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【第十八章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十三章

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弟の崩れた均衡

「くそっ!」


 シダルテイは苛立ちのままにデスクの上のものを腕で薙ぎ倒した。

 床にデスクの上にあったものが落ちてけたたましく音を立てる。


「デルドオ、なんでどこも落とせない!」


 シダルテイは自身の部下である騎士デルドオを叱責する。

 まだ三十代であるがシダルテイの右腕として活躍していて参謀的な役割も果たしている。


 シダルケイにかなり押されてしまった。

 ここで押し返さねばもはや後はただ見苦しく抵抗するだけになる。


 押し返せるはずだった。

 シダルケイの性格なら魔物の襲撃を放っておくはずがなく、兵力をオオツアイに割くだろうと考えていた。


 理想としては全ての戦場から少しずつ余剰の兵量を集めることなのだろうけど実際にはそんなことできやしない。

 どこからか素早く兵を送らねばオオツアイは魔物に蹂躙されてシダルケイに対する支持は揺らぐことになる。


 どこかしら兵の薄い場所ができて、そこからシダルテイの反撃が始まるはずだった。

 なのにシダルケイ側の兵力に大きな移動がなく、シダルテイの反撃は相手を打ち破ることがなく勢いが衰えてきていた。


 このままでは完全に負けてしまう。


「ベルンシアラから返事は?」


「……宝石を本人が直接持ってこいと」


「戦争中の俺に動けというのか!」


 シダルテイはデスクに残っていたインクの瓶を投げつけた。

 しかしデルドオには当たらずインクの瓶は壁に当たって砕け散った。


「暗殺は?」


「失敗です」


「なぜだ!」


「こちらの手のものが少なすぎました。必要な準備を整えきれず警戒していた相手に届きませんでした」


 ガデンの件でシダルケイ側はスパイの洗い出しに尽力した。

 全てではなくとも多くのスパイがバレて捕らえられてしまった。


 見つからなかったスパイも正体がバレることを恐れて活動を控えていた。

 シダルケイはしっかりと暗殺の備えもしていて暗殺計画も失敗してしまっていた。


 変にジケたちに手を出そうとしたことが巡り巡ってシダルテイに大きな影響を与えていたのである。


「奴らは何をしている? オオツアイの襲撃にも失敗して、宝石もチンタラと……」


「はっ、怒ってるな」


「そのようですね」


「お前ら……」


 ノックもなく部屋に入ってきたのはフクリサと秤の男であった。

 ちょうどシダルテイが話していた内容の相手で、二人の尊大な態度にシダルテイは怒りで血走った目を向ける。


「そのような目で見られても困ります」


「お前ら、約束が違うじゃないか!」


「何がですか?」


「何がだと? お前らは俺が勝てるように手助けし、俺はお前らが活動できるよう手を貸す。そう約束していただろう!」


「ええ、そうですね」


「それがなんだ! 宝石を盗み出してベルンシアラと交渉するはずだったのに今になってようやく持ってきて、オオツアイを魔物に襲わせると言っていたのに失敗しているではないか!」


 シダルテイは怒りのままにデスクを殴りつける。


「宝石はお持ちしましたし交渉はこちらのやることではありません。オオツアイも魔物に襲わせました。結果的に向こうが撃退したというだけです」


「何もかも中途半端な仕事しやがって! あれだけの死体だって集めるの大変だったんだぞ!」


「ふぅ……勘違いしないでいただきたい」


「なんだと?」

 

「我々はあなたの小間使いではない。何もかもあなたの望み通りに働いてやることもないのですよ」


 秤の男はため息をつく。

 自らの至らなさをこちらのせいにされても困ると思った。


「いいのか?」


「何がですか?」


「もうすでにあんたらと俺の関係は噂になってる。このまま俺が負ければあんたらもこの国から排除されるんだよ」


「脅しですか?」


「いや、ただの事実だ」


 利害が一致しているから協力しているだけで国をむしばむ悪魔教と手を結びたくはないというのがシダルテイの本音だった。

 なんの仕事もまともにやらないで堂々と権利だけ主張されても応じるつもりなど微塵もない。


「……はぁ」


 秤の男は深いため息をついてやれやれと首を振る。


「お相手には王家の証なるものがあるのでしょう?」


「そんなものがどうしたという。はるか昔に失われたものだ。仮に本物だとしても昔のような意味のない骨董品だ」


「そうですか」


 その骨董品で窮地に追い込まれているのは誰なのだと鼻で笑うのを秤の男は我慢した。


「宝石はお渡ししましょう。ご自由にお使いください」


 秤の男は懐から宝石の入った箱を取り出してデスクに置いた。


「……一つ逆転の策があります」


「それは本当か?」


「ええ。殺してしまえばいいのですよ」


「殺すとはどうやって……」


「我々に良いものがあります」


 秤の男はニヤリと笑った。

 すでに崩れた均衡は元に戻らない。


 ならば徹底的に崩してしまうのがむしろ美しいと思いながらシダルテイに作戦を耳打ちする。


「これだからあいつは気に入らない……」


 またろくでもないことを考えている。

 そう思ってフクリサは顔をしかめていた。

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