やっぱり攻略が必要です2
「温泉の勢いが弱くなってきましたね」
かなりの量が坑道から流れ出ていたのだけれど時間が経ってだいぶ温泉も落ち着いてきた。
「ジケ様、厚かましいお願いなことは分かっておりますが……」
「ここまできたら最後まで手伝いますよ」
湯気が立ち込める坑道の中は見通しが悪い。
安全や崩落の状況確認をしたいけれど湯気に紛れてミノタウロスと接触してしまう可能性がある。
本来お客様であるジケに何度も危険な調査をお願いすることは心苦しいけれども、少しでもリスクを減らせるのならとツケアワシはジケに調査の手伝いをお願いした。
ジケとしても今更嫌ですというつもりもない。
「前にやったようにやろうか」
新たに噴き出した温泉のせいで坑道の中の温度はかなり高くなっている。
このまま入っていくのは少し大変だ。
だから前に坑道に入った時にやったようにタミとケリ、そしてリンデランの力を借りることにする。
「任せてー!」
「これぐらいちょちょいのちょい!」
手伝えることがあるのだとタミとケリは嬉しそう。
「いっくよー!」
「やるよー!」
タミとケリは自分の魔獣であるフウレイとスイレイを呼び出す。
風の妖精であるフウレイが坑道の中に風を送り込み、水の妖精であるスイレイが蒸気を引っ張る。
「あっつ……」
まるで爆発でもしたかのように坑道の中から蒸気が噴き出してくる。
少し離れていたジケのところまで蒸気の熱気は届いてきた。
「ふたりともお疲れ様」
「えへへ〜」
「えへへ〜」
ジケが蒸気の熱でほんのりと汗をかいたタミとケリを撫でてやると二人ともニコニコとしてジケの手を受け入れる。
「蒸気が戻る前に行こう。リンデラン、頼む」
「お任せください!」
リンデランもジケに頼られてやる気を出している。
ふふんとやる気を見せたリンデランの目が真剣なものに変わると噴き出した温泉と蒸気で温かった気温が急激に下がっていく。
流れる温泉が瞬く間に凍っていき、坑道の温度も少し下がる。
「よし、行きましょう」
崩落の調査のためにビリードが同行してジケは坑道の中に入っていく。
「支え木を替えねばなりませんね……」
崩落を防ぐための支えは四角く切り取られた木の柱と梁でできている。
特に水分に強い木ではないので温泉の蒸気でかなり支えが湿気っている。
今すぐダメになることはないだろうが、通常よりも痛みが早くなりそうなのでどこかで交換は必要だなとビリードは見ていた。
行動の手前はタミとケリのおかげで蒸気もなく視界もいいが少し奥に入るとまた蒸気が立ち込め始めた。
ミノタウロスと不意の接触をしないようにジケは魔力感知を広げる。
蒸気のせいで魔力感知でも見にくさはあるけれど目で見るよりは先のことが見える。
「とりあえずミノタウロスはいなさそうです」
魔力感知の感じではミノタウロスはいない。
だけど油断はせずに少しずつ進んでいく。
「ん?」
「どうかしましたか?」
「どうやら崩落の場所までついたようです」
崩落の状況がどうなっているのか。
ジケには一足先に見えた。
「やはり崩落が崩れたようですね」
進んでいくとゴロゴロとした岩が地面に転がっていた。
天井が大きくえぐれたところまでやってきてビリードもここが崩落現場であると察した。
湯気が立ち込める中ビリードが魔道具のランプを高く上げると天井近いところの壁からお湯が流れ出ていることが確認できた。
「これは……」
「前に見たミノタウロスの死体ですね」
温泉が出てきているところから少し先には分岐があった。
そこにはミノタウロスが倒れている。
地面には乾いた血が広がっている。
湿度の高い行動の中で血が乾くいているということはあまり湿度が高くない状況で相当時が経っているということである。
つまりミノタウロスは前回ジケたちがアルケアンを助けに来た時に見た崩落に巻き込まれて死んでいた個体なのである。
そして分岐があるところより先はまだ土砂で塞がれていた。
「仲間の死体をどうにかしようとして手を出したら温泉が強く噴き出してしまったのでしょうか?」
「そうかもしれないな」
ミノタウロスが群れで行動することはないが同族という意識はあるかもしれない。
助けようとしたのか、あるいは別の意図があったのかは知らないがミノタウロスが崩落に手を出したようだ。
崩落した岩や土砂は温泉に押し流されて、ついでにミノタウロスも流されて外に出てきたのであった。
「まだ確実なことは言えないですがこれ以上崩壊する感じはありませんね」
ビリードは崩落した天井を覗き込む。
蒸気でよく見えにくいけれど見たところ崩れそうな感じは受けない。
温泉が噴き出している近くが脆くなっていて崩落を誘発したようである。
温泉よりも上のところは脆くなっていない。
しっかりと支えてやれば新たな崩落は起こらなそうだった。
「ということはこの先にダンジョンが?」
「そういうことになるな」
ニノサンはミノタウロスの死体がある分岐の先を見る。
暗闇が広がっていて見えないけれど、記憶が正しければダンジョンの出入り口の一つがあるはずだ。
「ひとまず状況は分かったので戻りましょう。皆さんも汗だくですしね」
リンデランの魔法でも次々と流れ出てくる温泉全ては凍らせられない。
蒸気のせいで気温が高くて気付けばみんな汗をかいている。
あまり長居すると熱でやられてしまう。
崩落がどうなっているのか分かったのでジケは洞窟を脱出することにした。




