ミスリルプレゼント
「こちらがミスリルとなります」
「これが……」
「ふーん、綺麗だね」
ミノタウロスのダンジョンを攻略したジケたちは家に帰っていた。
ダンジョンを攻略してしまえばやれることもなかったし想定していたよりも長居してしまったのであとは任せて帰ってきたのだ。
温泉があったりダンジョンがあったりしたのでもう少し時間がかかるだろうなんて言われていたけれど、思いの外早く採掘作業に取りかかれたようでアルケアンがミスリル鉱石を持ってきた。
青いクリスタルのようなもので、高純度のミスリルでないとこうした形にならないのだそう。
つまりかなり品質の良いものをアルケアンは持ってきたのである。
「思ってたより早かったですね」
「災い転じてなどと言いましょうか、ダンジョンのおかげで採掘が早くなったところもあったのです」
「ダンジョンのおかげで?」
ダンジョンが何をすれば採掘に貢献するのかわからない。
「崩落したところから先に非常に硬い岩盤層があったのです。ジケ様がご見学の間に壊して先に進めればと思っていたのですが、どうやらその岩盤層のところにもダンジョンの入り口ができていたようなのです。ダンジョンが消失した影響で元々あった岩盤層も四角くくり抜かれたようになくなりました」
「それで一気に進んだ形ですか」
「そうなりますね」
アルケアンは頷いた。
ダンジョンがたまたま良い方向に作用した。
採掘を進めていく上で邪魔になった硬い岩盤があったのだがそこにもダンジョンの出入り口が出現していた。
ダンジョンが消えた時にその岩盤も消えてしまったので作業がかなり短縮されたのであった。
「そういえば温泉はどうなったんですか?」
ジケが離れる時には噴き出すほどの勢いはなかったけれど、それでもまだ温泉は出てきていた。
結局どう処理したのか気になった。
「応急処置として木で塞いでいましたが、それをちゃんとしたものに変えて鉱山の外に温泉を掘りました」
「温泉に」
「はい。これでみんなも作業終わりすぐに体をキレイにすることができるようになりました」
温泉は木で囲ってとりあえず外に流していたけれど、ツケアワシたちは鉱山の外に穴を掘ってそこにお湯を溜めるようにした。
鉱山専用の温泉の出来上がりというわけである。
「全てはジケ様のおかげです。こちらのミスリルは必要だと聞いたので急ぎお持ちしました」
「わざわざありがとうございます……ってことはタダでもらえるんですか?」
「もちろんです。今回のことを考えればこれでも足りないぐらいだと考えています」
アルケアンは命を救われた。
何度も鉱山に入ってくれたしダンジョンまで攻略してくれた。
命の恩人以上の感謝がある。
ミスリルの鉱石は貴重なものだが命には代えられない。
「ライナス、ほらよ」
ジケはミスリルを手に取るとライナスに放り投げた。
「お、おい! 貴重なもんなんだろ?」
「俺は使わないからな。お前に必要なんだろ?」
ライナスは慌てたようにミスリルをキャッチする。
おそらくライナスが必死に貯めたお金を全て使ったってこのミスリル鉱石は買えはしない。
それどころかもう何年、十何年と節約してお金を貯めたって買えるか怪しいところである。
そんなものをジケはパンでもあげるかのようにライナスに渡してしまう。
「使えよ。お前が強くなったら……俺は嬉しいからさ」
ライナスもきっと立ち止まらないだろう。
きっと過去に起きたような凄惨な出来事はないと信じているが、少しでもライナスが強くなってもっと生き延びてくれる可能性が大きくなってくれるならジケはなんだってする。
「……ジケ」
「泣いてんのか?」
「泣いてねーよ!」
親友の心意気に感動してしまう。
ミスリルを売れば大きなお金になる。
働くようになってお金の大切がライナスにもよく分かった。
そしてミスリルがどんな価値があるものかも分かっていた。
それを軽くあげるなんて簡単にできることじゃない。
「あんがと……ジケ」
「おう、いつか利子つけて返してくれ」
「……良い友人関係ですね」
アルケアンは思わず微笑んでしまう。
エニは本当にこうな高価なものライナスにあげてしまうのかという顔をしているが、いかにもジケらしいとは思っていた。
「これで師匠をギャフンと言わせられるぜ!」
ライナスはビクシムの言いつけ通りミスリルを手に入れられたことで上機嫌になっていたのであった。