北の噂2
「聞いたか?」
「何をだ?」
「北の蛮族どもがまた怪しい動きしてるらしいぞ」
料理を食べていると近くに座る男たちの会話が聞こえてきた。
「いつものことだろ?」
「今回はそうとも限らないらしいぞ。傭兵や冒険者を集め、食料なんかも買い溜めているらしい」
「また戦争になるのか?」
「さあな、分からん。だが備えはしておくべきだろうな」
どうやら北方の蛮族についての話をしているようだ。
まだ確実なことがなくても周りが何か動けばそこから察する人は出てくる。
直接戦争までいかなくとも近い雰囲気を感じ取っている人はいるようである。
「最近アルダロン様のご体調が優れないと聞いているが大丈夫なのか?」
「それは分からん。だが北の英雄は一人じゃないだろう。カルヴァン様だっている」
「だがオズドゥードル家は後継者争いで二つに割れていると聞くぞ。それに伴って周りの貴族も後継者派閥の二つに分かれている。本当に北の蛮族に耐えられるのかね?」
「後継者争いの話は俺も聞いたことがあるな。だがそれとこれとは話が別だろう」
少し話の内容が移り変わった。
オズドゥードルの後継者争いの話をしている。
つまりユダリカが後継者として認められ、争うような立場になってきたのだなとジケはひっそりと思った。
同時に後継者争いが起きていることに男たちは不安を感じているようだ。
北方の蛮族との戦いが起きた時に後継者争いによる分断や動きの遅延が起こる可能性があることを危惧している。
心配ももっともだろう。
「後継者ねぇ……お前はどっちが相応しいと思う? 北方大公の名を継ぐのに」
「どっちのこともよく知らないから答えらんないよ。それに兄の方最近ようやく名前を聞くようになったらしい。どんな事情があるかは知らないけれど今勢いあるのかもしれないな」
「まあ俺もよくは知らないから答えられないけどさ。もう少し北に行けば話も入ってくるのかもな」
「ここじゃ噂が限界だ。それにしても北の蛮族どもはどうして急に……」
「うーん、確かにな。ここ最近じゃ関係は良かったっていうのにな。前の交渉役……オズドゥードルの騎士の方が良い関係を築いていたらしいから安心してたのにな」
「何か気に入らないなんてそんな理由かもな。それとも新しい交渉役が何かしでかしたか」
次会話は北方の蛮族についてになった。
「北の蛮族の考えなんか分かるはずがない……変に欲が出てきたのもな」
「今北の蛮族まとめ上げている狼王は賢くていい王だと聞いていたのに」
「蛮族は蛮族だ。所詮その程度だったという話だろう」
「でも北の蛮族が何かを要求したなんて話もなかったか?」
「そういえばそんな噂も少し前にあったな」
もうほとんど食事も終わっているのにチビチビと酒を飲みながら男たちの会話は続く。
「危なそうなら北を離れよう。命の方が大事だ」
「だな。もう少し噂に気をつけておくか」
ひとしきり話した男たちはようやくお店を出て行った。
「色々と絡み合ってるみたいだな……」




