友達にお願い1
「ということで案内を頼みたいんだ」
「……何がどういうことで?」
北といえばオズドゥードルである。
そこでジケはアカデミーに来てユダリカに声をかけた。
ジケと会うまではいじめられて孤独に過ごしていたユダリカであるが、ゼスタリオンが生まれてからのユダリカは変わった。
前を向くことを思い出した。
心強い友を得てユダリカはただやられるばかりではなく将来のことを考え始めた。
今北方貴族の中心たる北方大公オズドゥードルの家中は二つに割れている。
長子たるユダリカを後継者として推す勢力と後妻の子であり次男を推す勢力がある。
今のところ家中の勢力は次男派が多い。
第二夫人であるトレイラーが動き回っているからだ。
そこでユダリカは外で勢力を作ることにした。
北方貴族の子息もアカデミーには通っている。
ユダリカは彼らと距離を縮めることにしたのである。
真面目にアカデミーに通って好成績を納め、自身の力を直接彼らに見せた。
他でもない自分の子供からユダリカの評価を聞けば親である貴族たちもユダリカに注目するだろう。
勉強に授業に交流にとユダリカは忙しくてあまりジケと過ごす時間が取れていない。
それでもアカデミーに来た時なんかはジケもユダリカのことを気にかけている。
「北に行く必要あるんだけど、俺も周りの人でもいったことあるような人いなくてさ。ユダリカならって思ったんだ」
道案内という目的以外にももうちょっと思惑があったりすることもあるのだけれど、ひとまず土地勘のある人がいてくれるとありがたい。
「うーん……」
「やっぱり難しいか?」
ユダリカはアカデミーで忙しい。
調子よくやっているところなので厳しいかなとは思っていた。
「実は悩んでたんだ」
「悩んでた?」
「北方の蛮族の雰囲気が怪しいってこと知ってる?」
「……ああ」
「さすが耳が早いね。ほとんどの人は知らないはずなんだけど」
ユダリカは少し驚いた顔をした。
蛮族の動きが怪しいことはまだほとんどの人が知らない。
おそらく北方貴族の子供たちもまだ知らされていないだろうと思う。
それなのにジケがそのことを知っているのは驚きだった。
だけど逆に納得もした。
どうしてジケが北に行きたいなどと言い出したのか理由が分かったような気がしたからだ。
ジケの方はユダリカがなんで悩んでいるのか少し心配している。
「父さんと母さんから手紙が来たんだ」
「ご両親から」
ユダリカの父親は北方大公と呼ばれる四大貴族の一人カルヴァン・オズドゥードルである。
過去においてはユダリカとカルヴァンの関係はあまりよくなかったようで、ユダリカもカルヴァンも良くない終わりを迎えてしまった。
ただ今回はそんなに悪くもないとユダリカ本人から聞いている。
まだ少し父親に対する苦手意識はあるようだけど、自分のことを嫌っているわけでもなければ見てくれないわけでもなさそうだと感じているようだ。
「ううん、父さんと母さんから」
「……何が違うんだ?」
ご両親からという言葉をユダリカは訂正する。
「それぞれ別に手紙が来たんだ」
「そういうことか」
両親から一通の手紙が来たのではなく両親からそれぞれ手紙が来ていたのである。
「それで手紙で悩んでんのか?」
「そうなんだ。父さんから来た手紙では北方の蛮族が怪しいから帰ってくるようなことはしないでアカデミーで頑張れと」
「確かにアカデミーにいれば安全だもんな」
北方の蛮族の動きを察したカルヴァンはユダリカに手紙を出した。
成績が優秀なことは家にも伝わっていた。
そのことを労う言葉と北方の蛮族の動きが怪しいこと、そして家に帰ってこなくても大丈夫だという内容が書かれていた。
仮に北方の蛮族が動いたら戦いになる可能性は大きい。
実質的支配領域に入られる前に止めるつもりはあるが人が住まう町まで迫られることはあり得ないとはいえない。
ユダリカがアカデミーにいれば北方の蛮族の問題が北だけで済まなくなっても安全だろうというのがカルヴァンの配慮だった。
「それでお母さんからは?」
カルヴァンからの手紙の内容は分かった。
来るなと言われているのだから行けないというのはジケとしても分かる話だ。
ただ母親からの手紙があって、悩んでいるというのだから何か違う内容だったのかとジケは思った。
「母さんはむしろ来るべきだっていうんだ」
「お母さんが?」
「うん。危険なことはわかっているけど危険な状況こそむしろ力を見せる機会だって」
今家中で権力を持っているのは第二夫人である。
一方でユダリカの母親は第一夫人だ。
なぜ後からきた第二夫人が力を持っているのか。
それは第一夫人が病弱な人だったからである。
聡明な人ではあったものの体の調子を崩しやすく、家中のことをこなすのにいつも体調的な不安があった。
さらにユダリカが魔獣に関する問題を抱えて不安定になっているタイミングで第二夫人であるトレイラーが家中の勢力を掌握してしまったのだ。
ただ病弱であるというだけでユダリカの母親はまだ健在である。




