やれることはやる2
「貧民街が新しいことを受け入れてくれるなら貴族街はむしろ新しいことを受け入れにくいって感じかな」
「なぁーるほーどなぁー」
リアーネも納得してしまう。
貴族は変化を嫌う。
いまだに古い価値観に囚われてるものも多いし、基本的に貴族が使うものは良いものだから古いもので問題もない。
対して貧民は変化を受け入れるしかない。
その日の状況に合わせて生を乗り越えて新しいものだろうと古いものだろうと使えるものなら使っていく。
ジケが貴族だったらなんてリアーネは考えたこともあるけれど、貴族だったらこうした柔軟な考えは生まれなかったかもしれない。
「まあなんだかんだ貧民街が好きなんだよ」
「そっか。私もお前がいる貧民街は好きだぞ」
「それなら俺もみんながいてくれる貧民街が大好きだな」
「……やめだやめだ!」
なんだか気恥ずかしくなってきたとリアーネはほんのり頬を赤くしながら頭を掻く。
「良いとこごめんね」
「なっ……いつの間に」
「ああ、待って待ってリアーネ!」
急に近くで声がした。
ジケのものではない声で、気配にも気づかなかった。
飛び退いたリアーネが剣を抜こうとしてジケが慌てて止める。
「久しぶりだな、ソコイ」
「はは、驚かせてごめんねー」
リアーネの隣の場所に立っていたのはソコイだった。
港町出身の少年で、ジケとも友達である。
自身の姿を見えにくくする能力を持つ魔獣を従えていて、さらには魔力を隠すことができるアーティファクトも持っている。
なのでソコイは子供でなんの訓練を受けていないのにも関わらず他の人が見つけることが困難なレベルで姿を隠すことができる。
そのせいでソコイは魔道具で操られたり、その魔道具のせいでちょっとした事件があったりと色々とあった。
ソコイを保護して能力を伸ばしてあげるためにジケは情報屋のガルガドを紹介した。
結果的にソコイはガルガドの弟子として今は情報屋で働いている。
割と楽しくやっているようで時々ソコイはジケの家にも遊びに来る。
ソコイだったのかとリアーネは剣から手を離して残り少なくなった豆をまた食べ始めた。
「今日はどうした?」
「今日は遊びに来たんじゃないんだ」
いつもひっそりと遊びに来るものだから大体一番初めにジケが気づく。
ただ今日は遊びに来たのではないとソコイはニヤリと笑った。
「ならどうした?」
「うちに頼んでたことあるだろ?」
「頼んでたこと……まさか」
「北の蛮族に動きあり。戦争の雰囲気が漂ってるよ」
ジケとソコイの顔が一気に真面目なものになってリアーネは口に入れた豆がポリポリと音が立たないようにほんの少し配慮する。
「もう戦争が起こるのか?」
「細かいことはなんとも……まだそこまでじゃないと思うよ。ただオズドゥードルが準備を進めてるらしい」
「そうか……わざわざありがとうな」
「ということで今日のお仕事終わり! あとは自由なんだ!」
ソコイは両手をあげて喜びを表現する。
遊びに来たわけではないなんて言っていたけど半分ウソだった。
ジケに報告したら後は好きにしていいと言われていたのでそのまま遊びに移行するつもりであったのだ。
「じゃあタミとケリがご飯の用意してるからお前もいること伝えてこいよ」
「オッケー!」
ソコイは部屋を飛び出していく。
「北の蛮族って……お前また何するつもりだ?」
豆を食べ終えたリアーネが指を軽く舐めながら鋭い視線をジケに送る。
北の蛮族の動向なんて普通の人は気にしない。
だがジケが気にするということ何かがあるのだとリアーネは思った。
「ああ、何かするつもりだ」
ジケは真剣な目で返す。
北の蛮族に動きがあったら教えて欲しい。
ジケが情報屋に依頼していたことだった。
「危ないことはしてほしくないけど……お前が動く時は大体自分のためだけじゃないからな。私はなんも聞かねえぜ。ただどこかでなんかやるなら私を連れてけ。お前を守ることが今の私のやるべきことだからな」
「もちろんだよ。みんなの力も必要になるかもしれないからね」
「おーい! もう飯できるってさ〜」
「分かった! ……考えることが多そうだ」
「あんまり考えすぎてハゲんなよ?」
「多分大丈夫だと思うけど……」
過去では年を取っても髪に問題はなかった。
ただハゲるほど色々と考えることがありすぎるなとジケは軽くため息をついたのだった。




