やっぱり攻略が必要です1
「なんだ!?」
もう何日か温泉にでも入って帰ろう。
そんなことを思って会議室代わりのテントを出たジケの耳に轟音が聞こえてきた。
「崩落に何かあったようだ!」
「温泉が噴き出してるぞ!」
情報が錯綜してイマイチ状況がよく分からない。
ひとまず崩落に何かがありそうだということは理解した。
「ミノタウロスだ!」
「魔物が出てきたぞ!」
崩落に何かが起きたのならジケにできることはないだろうと思っていたら空気に緊張が走る言葉が聞こえてきた。
「ジケ……」
「向かおう!」
テントから崩落があった坑道の入り口は近い。
ジケたちは坑道に向かった。
「あっつ……」
坑道からは温泉が流れていた。
今までよりも勢いが強く、坑道の外までムワッとした空気が広がっている。
「全員避難だ! 早く逃げろ!」
そして坑道の前にはミノタウロスがいた。
温泉を浴びたのか全身びしょ濡れで手にはバトルアックスを持っていた。
「アレを倒すぞ! フィオス!」
坑道の調査をしていたのだろうか、逃げ遅れた人がいる。
「させるか!」
「た、助かりました!」
逃げ遅れた人にバトルアックスが振り下ろされたところにジケが割り込んだ。
槍になったフィオスを突き出し横からバトルアックスにぶち当てた。
ギリギリのところで軌道が逸れてなんとか直撃を免れた。
「お前の相手は……こっちだよ! フィオス、鞭になるんだ!」
ミノタウロスは執拗に逃げる人を追いかけようとしている。
ジケはフィオスを鞭に変えた。
ビュンと腕を振るって上手くミノタウロスの顔に鞭を当てる。
本気の鞭が当たるとかなり痛い。
獲物を追いかけている最中、顔面に鞭を当てられればミノタウロスもジケに怒りを覚える。
「主人一人に戦わせるわけにはいきませんからね」
ジケの方を振り向いたミノタウロスの視界の端に一瞬何か光るものが見えた。
気づいた時には足の付け根あたりを深々と切り裂かれ、ミノタウロスの後ろには剣を振り切った体勢のニノサンが現れていた。
「よそ見なんかしてる暇ないよ!」
「もうミノタウロスには飽き飽きです!」
ニノサンの方を見てしまったミノタウロスにエニとリンデランの魔法が襲いかかる。
炎と氷の共演。
まともに食らったミノタウロスは流れ出てくる温泉に倒れ込む。
「おおっと、起き上がるんじゃねえよ!」
大きなダメージはあるもののミノタウロスは立ちあがろうとした。
リアーネが剣をミノタウロスの胸に突き刺して地面にはりつけにする。
「いくぞ……ミュコ!?」
「ふふん、私もやるよ!」
トドメを刺そうとミノタウロスにジケが飛びかかる。
その横には同じく飛びかかったミュコがいた。
フィオスは剣になっていた。
ミュコの双剣と合わせて四本の剣がミノタウロスの首を切り裂く。
「ミュコちゃん、カッコいい!」
「ジケ兄もカッコいい!」
少し離れたところでグルゼイとヘレンゼールに守られて戦いを見ていたタミとケリがジケとミュコによる協力攻撃に拍手を送る。
「どーよ!」
ミュコは拍手に応えるように二人に手を振る。
攻撃のタイミングとしては完璧だった。
あんまり無茶はしてほしくないとは思いつつもジケも同じことをしているのだから文句は言えない。
「にしても……急になんなんだ?」
温泉が噴き出してミノタウロスが出てきた。
なんでこんなことになったのかとジケは首を傾げる。
温泉が噴き出したこととミノタウロスが出てきたことの関係はありそうだけど、どうしてこんなことになったのかがよく分からない。
「……なあなあ」
「なんだ、リアーネ?」
「あれ食えるかな?」
リアーネは倒したミノタウロスを指差した。
ダンジョンの中でニノサンがしたミノタウロス意外と美味いという話をリアーネは覚えていた。
機会があるなら食べてみたいなと思っていたが、アルケアンたちの救出が先だったのでミノタウロスは魔石だけを取り出して死体は諦めていた。
ダンジョンの中では魔物の死体は消えてしまうけれど、ダンジョンの外に出たものは消えない。
現に倒れたミノタウロスは倒れたままである。
「まあ食べられるんじゃない?」
「じゃあ……」
「……聞いてみるよ」
期待した目でリアーネがジケを見つめる。
ジケたちが倒したものであるが一応鉱山で現れたものだし好き勝手にするのは違う。
色々大変なタイミングなのにリアーネは気楽なもんだとジケは思わず笑ってしまう。
ミノタウロスのことを警戒しながらも一度坑道を封鎖して離れる。
ツケアワシが話を聞いたところいきなり轟音が坑道から轟き、噴き出す温泉と共にミノタウロスが飛び出して来たのだという。
「調べてみないことにはなんとも言えませんが……おそらくミノタウロスが崩落に手をかけて温泉が噴き出したのでしょう」
崩落に巻き込まれて潰れていたミノタウロスがいた。
出てきたミノタウロスは潰れたミノタウロスをどうにかしようとして崩落の岩をバトルアックスで攻撃した。
結果微妙なバランスを保っていた崩落がさらに崩れて崩落で押さえられていた温泉が噴き出してミノタウロスが外に押し流されてきたとジケは予想した。




