帰るまでが救出です3
「ふんっ!」
リアーネの剣とミノタウロスの拳が衝突する。
拳が硬かろうが剣が通じないほどではなく、ミノタウロスの拳に刃が食い込む。
それでもミノタウロスは拳を引かない。
「どりゃあ!」
リアーネは押されながらもミノタウロスの拳を弾き返した。
「あ、危ないです!」
戦いに興奮し始めてミノタウロスの目は真っ赤に充血している。
興奮に痛みを忘れてすぐさま別の腕をリアーネに向かって振り下ろす。
割り込んだミュコが二本の剣を使って拳を受け流す。
拳を受け流したミュコの腕のほうが痺れるようなパワーがあったけれど乱雑な狙いの一撃だったので上手く逸らすことができた。
「おりゃっ!」
だがミノタウロスの腕は二本ではない。
さらにまた拳を振り下ろそうとしているところにライナスが切りかかった。
リアーネを狙ったミノタウロスの腕を目掛けて剣を振り下ろした。
魔力の噴射で勢いを得たライナスの剣は腕を半分ほど切り裂きながらも切り裂ききれずに拳を地面に叩きつけさせる形となる。
「燃えろぉ!」
エニが魔法を放った。
まるでエニの魔獣であるフェニックスのシェルフィーナを模したような形をした炎が飛来してミノタウロスは残された一本の手で炎を防ごうとする。
なんとか頭は守ろうとエニの炎を手のひらで受けた。
炎がミノタウロスの手を包み込み、燃やす。
体も炎が包み、ミノタウロスは鳴き声をあげて炎を振り払うように暴れる。
「今だ!」
隠れていたジケとニノサンが飛び出す。
「腕が多くてわずらわしいでしょう」
光に包まれてジケよりも速くミノタウロスに接近したニノサンは腕を一本切り落とした。
鋭く、冷徹な一撃だった。
「負けてらんないな! フィオス、行くぞ!」
フィオスを剣にして双剣スタイルとなったジケの狙いは堅実である。
ミノタウロスの足を切りつける。
足の後ろの、人間でいえば筋のところを狙い、右足を切り付けたジケはミュコの動きを真似るように回転を加えて勢いをつけて左足の筋も切り裂いた。
ミノタウロスからしてみれば些細なダメージだっただろう。
しかし急に足に力が入らなくなって膝をつく。
チリチリとところどころが焼け焦げたミノタウロスが周りを見た時にはもうすでにジケたちに囲まれていたのである。
「上だよ、上」
まだ何もしていない人が一人。
ミノタウロスは魔力を感じて上を向いた。
大きな氷の塊がミノタウロスの頭上に生み出されていた。
「これはどうですかね?」
しっかりと大きくなるまで魔力が込められた氷からは圧力を感じる。
普通なら簡単にかわせただろう。
けれども今のミノタウロスは足を切られて膝をついている。
「えいっ!」
リンデランが杖を振ると氷の塊が落ち始めた。
ミノタウロスは三本の腕を使って氷の塊を受け止めようとした。
膝をついて体にうまく力が入らない中で氷の塊の落下が止まる。
だが均衡は一瞬であった。
「黙って見てると思うか?」
ジケはフィオスに槍になってもらいミノタウロスの腕に投擲した。
ギリギリのところで支えていた腕はわずかに痛みに怯んでしまった。
氷の塊を支えきれなくなってミノタウロスの頭が下敷きになる。
「みんなで一斉攻撃!」
それでもミノタウロスの体はピクピクと動いている。
油断せずにトドメを刺しに行く
「良いとこもらうぜ!」
割れた氷の下から現れたミノタウロスの頭にライナスが飛びかかった。
「それじゃあ邪魔させないようにしなきゃな」
ライナスは首を狙っている。
ジケやみんなでミノタウロスの腕を攻撃して防御させないようにする。
「おりゃーーーー! あーーーーーー!」
ライナスが勢いよく剣を振り下ろす。
完璧だった。
ガードもできずライナスの剣がミノタウロスの首をはね飛ばした。
ただしライナスの剣が攻撃の衝撃に耐えられずに折れてしまったのである。
「お、怒られる……」
「……締まんないなぁ」
せっかく四本腕のミノタウロスを倒したというのにライナスは折れた剣を見つめてうなだれている。
勝利の余韻も何もあったものではない。
「とりあえず勝ったしダンジョンからさっさと出よう」
他にミノタウロスが寄ってくることもあるかもしれない。
戦いの反省や剣が折れたショックに浸ることは後回しにしてジケたちはダンジョンを抜けたのだった。
あとは鉱山を出ていくだけ。
崩落しないように慎重に道を進んで、外に出た時には真夜中だったけれどツケアワシはジケたちを待ってくれていた。
アルケアンたちは泣いて生還を喜んでいる。
崩落に巻き込まれて無事に帰ってこれたのだ。
「ありがとうございます、ジケ君」
「どういたしまして、リンデラン」
ますます好きになっちゃいそう。
生還を喜び、家族と抱き合う坑夫たちを優しく見つめるジケの横顔をリンデランも優しく見つめていたのであった。




