帰るまでが救出です1
「おじ様!」
「……リンデラン!」
ビリードの案内で坑道を進んでいくと先の方に明かりが見えた。
フィオスが渡した松明でなんとか明かりを確保していたアルケアンたちであった。
リンデランがアルケアンに優しく飛びついて無事を喜ぶ。
「どうしてここに?」
「迂回路を探したんです」
「迂回路を……?」
「ひとまずここを離れましょう。暑すぎる」
崩落の向こう側では相変わらず温泉が噴き出している。
そのためにアルケアンたちがいたところも暑かった。
しかし助けや連絡があるかもしれないためにあまり崩落からも離れられなかった。
話をしたいが暑いところにいては体力を奪われてしまう。
ジケたちはひとまず崩落近くから離れることにした。
「迂回路を探して……ダンジョンを越えてきたのですか」
ダンジョンの出入り口近くまで移動してきた。
他の坑道に比べて気温は高いものの崩落近くよりはいくらか楽である。
「体の調子はどうですか?」
「リンデランとお友達のおかげでだいぶ良くなったよ」
アルケアンたちはだいぶ衰弱していたものの命に関わるほどではなかった。
失った体力はすぐには戻らないもののリンデランが体を冷やしてエニが治療してやるとだいぶ顔色は良くなった。
「君のスライムには大きく助けられた……僕たちに取って希望だったよ」
アルケアンはジケが抱えるフィオスに目を向ける。
壁の隙間を溶かし広げるようにしてフィオスが出てきた時には非常に驚いた。
野生の魔物、敵かと思ったけれどフィオスが体の中に持っていた水筒とメッセージの紙を吐き出して、味方の送ってくれたものだと分かった時にはまだ希望があるとみんなの顔が明るくなった。
魔法で出した小さい火に照らされた青いスライムが輝いて見えるようだった。
その後フィオスは何往復もして水や食べ物、状況を知らせるメッセージなどを運んでくれた。
フィオスがいなかったら暑さにやられていただろう。
仮に体が耐え抜いても精神的に耐えられなかったかもしれない。
命の恩人ならぬ命の恩魔獣といってもいい。
「まだですよ。無事に帰って初めて終わりです」
感謝するのはまだ早い。
まだ崩落の危険はあるし帰るのにダンジョンを抜けねばならない。
助け出せたと安心できる状況ではないのだ。
「とりあえずみなさん動けますね?」
「ああ、こうなったら這ってでも帰るさ」
持ってきた食料などを食べてできるだけ体力を回復させてダンジョンに入る。
「鉱山の中なのに……」
ダンジョンに入ったアルケアンは驚いたように周りを見ている。
鉱山の中に自然広がる空間があれば誰でも驚くだろう。
「ダンジョンとは不思議なものですね」
坑道の中の閉塞した空気よりも開放感がある。
まだ外ではないけれど気分的にも坑道にいるより良い感じがあった。
「さっさと抜けちゃおうか」
素早く抜けるためにグルゼイからダンジョンでも魔力感知解禁してもらった。
魔力感知を広げて警戒しながら一番最初に入ってきた出入り口に向かう。
「ちっ……そう簡単にはいかないか」
「どうしたの?」
「ミノタウロスだ。……しかもなんかやばそうだ」
ジケの魔力感知の範囲に動く大きなものが入ってきた。
ダンジョンの中で動く大きなものなど考えずとも何か分かる。
ジケは魔力感知をミノタウロスの方に集中させた。
遠くてぼんやりとしていたミノタウロスの姿が見えてジケは顔をしかめた。
ちょうど進みたい方向にミノタウロスがいて、しかも運が悪いことにジケたちの方に向かってきている。
「避けられるなら避けちゃおうよ」
まだ相手が気づいていないのなら戦いを避けることができる。
魔力感知無しでは避けるのが難しいが魔力感知で分かっているのなら戦わずにいてもいい。
特に今はアルケアンたち体力的に弱った人を連れているなら戦わない選択肢も必要だ。
「そうだな。避けちゃうか」
戦わなきゃ、なんて思っていたけど確かにエニの言う通りだとジケもハッとする。
「この先にミノタウロスがいるので少し迂回して進みます」
ジケは戦いを避けることにした。
魔力感知でミノタウロスの動きを見ながら大きく回り込んで行く。
「…………」
「どうしたの?」
急に立ち止まったジケの顔をエニが覗き込む。
「こっち来てる……」
「えっ?」
ミノタウロスが方向を変えた。
ジケたちの方に真っ直ぐ向かってくるミノタウロスを避けて回り込もうとしていた。
なのに回り込もうと方向を変えて移動したらミノタウロスも進む方向を変えてきた。
しかもジケたちが移動している方向にである。
「……もう少し移動してみよう」
なんだかおかしい。
そう思いながらももっと迂回してみる。
「やっぱりこっちに向かってる」
移動するとミノタウロスは方向を修正してジケたちの方を向く。
「もうバレてるってことか?」
「それにしてはのんびり歩いてるしな」
向かってはいるものの追いかけているような雰囲気ではない。
気づいていて追いかけてきているのなら走ってもおかしくない。
けれどミノタウロスは走ることもなくノソノソと歩きながらジケたちの方に向かってきているのだ。




