帰るまでが救出です2
「ダンジョンが何かしてるんだな」
ダンジョンは不思議なところだと聞いたことがある。
もちろん不思議なことは誰でも分かっているのだが魔物が出てくる異空間という他にダンジョンによっては明らかに何かの力が働いたかのような動きを見せることがあるという。
ミノタウロスの動きも絶対におかしい。
ダンジョンがジケたちとミノタウロスを引き合わせようとしているとジケは思った。
「向かってきてるならどうするの?」
「戦おう。避けて通れないならやるしかない」
どうすると言われても答えはひとつだ。
向かってきてしまうなら戦うしかない。
早めに判断を下せば準備もできる。
「ヤバそうって言ってたけど何がヤバそうなの?」
向かってくるからヤバそうではないようだとエニは思った。
ミノタウロスの何がヤバそうなのか気になった。
「俺に見えてる範囲では向かってミノタウロスの腕が四本あるんだ」
「よ、四本?」
「なんだそりゃ?」
「分かんないよ。でも確かに四本あんだよ」
最初にヤバそうと言ったのはジケが魔力感知で見たミノタウロスには腕が四本あるからだった。
体格も他のミノタウロスより一回り大きく、まさしくヤバそうなミノタウロスに見えたのである。
腕が四本あるミノタウロスなんて聞いたことがない。
確かにヤバそうだとみんなも思った。
「フルメンバーで行こう。アルケアンさんたちはビリードさんたちと下がっていてください」
迎え討つと言ってもアルケアンたちの近くで戦うのはリスクが大きい。
アルケアンたちには下がっていてもらい、ジケたちは少し前に出てミノタウロスと戦う。
「出来れば奇襲したいけどどれぐらいでバレるとか分かんないな……」
ここまでの戦いで考えるとミノタウロスはやや鈍い感覚の魔物である。
奇襲に気づくのもギリギリで反応速度も遅くも速くもない。
ただ四本腕のミノタウロスが他のミノタウロスと同じかは分からないし、これまでは後ろから奇襲を仕掛けてきた。
向かってきているミノタウロス相手だと正面か、回り込めて横になる。
後ろまで回り込んで奇襲できると考えるのは少し厳しいだろう。
ミノタウロスが誰を追っているのか分からないがジケたちを追って方向転換しているのだ、後ろに回り込もうとしてもバレてしまう可能性があるのだ。
「正面にリアーネとライナス、ミュコがサポートにつくんだ」
「ジケは?」
「俺とニノサンはそれぞれ左右に分かれて横から奇襲だ」
後ろまで回り込むことはリスクが大きいけれど正面で引きつけてくれている間に横に回り込むぐらいはできるだろう。
小回りがきくジケと素早く行動できるニノサンで挟み込むように攻撃する作戦である。
「できるだけ素早く倒してアルケアンさんたちを外に出してあげるぞ」
外のみんなも心配している。
早くアルケアンたちを安全な場所に送り届けてあげたい。
あとは帰るだけなので力も出し惜しみをしない。
ジケはアルケアンたちを残して少しミノタウロスの方に向かう。
木々の間隔がやや近くてミノタウロスが暴れにくそうな場所を戦いの場として選んだ。
隠れるのにもちょうどいい。
「ニノサンはあっちの方から」
「分かりました。お任せください」
「合図はエニの魔法にしよう」
「うん、分かった!」
「もうだいぶ近づいてきてる。みんな怪我なく帰るぞ!」
「「おー!」」
歩いてはいるもののミノタウロスの体は大きく一歩は大きい。
気づけばミノタウロスもだいぶ近くまで来ていた。
ジケとニノサンは木の上に隠れて剣を手にしたリアーネが堂々とミノタウロスを待ち受ける。
ライナスとミュコはリアーネの一歩後ろで戦いに備えて、さらに後ろにはリンデランとエニも魔法を使えるように待機する。
平均年齢こそ低いもののみんな意外と実力者。
協力して戦えば大体の敵は問題ないだろうとジケは思っている。
「来る……」
耳がいいミュコには一足早くミノタウロスの音を感じ取っていた。
重たい足音、草をかき分ける音、みんながそうした音を聞き取り始めた時には荒い呼吸までミュコには聞こえている。
「なんの冗談かと思ったけど……やっぱ冗談じゃねぇか」
木々の間からミノタウロスが姿を現した。
ジケがウソをついているだなんて思わないけれども四本腕のミノタウロスなんて信じにくい存在である。
しかし現れたミノタウロスには確かに四本の腕が生えていた。
「まあ武器ないだけマシか」
四本腕のミノタウロスは武器を持たず素手であった。
リアーネの姿を見つけたミノタウロスの目つきが一気に険しくなる。
仰け反るように顔を上に向けて雄叫びを上げる。
そしてリアーネに向かって拳を振り上げながら襲いかかった。
「はっ! 分かりやすいな!」
戦いの挨拶もなければ睨み合って読み合いもない。
何のきっかけもないただの暴力での始まり。
面倒がなくていいとリアーネは笑みを浮かべる。
風を切る拳が振り下ろされてステップで軽くかわす。
「私もいいとこ見せなきゃいけねえんだ!」
ジケに認めてもらおうとする人は多い。
こうした場面でしっかりと活躍してアピールしておかねばならない。
リアーネは次々と振り下ろされる拳の一つに狙いを定めて剣を振り上げた。




