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問題と温泉が噴き出して2

「それはこれからいく町が鉄の町だと私が説明したからです」


 ニッコリと笑ってリンデランが答えた。


「鉄の町?」


 ジケは首を傾げた。


「ハンナーディカさんのお屋敷があるコウシは鉄の町として有名なんですよ」


「へぇ、知らなかったよ」


 今ではハンナーディカ領といえば温泉が第一のイメージであるが、元々ハンナーディカ領といえば鉄製品を多く生産している地域であった。

 古くから鉄鉱山があって職人も多く住んでいる。


 鉄鉱石を探していてミスリル岩盤層が見つかってハンナーディカ領でのフィーバーが起こった。

 職人たちが楽しむような温泉は昔からあったのだけどハンナーディカはミスリルで入ったお金を温泉に投資した。


 新たなる温泉を探して掘削を進め、温泉街への補助もふんだんに出してハンナーディカ領における一大産業へと押し上げたのである。

 ただ鉄製品もいまだに多く作られている。


 ミスリル鉱山は廃坑となったが鉄鉱山はまだ存在していて、ミスリルが採れた当時に承知されたミスリルを扱うこともできる職人などの系譜が受け継がれて良い鍛冶職人もいるのだ。

 だから安くて良い武器が手に入る。


 普通の町なら置いてないだろうタミとケリに合ったような軽い剣舞用の剣も見つかるかもしれない。


「だからおねだりに来たんだな?」


「えへへ」


「ふへへ」


 ようやく謎が解けたとジケがタミとケリの頭を撫でる。


「まあ鉱山見学の後探してみようか」


 そういうことならタミとケリに剣をプレゼントしてもいい。


「やったぁ!」


「ありがとう!」


「俺が探してやろう」


「いえいえ、私が見繕って差し上げますよ?」


 タミとケリに抱きつかれるジケに対してグルゼイとヘレンゼールが険しい目を向ける。


「ジケ兄と探すぅ〜」


「探す〜」


「あの……二人とも目が怖いです……」


「ふっ、ジケさんよりも良いものを私が送って差し上げます」


「お前は引っ込んでいろ。それは俺の役目だ」


「寝言は寝てから言うものですよ?」


「一生起きないようにしてやろうか?」


 なんともまあ醜い争いが勃発しているが自分から注意が逸れればいいやとジケは口を挟まないことにした。


「わ、私も欲しいなぁ〜……なんて」


 ちょっとかわい子ぶっておねだりしてみるけどやっぱり恥ずかしくなってミュコの顔が赤くなる。


「なんかいいものあればな」


「ほんと!? ふふ、ジケ大好き!」


「ありがとな。…………エニも、リンデランもな」


 流石にエニとリンデランの視線にもジケは気づいた。

 ほとんど旅行なのだ、多少財布のひもがゆるんでもいいだろう。


「お前は……なんか食べるものでいいか?」


 フィオスもジケにピッタリと体を寄せた。

 なんとなくおねだりされているような気分になってフィオスにもなんか買ってやろうとジケは思ったのだった。


 ーーーーー


 コウシは温泉の湯気とかまどの煙が入り混じって見える町であった。

 ムロワカはおしゃれな温泉街という雰囲気があったのに対してコウシはかなり落ち着いた雰囲気がある。


 町の人も観光客のような人はいるがムロワカほど多くもなく職人のような人も見られた。

 温泉街の賑やかさや華やかさも悪くはなかったけれど落ち着いた雰囲気があってコウシの方がジケは好ましく感じる。


 もしかしたらあまり騒がしいのが好きではない職人のためにコウシは温泉街として売り出さなかったのかもしれない。

 コウシでもヘギウス商会が宿を取っていてくれたのでそちらに荷物を置いてからハンナーディカの家に向かう。


「ようこそいらっしゃいました。私がツケアワシ・ハンナーディカと申します」


 ハンナーディカの現当主はやや細身の優しそうなおじいさんであった。

 貴族というよりもベテラン執事のような見た目をしているが柔らかい雰囲気があって人が良さそうだ。


「おじ様、お久しぶりです」


「リンデラン嬢、お久しぶりですね。大きくなられまして」


 リンデランがスカートをつまんで挨拶するとツケアワシはニッコリと微笑みを浮かべた。


「会ったことがあるの?」


「はい。何度かこちらの方に来させていただいているんです」


 ミスリルが採れた時よりも前からハンナーディカとヘギウスには繋がりがあった。

 だからミスリルを任されたのだけどミスリルのことがあってより結びつきは強くなった。


 ヘギウス家が抱える兵士や騎士に支給される一般的な武器はコウシの町の職人によって作られたものである。

 療養や旅行としてハンナーディカ領に来ることもあってリンデランもツケアワシとは顔見知りであった。


 遠い親戚のおじいさんぐらいの感覚すらあるのだ。

 ツケアワシの方もリンデランのことを可愛がっていて、来てくれたことを喜ばしく思っている。


「そちらの方がファオス商会の商会長殿、ジケ様ですね? お噂かねがねうかがっております」


「そんなに畏まらないでください」


 あまりにも丁寧な態度なのでジケも慌ててしまう。


「ヘギウスにとって大事なお客様なら私にとっても同様です」


「なら俺はヘギウスと友です。友にそんなにへりくだった態度を取ることはないでしょう」


「おやおや……噂に違わぬ聡明なお方のようですね」


 ジケの返しにツケアワシは驚いて笑う。

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