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師匠と弟子

「ししょー!」


「うおっ……なんだ、お前か? どうした?」


「ふっふっふー!」


「その薄気味悪い笑いはなんだ?」


 ライナスは師匠であるビクシムのところを訪れていた。

 ミスリルを手に入れるまでは来るなと言われていたのだけど今日は堂々とやってくることができた。


「やはりミスリルを手に入れるのは……」


「なんと! 持ってきましたぁー!」


 ミスリルなんて手に入れられるはずがない。

 ビクシムはそう思っていたのだがライナスは後ろに隠していたミスリルはビクシムの目の前に差し出した。


「なん……だと?」


 全くもって予想外。

 ライナスはビクシムが珍しく驚いているのでニヤニヤが止まらない。


「それを寄越せ」


 ビクシムはふんだくるようにしてライナスのミスリルを手に取った。

 どこからどう見てもミスリルだった。


 さらにはミスリルの純度も高い。

 見た目だけではなく魔力を込めてみればよく分かる。


 未加工なのにも関わらずミスリル全体に魔力がスッと馴染んでいく。


「どこでこんなものを手に入れた?」


「それは……」


「まさかどこからか盗んできたのではあるまいな?」


 ライナスには絶対買えないような量と質のミスリルである。

 それどころかビクシムだってロイヤルガードとして貯めてきたお金をはたいてようやく買えるぐらいのミスリルだ。


 まさかそこらへんにミスリルが売っているわけもないし、どうやってライナスがミスリルを確保したのか考えてみるとあまり考えたくない可能性ばかりが浮かんでくる。


「ちょ、師匠!? 弟子のこと泥棒扱いですか!」


「俺はお前のことを信じている。だがこんなもの通常じゃ手に入れられんだろう。とうとう悪い道に落ちたか?」


 ビクシムが本気じゃなく冗談めかして言っていることはライナスにも分かっている。

 たとえ課題のためでもライナスが盗みを働くような子でないことは師匠であるビクシムも理解している。


 ただ本当に盗んだのなら破門するつもりであった。


「ふふん、これは俺の人望がなせる技……もらったんですよ!」


「……それでどこから盗んできた?」


「な、なんで剣に手をかけるんですか! ホントですって! もらったの!」


 買ったならともかくミスリルをくれる様な酔狂な奴はいない。

 とうとう悪いことに手を染めたなとビクシムは剣に手をかけた。


「誰からもらった?」


「……ジケです」


「ジケ? あの子か?」


 ビクシムはジケとも面識がある。

 一度死んで復活した神の奇跡のような子で王室周りでも時々名前を聞く。


 アユインとも仲がいいようだしライナスの親友であることも当然知っている。

 今ではそこそこ勢いのある商会を持っていてビクシムも実はアラクネノネドコや揺れない馬車にはお世話になっている。


 貧民でありながら今や貧民の枠に収まらない活躍をしていることは間違いない。

 商人ならミスリルを手に入れるツテがある可能性は否定できない。


 しかし商人ならタダでミスリルをくれてやるなんてことまずしないだろうとビクシムは眉をひそめた。


「ふっ……あいつは俺のこと大好きですからね!」


 ライナスは自信満々に答える。


「お前のことが好きだからミスリルを渡したって? 俺もお前のことは好きだがミスリルなんかくれてやらんぞ」


「そりゃまあ好きレベルが違いますからね! 逆の立場でも同じことしますよ。あいつがミスリル必要で、俺がミスリル持ってたらきっと何もなくても渡してます」


「……そこまでなのか」


 ビクシムは目を細める。

 もちろんビクシムにだって友人はいる。


 しかし高純度のミスリルをためらいなく渡せるような友人など大人の今はいない。

 ミスリルをあげても惜しくないほどの関係性があるというのは眩しいほどのことであるとビクシムは思った。


「で、でも俺だって何もしてないわけじゃないですからね! ちゃんと色々やったんですよ!」


 ビクシムが目を細めたのを疑いの目だと捉えたライナスは必死に言い訳をする。


「何をした?」


「ミノタウロスを倒しました!」


「はっ?」


「腕が六本あって頭が二つあるミノタウロスをみんなで倒して……」


「待て待て待て。それが何の関係がある? しかも腕が六本のミノタウロスなんて……」


 流石にそれは嘘だろうとビクシムは呆れた顔をする。

 それにミスリルの話に急にミノタウロスが出てきたことも分からない。


「えっとですね。ミスリルの鉱山にミノタウロスがいて……」


「……ライナス」


「はい?」


「話すならせめて最初から順を追って話せ」


 このままでは話を理解するのも大変そう。

 せめて順序立てて話してもらわねばとビクシムはため息をついた。


「……えーと、まずは俺が……」


 ライナスは何があったのかを話した。

 ミスリルなんて手に入れるアテがなかったのでジケを頼ったことから始まり、ミスリル鉱山に行ってミノタウロスのダンジョンを攻略したこと、その過程で腕六本、頭二つのキモミノタウロスを倒したこと、そしてジケが受け取ったミスリルをライナスにくれたことを説明した。


「剣を二本も折ったのだな?」


「そ、そこですか……」


 剣を折らないように力を調整しろと日頃から口酸っぱく言っている。

 調子に乗って全部話してしまったライナスは少し顔を青くする。


「……まあいい。そうしてミスリルを手に入れたのだな」


「俺も頑張ったんですよ!」


「ふっ……」


「なんですか?」


 ライナスは胸を張っているがミスリルをもらえるような働きはしていない。

 それでもやはりミスリルをもらえたのだからジケがライナスのことを好きだというのは間違っていないのだろうとビクシムは笑った。


「どんな方法であれミスリルを持ってきたことは確かだな。だがジケにはちゃんと借りを返せよ」


「もちろんですよ。あいつが困ったら俺はどこへでも駆けつけます。必要なら師匠も引きずっていきますから!」


「お前の恩返しに俺を巻き込むな」


「えー! 弟子のお願い聞いてくださいよぅ!」


「……その時の気分次第だな」


「ノーじゃないんですね!」


 ライナスは嬉しそうに笑顔を浮かべている。

 ミスリルなんて手に入らないと泣きついてきたら少しぐらい融通してやるつもりだったのに可愛くない弟子であるとビクシムは思った。


「明日から修行の再開だ」


「あっ……そっか……」


 ミスリルを持ってくるまで顔を見せるなということはミスリルを持ってきてしまうとまた修行が始まるということである。

 そのことに今更気づいたライナスはハッとした顔をする。


「剣を折ったそうだしもっと厳しくしなきゃいけないな?」


「あ……あはは……師匠、優しくお願いします……」


 急いでミスリル持ってこないでもう少し休んどけばよかった。

 ライナスは引きつった笑顔を浮かべて小さくため息をついたのであった。

なんと!

スライムの文字数が!

200万字を超えました!


みなさんいつもお読みくださりありがとうございます!

こんなに続くと思ってなかったこの作品皆様の応援のおかげで何だか続いています。


本当にいつも感謝感謝です!

これからも物語は続きますのでのんびりとお付き合いくだされば幸いです。

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― 新着の感想 ―
なんか後書き 『この小説の中でスライムって書いた文字数が~』みたいにいじれるのオモロ タイトルの略称まだ無かったんですね(スラ∞イムみたいな?) 200万字達成おめでとうございます!
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