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オズドゥードルに入り込め1

 北に行くとだいぶ寒くなってきた。

 ジケが住んでいる地域では温かくなってきたなと思っていたのに北はまだまだ寒い。


「これが雪ってやつか……本当に真っ白なんだな」


 馬車の窓を開けてイカサが外を眺める。

 イカサは最初イスコやグルゼイが乗る馬車に乗っていたのだけど、息が詰まるということでジケとエニが乗る馬車の方に移動してきた。


 ジケに雇われている身だから一緒はダメだろうともう一台の馬車の方にいたが、イスコとグルゼイでは会話も弾まないだろうし限界だったのだ。

 窓の外には雪の積もった白い景色が広がっている。


 イカサが住んでいたところでは雪が降らなかったのでこうして積もっている景色は珍しくて面白く感じられた。

 窓から入ってくる冷たい空気に息を吹きかけると白くなる。


「寒い。閉めて」


「あっ、うん、分かったよ」


 イカサとしてはもうちょっと外を眺めていたいぐらいだったけれどエニが怖い目をしていた。

 どうにもエニは寒さに弱いらしい。


 今もモコモコと服を着込んで窓から遠いジケの隣に座っている。

 ミニサイズシェルフィーナまで出して膝の上に乗せているのだからよほどの対策だ。


 エニのシェルフィーナのおかげで馬車の中は結構暖かいジケは感じているぐらいだった。

 イカサにとってジケが社長ならエニは社長夫人のようなもの。


 大人しく言うことに従って窓を閉じた。


「まあでも商品の力を身をもって感じるな」


 窓を閉めると寒さは感じなくなる。

 普通の馬車ならこうはいかない。


 外が冷たければ馬車の壁全体が冷えて中の空気も冷たくする。

 建て付けが悪ければ窓やドアの隙間から冷気が入ってくることもある。


 一方でジケの馬車はパロモリ液が塗ってある。

 断熱効果のあるパロモリ液だけでもかなり違うのだが、揺れない馬車というところでも暖かさに違いがある。


 普通の馬車は揺れる。

 大きく揺れるとそれだけで馬車全体に負担がかかってくる。


 窓やドアの部分はどうしても歪みやすく、大きく揺れる時に少し外気が入ってきたりしてしまう。

 ただジケの馬車は揺れない。


 揺れによる馬車全体へのダメージが少なく隙間ができにくい。

 揺れないというところだけでも少し暖かさに利点があるのだ。


「こんな商品扱ってるって……燃えるよなぁ!」


「パロモリ液は燃えないけどな」


 無限の可能性を秘めた商品をジケは扱っている。

 フィオス商会でしか売っていないものなのでどこに売るにも自由自在。


 しっかりと需要もあるし欲張りすぎなければ何でも好きに取引できるのはとんでもない強みである。

 あまり手を広げるには供給量の問題があるけれどもそこも逆に価値を高める要因だ。


 既存の商品を何とか買ってもらう交渉の難しさもまた楽しいのかもしれないけれど、新しいものの価値を相手に理解してもらって買ってもらう交渉もまた楽しいものだとイカサは思っている。

 ラグカに持っていくことができたらと考えるとニヤニヤが止まらない。


 そうな感じでのんびりと会話をしていたら北の中心都市であるホッカドに着いた。


「これからの予定は?」


「今日は宿に泊まって、明日オズドゥードルを訪ねるつもりだ」


「良い宿に泊めてよ?」


「エニが凍えないように高い宿探すか」


「お願いね」


「会長はモテるなぁ」


 ーーーーー


 ジケが商売も持ってきたのには大きな理由が一つある。


「お話は伺っております。どうぞお入りください」


 大きな暖炉があるお高い部屋に泊まって次の日オズドゥードルのお屋敷を訪れた。

 ユダリカはジケよりも一足先に帰っていて話を通していてくれたのですんなりと中に通してくれた。


「はじめまして。フィオス商会のジケと申します」


「噂は聞き及んでいる。噂が北の地に届くほどの者は少ない。ユダリカは良い友人を持ったようだ」

 

 なんとユダリカだけでなくカルヴァン自らが出迎えてくれた。

 カルヴァンと握手をする。


 非常にごつごつとしていて武人の手だなと握手だけでもジケは感じた。


「来てくれてありがとう」


「もちろんだよ」


 ユダリカはジケをギュッと抱きしめる。

 振られている尻尾が見えるような気がする。


「それじゃあさっそく……お話どうですか?」


 ジケはカルヴァンのことを見る。

 カルヴァンはかなりいかつい顔をしている。


 いかついというよりニコリともしないとキツい表情に見られがちな顔をしているのだ。

 子供どころか大人ですら怒っていないかと気をつかいながらカルヴァンに接するのにジケは物怖じした様子もなくてカルヴァンは内心で感心していた。


「そうだな。息子が勧めてくれたのだ、話ぐらいは聞いてみよう」


 今オズドゥードルの屋敷に来ているのはグルゼイとリアーネを除いたみんなである。

 グルゼイはオズドゥードルに興味ないし、リアーネには町での情報収集をお願いした。


 カルヴァンに通された会議室は無駄なものがなくテーブルと椅子しかないシンプルさであった。


「時間は有限だ。話に入ろう」


 ユダリカにエニとユディットを任せてジケ、イカサ、イスコの三人で席に着く。

 カルヴァンも席に着くなりすぐさま話に入る。


 ウダウダとされるよりよっぽどいい。

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― 新着の感想 ―
〉「はじめまして。フィオス商会のジケと申します」 〉「噂は聞き及んでいる。噂が北の地に届くほどの者は 〉少ない。ユダリカは良い友人を持ったようだ」 ジケとカルヴァンはリンデランの誕生パーティで挨拶を…
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