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オズドゥードルに入り込め6

「…………もし私がオズドゥードルに忠誠を誓っていなければ今すぐにでもあなた様にひざまずいていたでしょうね」


 もはや言葉もなかった。

 ジケにピタリと内情を言い当てられてしまった。


 たとえ大人であってもここまで推測で言い当てたのだとしたらキノレも驚く。

 それが子供であったとしたら頭が良いことは疑うべくもない。


 神童という言葉がキノレの頭に浮かぶ。

 もし仕えている人がいないのならジケについていきたいと思うほどであった。


「もはや隠し立てはいたしません。ジケ様のおっしゃる通りです。ですが……戦争を止めるとはどうなさるおつもりですか?」


「必要なのは狼王の娘が元気になることですよね?」


「その通りでございますが、簡単に元気になるのならこのようなことにはなっていないでしょう」


「そうでしょうね」


「その口ぶりではなぜ狼王の娘が不調なのか分かっているようですね?」


 キノレの目の奥がギラリと光る。

 今の状況を予想しただけではない。


 すでに狼王の娘の方にもジケの推測は及んでいるのだと内心でさらなる驚きが広がる。


「ただまだこちらも推測の域は出ません。けれど十分な可能性があると俺は思っています」


「お聞かせいただいても?」


「まだ協力していただけるか聞いていないので」


 大事なところは教えてくれない。

 いかにも商人である。


「協力は確証できません。何をするのかも分からないのに相手にあなた様を紹介はできないでしょう」


「まあ確かにそうですね。でもその口ぶりだと紹介することは可能なようですね」


 ジケとしてもキノレが本当に北方の蛮族とジケを仲介できるのか不安なところはあった。

 けれどもキノレの態度を見る限り北方の蛮族と未だにいくらか関係はありそうである。


「……ほっほっ! これは一つしてやられましたな」


 ジケに試されていた。

 腹の中を探るつもりで探られていた。


 賢い相手だと分かっていたのに油断してしまったとキノレは反省する。


「カルヴァン様にもお話してみましょう。許可が出ればジケ様のことを秘密裏に紹介いたします」


「秘密裏に……」


「あくまでもオズドゥードルは関係ないということです。それでもよろしいですか?」


「カルヴァンさん、説得できますか?」


「それは分かりません。未だにどうするのかも聞いていないのですから」


「じゃあ俺も同席します」


「ご自分で説得なされますか。それもまた一つ」


 やっぱり危ないことしようとしてる。

 エニの視線が突き刺さるなと思いながらもここまで来たらジケも引き下がるつもりはなかった。


 ーーーーー


「話はキノレから聞いている」


 夕食はオズドゥードルの家でご馳走になった。

 噂の第二夫人に会えるかなと思ったけれど弟含めて姿を見せなかった。


 食事を終えたジケはカルヴァンに呼び止められた。

 護衛として情報収集から合流したリアーネも残っている。


 ピンと張り詰めた空気の中カルヴァンがゆっくりと口を開いた。

 流石にベテラン執事は仕事が早い。


 もうすでにカルヴァンに話は通っていたらしい。


「北の蛮族に会いたいらしいな」


 カルヴァンは北方大公と呼ばれている。

 そのために北方の蛮族のことを北方の蛮族とは呼ばずに北の蛮族と呼ぶ。


 人によって北だったり北方だったりするのだけどカルヴァンは北方が被るので北とだけ呼ぶのである。


「その通りです」


「戦争を止めるためだとか。ならば北の蛮族……狼王の真の目的に心当たりがあるのか」


 北方の蛮族には要求していることがある。

 ただ目的はその要求しているものではなく、要求しているもので何かをすることだということはカルヴァンにも分かっている。


「ちなみにですがどんな要求なのか正確なものを聞かせてもらってもいいですか?」


「……奴らの要求は聖物たる聖杯の使用だ」


「聖杯の使用……」


「物そのものを寄越せというわけでもなく聖杯を使わせろというものだ。ただ国はそれを拒否した」


「きっと要求の目的を果たせないと思ったのですね」


「……その通りだ」


 なぜただ使わせろという要求を退けたのかカルヴァンは知っている。

 その理由を簡単に言うわけにはいかないと思っていたが、ジケはすでに拒否した理由も分かっていそうでカルヴァンは驚いた。


「真の目的はおそらく狼王の娘。それも分かっているようだったな」


 キノレからの話でジケが狼王の娘が関わってることにも勘付いているようだと聞いていた。


「だが我々にもなぜそんなことになっているのか分からない。実は先立って教会から人も送ったのだ」


 戦争の雰囲気が漂い始めるよりも前にオズドゥードルと北方の蛮族の対話は始まっていた。

 秘密裏に神官を送ったことも実はあったのである。


 しかし神官でも狼王の娘は治せなかった。


「もはや聖杯のようなものに頼るしかない……そう向こうは考えている」


「神物じゃなきゃ治せないような不治の病……そのような可能性もありますが今回俺は別の可能性を疑っています」


「別の可能性?」


「はい、もし俺の予想が当たっていたら狼王の娘を治し、戦争を止めることもできるかもしれません」


「……聞かせてみろ、どうするつもりなのか」

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