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神女じゃなく、ウルシュナ1

「抜かりないな……」


 朝ご飯も豪勢な物が並んでいる。

 ただし毒入り。


 美味しいから食べるけれどそうじゃなかったら食べずに我慢していただろう。

 それでも味は絶品だった。


 グルゼイならば食べただけでどんな毒かわかるのだろうけどジケはそこまでの域に達していない。

 朝ご飯を美味しくいただいた後フィオス製の解毒薬を飲んでおく。


「誰がこんなことしてるのかね」


 毒を盛るということは直接手出しはしてこないだろうと夜寝ることはできた。

 相手としてもジケに手を出していることがバレない程度に妨害したいのだという意図を感じる。


 料理そのものは美味しいし盛り付けも丁寧でしっかり作られているので毒を盛ったのは料理人じゃない。

 毒は上から振りかけている感じがある。


 持ってくる途中で毒をかけているのだ。

 つまり係員だろうなとジケは考えていた。


「まあ……分からなくもないか」


 ジケは軽くため息をつく。

 よそ者で、その上ウルシュナのことを連れて帰ろうとしているのだから邪魔なことは間違いない。


 神炎祭の主催である神宮は参加者に対して手助けも妨害もしないという建前をとっているけれど神宮の中でもきっと様々な意見がある。

 伝統的なルールに則っている人もいるがここまで勝ち残っているジケに対して焦りを覚えている人もいることだろう。


 そんな中でバレないように妨害する手立てが毒なのだ。


「卑怯な作戦には負けない。俺は正々堂々と勝ってやる」


 係員が呼びに来てジケはフィオスを抱えて会場に向かう。


「へぇ……お前が残っているとはな」


「こっちも意外だったよ」


 ステージではすでに対戦相手が待っていた。

 順当に勝ち上がればイカサと戦うことになっていた。


 そうなればジケとしては一つ勝ちをもらったも同然で楽に決勝に行けるはずだったのだがそう簡単にはいかない。

 待ち受けていた対戦相手はイカサではなかった。


「それではジケ対ムサカの試合を始めさせていただきます」


 ここまで勝ち上がってきた相手はムサカであった。

 二つ目の試練においてジケに次いで三番目に木札を集めた子である。


 ムサカは自分が一番だと思っていたのでジケに上をいかれて敵対視していた。

 勝ち残っているということはイカサのことを倒したのである。


 口先や態度だけでなく実力もあることはそれだけでも分かる。


「かははっ! ここまで残るなんてよ……意外とやるようだな! こいよ、ショウグ!」


 ムサカが自身の魔獣を呼び出す。


「おおっと……これはなかなか圧力があるな……」


 ムサカが呼び出したのはムダモルデクロコという巨大なワニであった。

 ムダモルデクロコ死者の魂を地獄に連れていくムダモルデという神が使役しているなんて逸話がある魔物であり、魔物としてもかなり強い部類に入る。


 四足で普通に立っているだけでもジケの腰ほどまでの高さがあって、大きな口はジケぐらいなら一口で収まってしまう。


「降参するなら今だぜ?」


 ムサカが笑いながらジケに剣を向ける。

 確かにこれは降参を促せるだけはあるとジケも感じる。


 けれどもここまで来て降参などできるはずがない。


「やるだけやってみるさ」


「そうか。それはよかった!」


 ムサカとしてもここで降参されてはつまらない。


「俺は魔獣と戦うけど……恨みに思うなよ!」


「なら俺もそうさせてもらう」


 むしろ好都合ぐらいにジケは思った。


「いけフィオス!」


 先制攻撃とばかりにジケはフィオスを投げ飛ばした。


「あっ……」


「ふっ、これでお前の魔獣はいなくなったな!」


 狙いはショウグなのだったが、ショウグは大きな口をカパッと開くと飛んできたフィオスを食べてしまった。

 会場に驚きが広がり、ムサカはニヤリと笑う。


「いけ、ショウグ! あいつも倒してしまえ!」


 ムサカが命令を下すとショウグは動き出す。

 動きそのものは緩慢に見えるのだけど大きいためか思いの外素早い。


「あんなのに噛まれたら怪我どころじゃないだろ!」


 ギザギザとしたを見せて迫るショウグの噛みつきをジケはかわす。


「ふっ! 硬いな!」


 反撃で木剣をショウグの頭に叩き落としてみるけれど鱗が硬くて全くダメージを与えられない。


「なんだ……ここまで勝ってきたのはたまたまなのか?」


 ショウグに任せておけば勝負が決まってしまいそうだとムサカはため息をつく。

 ジケの実力を過信していたのか、それともここまで戦ってきた人のレベルが運よく低かったのかなんて思った。


 自分が出ていくまでもなく、つまらない表情を浮かべる。


「次はウラベだろうな。こんな簡単には行かないだろうけど……ショウグ?」


 休みなくジケに襲いかかっていたショウグの動きが急に止まった。

 ジケが何かをしたわけではないのはムサカも戦いを見ていたので分かっている。


 それなのに急にジケを追いかけなくなった。


「ショ、ショウグ!」


 丸まったり体を伸ばしたり、ゴロゴロと転がったり。

 ショウグは戦いの最中なのにムサカですら見たことがない動きをし始めた。


「おい! やめろ!」


 ムサカが声をかけるけれどショウグは異常な行動をやめない。


「……ショウグに何をした!」


 何かは分からないが何かされた。

 ムサカはジケのことを睨みつける。

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