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身も心も温まりたい3

 知らなくて分からないなら試してみればいい。

 死ぬようなものでもないのなら失敗しながら前に進めばいい。


「また変なこと考えるもんだよな」


「変なことから生活が豊かになるんだよ」


 ジケはリアーネとユディットを連れて荷馬車に揺られている。

 荷台には他にもキーケックとクトゥワも乗っていて、ケントウシソウの乾燥コブなんかもたくさん積んである。


 向かっているのは町の近くを走る川。

 ケントウシソウの乾燥コブが水をたくさん吸収することがわかったのでお試しがてら川の水を輸送できないかと思って向かっているのだ。


 リアーネはまた新しいことをしようとしていると感心していた。


「川も微妙に遠いよな」


「確かにな。もうちょい近くにあればありがたいのに」


「これにもわけがあるんですよ」

 

 クトゥワによると遥か昔は街ももっと川のそばにあったらしい。

 けれど大規模な洪水が起きて甚大な被害が出たことがあって水脈が下にあって水が採れる今の位置に落ち着いた、なんてちょっとした学びも聞きつつ移動している。


「おっ、魔物が来てるぞ」


「珍しいな。リアーネ、馬車を守ってくれ。ユディット、いくぞ」


「分かりました」


「ちぇ、留守番か」


 走ってきたのは足が六本もあるやや特殊なウルフのタラルフという魔物であった。

 ただ基本的にはほとんどウルフと変わりがない。


 足六本の分ちょっと素早いけれど違いはその程度である。

 リアーネがケフベラスが引く馬車を止めてジケとユディットが馬車から飛び降りる。


「フィオス!」


 フィオスも積み重なったケントウシソウのコブの上からピョンとジケの胸に飛び込む。


「よし、いくか!」


 阿吽の呼吸でフィオスがジケを守る盾となる。


「敵は四体、まっすぐ向かってきます!」


 口からよだれを垂らしながらタラルフが走ってくる。

 ケフベラスはイカつい顔してても愛嬌があると感じるのにタラルフは可愛くないとジケは思う。


「むむ……ぬん!」


「おわっ!?」


 走ってくるタラルフに複数の先の尖った氷の塊が飛んでいった。

 ほとんどがかわされてしまったが一体のタラルフに氷が当たって吹き飛んでいく。


「キ、キーケック!?」


「僕戦う!」


 振り返ってみると魔法を放ったのはキーケックであった。

 魔物研究家としては魔物と戦える必要がある。


 時には魔物の生態を研究したり、時には自分で倒して素材を集めたりするからだ。

 クトゥワもあまり戦うような人には見えないけれど一定程度魔法を扱う腕を持っている。


 キーケックは研究の傍ら魔法も習っていた。

 エニやリンデランほどではなくともキーケックもそれなりに魔法が使えるようになっていたのである。


 炎や氷と尖った才能はないけれど色々使えるオールマイティな魔法使いとなりつつあった。


「ユディットは右を! 俺は左に行く!」


 キーケックの魔法で左右に一体ずつ分かれ、もう一体は下がっている。

 ジケとユディットでそれぞれ左右に分かれてタラルフを狙う。


 タラルフもそれぞれジケとユディットに向かう。

 飛びかかってくるタラルフに向けてジケが盾を構える。

 

 身長も伸びてきて力も強くなってきたジケであるけれど魔物が正面から飛びかかってきてまともにそれを受けるのはさすがに危うい。

 それでもジケは回避の動作を見せずにそのまま盾でタラルフを受けようとした。


「フィオス!」


 盾に飛びかかったタラルフがギャンと鳴いた。

 もちろんジケだってなんの策もなくタラルフの攻撃を受け止めるつもりなんてなかった。


 フィオスはタラルフが飛びかかる前まではただの丸盾だった。

 ジケが声をかけるとフィオスはさらに形を変化させる。


 盾の表面が盛り上がって鋭いトゲが飛び出してきた。

 空中では止まることなんてできなかったタラルフはそのままトゲ盾となったフィオスに突っ込んでしまったのである。


「おりゃ!」


 かなり痛いだろうけど致命傷にはなっていない。

 ジケは起き上がる前にと勢いを失って地面に倒れ込んだタラルフに素早くトドメを刺した。


「あっ、逃げた」


 ユディットの方もタラルフを倒していた。

 最初はゴブリンにも苦戦していたユディットもこれぐらいの魔物なら苦労せずに倒せるぐらいに強くなっていた。


 仲間がやられたタラルフは六本の足を活かして素早く逃げていってしまった。

 ジケはユディットと顔を合わせて肩をすくめる。


 別に魔物の討伐に来たのでもないから追いかける必要もない。

 スライムに戻ったフィオスを頭の上に乗せて剣を鞘に収める。


「燃やせるか?」


「おまかせ!」


 魔物の死体はそのまま放置しておくと他の魔物が寄ってくる原因になってしまう。

 倒したタラルフの死体を集めてキーケックが火の魔法で燃やして処理する。


「それにしてもよくやったな!」


 再び馬車に乗って移動する。


「うへへ!」


 ジケが頭を撫でてやるとキーケックは嬉しそうに笑う。

 周りにいるエニやリンデランといった人たちが凄すぎるだけでキーケックの魔法も十分強かった。


 あまり一緒に戦う機会はないので気づかなかったけれどキーケックも努力を重ねているのだなとジケは思った。

 一つの属性が強いのも才能であるが多属性を満遍なく使えるキーケックもまた才能があるといってもよかった。

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