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カルヴァンよりも怖い相手

「それで? 目的は?」


「戦争を止めることです……」


 友達としての訪問や商売としての訪問や意外にも目的があったことがエニにバレた。

 床に座らされたジケはフィオスを抱きかかえたエニに詰められていた。


 非常に圧力のあるカルヴァンにも屈しなかったジケであるが、エニには一切勝てないのである。

 正直に北方の蛮族が戦争を起こすことを止めにきたと白状する。


「……なんでジケがそんなことしなきゃいけないの?」


 怒られるかなと思ったけどエニは心配そうな顔をしただけだった。


「きっと俺だけなら……俺の周りの人たちだけなら戦争が起きてもどうにか生きていけるとは思うよ」


「なら……」


「でもそれじゃダメなんだ」


「何がダメなの?」


「俺は平和に楽しく生きたいんだ。明日の飯を心配することもなく、また次も生きて友達と会えるような、そんな生活がいいんだ。戦争が起これば戦いが起こる。誰かが戦うし、大きな影響が国中に波及する」


 ここまでくれば嘘で誤魔化すこともしない。


「苦しくても支え合えばいいのかもしれないけどそうじゃない方がいいだろ? みんなには……お前にも、笑っててほしいんだ。苦しい時なんかなくて、みんなが一緒に笑って過ごせるのが俺の願いなんだよ」


「ジケ……」


 ジケの真剣な眼差しにエニはどう返したらいいのか分からなくなった。

 エニとしてもジケがやるなら止めるつもりはない。


 でも文句の一つでも言ってやろうと思っていたのにこんなふうに言われたら文句も言えない。


「危なくないの……?」


「今のところはそんなに」


「本当?」


 笑って過ごせる毎日を、という考えはわかる。

 でもそこにはジケがいなきゃならない。


 ジケがいなくては笑って過ごせる日にならないとエニは思う。

 エニに険しい目で見つめられてジケもタジタジだ。


「戦って解決するとかそんなことじゃないからさ。一応計画はあるんだよ」


 ジケだって流石に命を投げ出すつもりはない。

 戦って狼王を説得するなんて方法を使うつもりは当然なくて、平和的に解決するつもりである。


「もしかしたらエニの力も借りるかもしれないしな」


「なら最初から計画話しなさいよ」


「文句言うし、止めるだろ?」


「そりゃ当然」


「まあ止めてくれるところはありがたいけどな」


「ありがたいけど何よ?」


「なんでもないよ」


 何でもかんでもやってみればいいというわけでもない。

 止めてくれる存在は確かに貴重である。


「ちゃんと計画話すしさ、危なくないようにするから怒んないでくれよ」


 ジケは大概エニを含めた女の子たちに弱い。

 けれども一方でエニもジケに弱かったりする。


 みんなのためとか、お前にも笑っててほしいとか言われればエニだって理解はする。

 床に座ったジケが困ったように見上げてくるとそれもまたちょっとズルいと思わざるを得ない。


「まあさ……危ないことするなら連れてけって言ったの私だし……」


 ジケは前に進む。

 だから止めたりしない。


 今だって嘘はついたけどエニを置いていったりはしなかった。


「帰ったらレディーフレマンのケーキね」


 とりあえず計画は聞こう。

 ジケが怪我しないように、そして怪我しても治してあげられるようにそばにいようとエニは思った。


 ただ嘘をついた件はそれとこれとは別である。


「分かったよ」


 ケーキで許してくれるならお安いものだとジケは笑顔になる。


「黙ってここまで来てる護衛にもケーキ欲しいなぁ」


「分かったよぅ、リアーネにもな」


 ここまでの光景、護衛たちはしっかりと見ていた。

 カルヴァンにも負けないのにエニには弱いというのはなんだか不思議なものであるとユディットは思った。


 でもそれがジケらしくもある。

 これが主君の優しさなのだとユディットが身に染みて感じている横で、リアーネはタイミングを見計らってちゃっかりケーキを要求している。


 黙ってついてきてくれるのもまたありがたいことなので、今回のことが終わったらみんなでケーキパーティーかなとジケは思っていた。


「大口の契約も取れたしな」


 北に販路拡大もできそう。

 今は北方の蛮族を警戒するので余裕はないが、北方の蛮族の件が片付いたらまたひと稼ぎできそうであると商売の目的もちゃっかりと満たしていたのであった。

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