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問題と温泉が噴き出して3

「外で立ち話もなんですし中にお入りください」


 まだ子供のジケに対してもしっかりとした丁寧な態度を崩さない。

 お屋敷の中をツケアワシの案内で移動する。


 こうした立派なお屋敷にはだいたい美術品が置いてあるものだ。

 あまり見栄えを気にしないヘギウス家にもちょっと絵やツボが飾ってあったりする。


 そしてハンナーディカのお屋敷にはあまり見慣れない工芸品が置いてあった。

 手のひらぐらいの大きさの金属製のオブジェで魔物を模ったもののようだ。


 色んな魔物があり、なかなか独創性に富んでいて面白い。


「興味を持たれましたか?」


 ジケがオブジェを見ていることに気づいてツケアワシが声をかける。


「ええ、ちょっと面白いなと思いました」


 少しデフォルメして形を真似ているので可愛らしさが強調されていたりよりカッコよくなっていたりしている。

 あまり美術品に興味がないジケではあるが魔物のオブジェはちょっと欲しいと思った。


「気に入ったものがあれば一つお譲りしますよ」


「それは……」


「友好の証だと思っていただければ。欲しいと思ってもらえる人のところに行くのならこの置物たちも本望でしょう」


 ツケアワシは穏やかな笑顔を浮かべる。


「……ではスライムはありませんか?」


「スライム……そう言えばスライムを抱えておいでですね」


 ジケはフィオスを抱えて持っている。

 人の家に行くのでどうするか悩んだけれどフィオスを抱えている程度で怒るような人ならジケの方から願い下げだと思ってフィオスを連れたままにしていた。


 ツケアワシはフィオスがいることにも特に何も言及はしていなかった。


「俺の魔獣のフィオスっていうんです。だからスライムがあれば嬉しいんですけど……」


「残念ながらスライムはありませんね」


「そうですか……」


「鉄でスライムを表現するのは難しい……その艶やかさや柔らかさは金属で表しきれずにただの丸い塊になってしまうでしょうね」


 確かにその通りかもしれないとジケは置いてあるオブジェを見た。

 全てが鉄で作られた魔物のオブジェは鉄一色である。


 手足があって頭や顔があるからちゃんと成り立っているのであってフィオスをそのまま鉄のオブジェにすると丸い鉄の塊になってスライムかどうか分からなくなる。

 フィオス商会の看板となっている絵ですらスライムであるフィオスを描いたのだと分かっていない人もいる。


「現実に存在する以外でお前の素晴らしさを表現するのは難しいんだな」


 ジケはフィオスを見る。

 青くて艶やか半透明で、硬くもなく柔らかすぎずもちもちプニプニ、変幻自在で表情もないのにどこか愛嬌たっぷりなフィオスを表現することが難しいというのは仕方ない。


「こちらを作っている職人に相談してみましょう」


「い、いえ……そこまでしていただかなくとも……」


「スライムのオブジェがあるのも面白いでしょう。職人の方も興味を示すかもしれません」


 ツケアワシはチラリとフィオスを見る。

 色々な魔物のオブジェを置いているがスライムのものを作ろうと考えたことは一度もなかった。


 難しそうであるがうまく出来たらいいものになりそうだと思った。


「私の好奇心のようなものです」


 相手に負担をかけないようにするのが上手いなと思いつつ聞いてくれるのなら任せてみようと思った。


「お口に合えばよろしいのですが」


 家に招待されて受けるもてなしといえば基本的には食事である。

 案内された部屋で席に着くと料理が次々と運ばれてきた。


「どれも美味しいです」


「ならばよかったです」


 色々と食べてみたがどの料理も美味しかった。

 マナーについても厳しくいうことはなく食事を楽しむことができた。


「ご当主様、お時間少しよろしいですか?」


「お客様の前ですよ?」


「申し訳ございません。喫緊の要件でして」


 食事もほとんど終わってのんびりムードになっていると部屋にハンナーディカの騎士が入ってきた。

 少し慌てていて、緊迫したような表情を浮かべている。


「少し失礼いたします」


 ツケアワシが席を立って部屋を出ていく。


「どうしたんだろうね?」


 タミの口を拭いてあげながらミュコが首を傾げる。

 来客対応中に報告しなければいけないようなことが発生した。


 つまりは問題が起きたということだろう。


「なんでしょうね……」


 リンデランも不思議そうな顔をしている。

 ハンナーディカ領はよく統治されていて問題も少ない。


 温泉があって観光としても賑わっているのにそれでも犯罪などしっかり取り締まっていて緊急の問題が起こるようなことなどほとんどない。


「お待たせして申し訳ございません」


 デザートとして綺麗にカットされたフルーツの盛り合わせが運ばれてきてジケはリンデランを皮切りにしてみんなからアーンされていた。

 そろそろお腹にスペースがなくなると限界を迎えるところでツケアワシが戻ってきた。


 変わらない態度に見えるのだけど少し表情が曇っているようにジケには思えた。


「何かあったんですか?」


「ジケ様、そしてリンデラン嬢にも関わることですので正直にお話しいたしましょう」


 ツケアワシは目を細めた後小さくため息をついた。

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