ミノタウロスのダンジョンを攻略だ2
「腕六本で……」
「翼生えてて……」
「頭二つ……」
「キモっ!」
ダンジョンを進んでいくと異形のミノタウロスを発見した。
腕が六本あって、背中には小さな翼が生えてて、頭が二つあるなんとも言い難い姿をミノタウロスである。
ミュコは思わず素直な感想を叫んでしまった。
「まあ、あんな禍々しさあるならあれがボスだろうな」
森がひらけたところにキモミノタウロスはいて、まだジケたちから距離が遠くて気づかれていない。
ただなんだか戦う気を無くす造形をしている。
「しかもなんで四本?」
「残った二本が腕組んでるのもまた気持ち悪いですね……」
ツッコミどころは見た目以外にもある。
キモミノタウロスは武器を手に持っているのだが何故か左右二本ずつ、四本の手にしか持っていない。
持つなら全部の手に持てばいいのにと思ってしまう。
さらには武器を持っている手も上下の二本ずつで真ん中の腕は胸の前で組まれているのだ。
そこも女性陣には不評である。
「まあ賭けはあれだな。みんな勝ちってことだな」
たまたま口にした特徴が全部揃っている。
ある種の奇跡に驚きを禁じ得ない。
負けたら奢りなどと言っていたけどみんなが大当たりなので負けた人もいない。
「んじゃ、甘いものジケとライナスで奢りね」
「私にもね」
「じゃあせっかくなら……」
「ぐえっ!? マジかよ……」
「仕方ない……頼んだぞ、ライナス」
「おおお、おい! お前の方が稼いでんだろ!」
どうやら勝てなかった以上負けらしい。
女の子には敵わないとジケは遠い目をして観念する。
こういう時に逆らっちゃいけないのだと過去酒場で管を巻く男たちから学んだ。
「私は肉な」
「分かったよ」
「そういうところ好きだぜ」
リアーネも流れに乗ってみたがジケはあっさりと受け入れる。
度量の大きさはすでに大物クラスでついドキリとしてしまう懐の深さがある。
「リアーネも少しぐらい甘えたっていいんだぜ」
「全く……そういうところがダメなんだよ」
「うおっ……今度はダメなのか?」
リアーネは耳を赤くしてジケの額を小突く。
悪くないけどどんな人にもそんな態度なのは問題だと思う。
ジケは何が悪いのか分かっておらず小突かれた額を押さえている。
「とりあえず戦ってみようか」
キモミノタウロスはおそらくボスだろう。
ここは見逃す必要もない。
「ビリードさん、出入り口の方向確認しておいてください」
「分かりました。ご無事を祈っております」
ボスを倒したらダンジョンの崩壊が始まる可能性がある。
普通はそんなにすぐに崩壊も起こらないが念のために逃げられる準備もしておく。
「ひとまずボスだと仮定して全力で挑もう。エニ、リンデランまず一発頼むぞ」
「倒しちゃうかもよ?」
「お任せください!」
キモミノタウロスをボスだと仮定して全力で倒しにいくことにする。
「あとはセオリー通りに。足を狙って倒して頭を狙う。二つとも切り落としてやろう」
「ふっ、新しい剣のサビにしてやるよ!」
ライナスは前回ミノタウロスと戦った時に剣を折ってしまった。
ただコウシは温泉の町でありながら鉄の町でもある。
休んでいる間に新しい剣を見つけて買っておいた。
できるだけ前の似たやつなんてことをライナスは抜かしていたけれど見る人が見れば違う剣なのはすぐにバレるだろうなとジケは思っていた。
ともかく新しい剣もあるのでライナスもやる気に満ち溢れていた。
「やるか」
「軽いですね」
「こんなの重々しくなくていいんだよ、ニノサン」
ボス戦とは思えないような軽さで戦いを始めようとしている。
変にプレッシャーを与えるぐらいならダメだった時にさっさと逃げるぞぐらいの方がいいのだ。
「もう少し近づこう」
キモミノタウロスはちょうどジケたちに対して背を向けている。
すぐに襲いかかれるようにできる限り接近することにした。
気配を消しつつ木々に隠れるようにしてキモミノタウロスに近づいていく。
「これ以上は無理だな」
相変わらずキモミノタウロスは腕を組んで背を向けているが、ひらけた場所のど真ん中にいるのでこれ以上近づくと隠れる木々や草がなくなってしまう。
振り向かない限りはバレないかもしれないけれどリスクを考えると木に隠れられる今の場所が近づける限界である。
「みんな用意だ」
各々武器を構えていつでも飛び出せるように準備する。
「んじゃ私左狙うね」
「では私は右を」
魔法がぶつかって相殺しては元も子もない。
ぶつからないようにある程度狙う場所を決めて魔法を放つ。
「左熱くて、右寒いな……」
ちょうど二人の間に挟まれるような位置にいるジケは二人が魔力を高めるとその空気感の変化を肌で感じていた。
強い魔力、強い魔法はどうしても周りに影響を及ぼす。
エニが炎を放とうとする熱とリンデランが氷を放とうとする冷気は近くにいるジケの背中に強く感じられるのだ。
やっぱり二人に逆らうのは無理だなと熱と冷気を感じながらジケは思った。
「いけー!」
「やりますよー!」
エニとリンデランが同時に魔法を放つ。
熱さと寒さが同時にジケの横を通り過ぎてキモミノタウロスに飛んでいく。




