵にも厳しい。認めるものはちゃんと認め、弱さを見せれば話す価値もないと思われてしまうかもしれません」
「ふむ……なるほど」
「はーい、北方の蛮族ってどうやって暮らしてるの?」
エニが手を上げてキノレに質問する。
「基本的には狩猟で魔物を倒してその肉を食べています。毛皮にもなるし肉にもなる魔物がいるので贅沢はできなくとも生きていくことはできるようです。今ですと交易で他の食料を手に入れることも多いです。獣人たちそのものはある程度のまとまりで生活しています。部族だったり個人だったり離合集散を繰り返してながらも町のようになっているところもあるようです」
「じゃあ狼王ってのも町にいるの?」
「そうですね。狼王は一番規模の大きな集落……こちらでいうもはや町の規模があるところにいます」
基本的に獣人はそれぞれの部族という意識があるのだが、すべての部族がバラバラに生活しているのではない。
まとまって生活していることも多く、今では町のようになっているところもあった。
今現在、狼王は多くの部族が集まった町に住んでいる。
「ですがよそ者に対する警戒は強い。こちらも十分に警戒なされるべきでしょう」
「……なんかけーかくあるって言いながらあんまりなさそうに感じるのは私だけ?」
「うっ……」
エニの指がジケの頬に突き刺さる。
危険なことはない、計画があるとジケは言いながら狼王に会う方法までは考えていなかった。
そもそもそこらへんのことは過去の知識でも知らないし計画の立てようがなかった。
エニはジケの頬をムニムニと指でつっつき回す。
なぜかジケの抱えるフィオスも体を伸ばしてエニと逆の頬を触っていた。
こちらはつっつくフィオスの方がムニムニしている。
「今蛮族たちの状況がどうなっているのかは分かりません。簡単に会えるのか、はたまた難しいのかは行ってみないと」
「まあ……行ってみますか」
「まーたそーやって」
やっぱり行き当たりばったり。
エニはちょっとつつく力を強める。
「みんながいれば大丈夫だって」
「はぁ……ちゃんと私のこと守ってよ?」
「もちろん。何かあってもエニは帰す……いててて!」
「ダメ。みんなで帰るの」
「……分かったよ。何があっても、みんなで帰ろう」
「それでよし」
とりあえず北方の蛮族と接触はできそう。
そこから狼王までどうやって繋げるかは行ってみて状況を見ながら臨機応変に対応するしかない。
それでもやらねばならないのだ。
放っておけば悲しみが生まれてしまうのだから。
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