鉱山の中のダンジョン5
「まかせとけぇー!」
ものすごいスピードでミノタウロスと距離を詰めたライナスは飛び上がってまっすぐに剣を振り下ろした。
「筋は悪くないが……愚直すぎるな」
「あの年ならしょうがないでしょう」
ライナスの一撃をグルゼイとヘレンゼールで評する。
鋭く基本に忠実。
しっかりと腰も入ってるし単なる剣の振り下ろしとして評価するなら悪くない。
しかしマイナス点が大きいと二人は思った。
「うげっ!?」
ミノタウロスはガードしたままだった。
当然ライナスの攻撃もガードされる。
ライナスとしてはそれでもいいつもりだった。
最も良い結果としては一撃で一刀両断。
ミノタウロスを盾に真っ二つにできれば最良といえた。
ダメでもガードぐらい切り裂ける。
悪くても腕の一本ぐらいは、なんて考えていた。
しかしライナスの想像よりもミノタウロスは硬かった。
腕の一本すら切り落とすことができずに刃が止まってしまった。
ミノタウロスは刃が食い込んでいない方の腕を振り上げる。
「次の動きに移るのも遅い」
切れると思っていた。
だからライナスが想定していた次の動きも切った上での行動である。
想定外のことに判断が遅れる。
「やあっ!」
ミノタウロスに殴られたら無事では済まない。
フォローに入ろうとしたジケだったがそれよりも速く動いた人がいた。
ジケの隣で走っていたミュコである。
「なかなかやりますね」
「少し意外だったな」
二本の剣を使ってミュコはライナスに振り下ろされた拳を受け流した。
ライナスの頬ギリギリを拳が通り過ぎていき、なんとか直撃は避けられた。
これまでのミュコは二本の剣を振り回すだけに近いような形だった。
剣舞の動きを取り入れて絶え間なき攻撃で相手を翻弄する戦い方であったはずが、なかなか様になった攻撃の受け流し方である。
「ナイスだ、ミュコ!」
ライナスが立て直す時間を作ろうとジケが前に出る。
ミノタウロスの脇腹を切りつけるが思いの外刃が入らない。
坑道で戦ったミノタウロスよりも硬いとジケは感じた。
倒れていたミノタウロス同様に坑道にいたミノタウロスも空腹で弱っていたのかもしれない。
「させませんよ」
ニノサンが指で何かを弾くような動作を見せた。
ジケのことを攻撃しようとしたミノタウロスの目の前に指先ほどの小さな光の玉が飛んできた。
パンッと光の玉が弾けて閃光が走る。
光の玉がなんなのかと見極めようと凝視していたミノタウロスはまばゆい閃光をまともに見てしまった。
頭が弾かれるようにして光から目を逸らしたが時すでに遅し。
光がチカチカとして何も見えずミノタウロスの視界は奪われた。
「ライナス!」
「おうっ!」
ミノタウロスは目をパチパチさせながら視界を回復させようとしているけれど、強い光を受けた目は魔物の高い回復力でも簡単には治らない。
ライナスが無防備になったミノタウロスの懐に入り込む。
ジケは魔力感知を日々鍛錬している。
そのために魔力感知をしていなくても魔力に対して敏感になっていた。
真横に振られたライナスの剣の数カ所から魔力が噴き出した。
噴き出した魔力によって急加速したライナスの剣はミノタウロスの腹部を深々と切り裂く。
「やりぃ!」
ミノタウロスの腹部から噴き出した血を浴びないようにライナスは素早く飛び退く。
「えーい!」
この隙を逃さない。
リンデランがいまだに目がチカチカとしているミノタウロスの顔面に魔法をぶつけた。
氷の塊が目と目の間に衝突して砕けて強い冷気を放つ。
ようやく見えてきていた目の周りが凍りついて塞がれた。
「うりゃりゃ〜!」
ライナスの一撃で内臓がチラ見えしている。
ちょっとグロテスクな光景に怯んだっておかしくないのだがミュコは一切気にしないようにライナスが切ったところを切りつける。
内臓が裂け、傷口がより深くなりミノタウロスは雄叫びのような叫び声を上げる。
しかしそれでもまだ死なないのだから生命力の高さは凄まじい。
「ライナス、一緒に行くぞ!」
「おうよ!」
目が見えないことには何もできない。
目の周りに張り付いた氷を引き剥がそうと足掻くミノタウロスに向かって飛び込むようにジケとライナスが距離を詰めた。
ジケはフィオスを剣にしてグッと腕を引く。
そしてライナスとタイミングを合わせて二人同時にミノタウロスの腹部の傷を目掛けて剣を突き出した。
表面は筋肉で硬くとも中身は柔らかい。
二人の剣はミノタウロスの内臓を切り裂きながら深く突き刺さり、背中から剣が飛び出してくる。
「うわっ!」
「おい、ずる……うぎゃっ!?」
内臓を傷つけられたミノタウロスは口から血を吐き出した。
ジケはフィオスをスライムに戻して素早く回避したけれど、ライナスは剣が突き刺さったままで逃げられず頭から血を被った。
「きたね……ちょっ、あぶね!」
血を吐いたミノタウロスはそのままゆっくりと倒れた。
危うく潰されかけたライナスは剣を手放してなんとかミノタウロスの下敷きになることだけは避けられた。
「倒した後も油断しないことだな」
「肝に銘じます……」
血で汚れてライナスはすっかりシュンとしてしまった。




