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【第十八章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十三章

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閑話・古くからの習慣

 王子が聖水を飲みきり、拍手で見送られながら王様も下がった。


「……よく飲んだものだ」


 飲み切ったとは言ったが実際飲んだのは杯の半分ほどの量である。

 それでも幼子にしては飲んだものであると王様は感心した。


「こちらはどういたしましょう?」


 王様と一緒に聖杯を持ったビクシムも下がってきていた。

 聖派の中には飲まなかった聖水が半分入っている。


「そこらに捨てておけ」


「ですが……」


「お前も分かっているだろう」


 王様は椅子に座ると小さくため息をついた。


「その聖杯は本物ではない。そして聖水も同じく本物ではないのだ」


 目を細めて聖杯を眺める。

 偽物の聖杯はかなり昔に作られていて、本物がどんなものなのか分からない今誰も真贋を鑑定もできない。


「なんならそれごと捨てても同じものがまだ三つある」


「そのようなことは……」


 ビクシムは苦笑いを浮かべる。

 偽物だと分かっていても王室の聖杯とされているものをそこら辺に捨てるなんてことはできない。


「はるか昔に盗まれたものを今でも誤魔化しているのだから滑稽なものだろう」


「なぜこんなことを続けているのでしょうか?」


 偽物の聖杯で奇妙な習慣を続けている。

 どこかでやめてもいいはずなのに不思議とやめないのだ。


「知らない。ただ父も祖父もこれは続けてきた。やらないこともできるだろうが古くからの貴族から疑問の声が出るのを恐れていたのかもしれないな」


 そうするのが習慣だからと王様も引き継いでしまった。

 はるか昔は王様が説明していたように本当に聖杯があってなんらかの効果を持っていたのかもしれない。


 けれど今はただの習慣でしかない。


「子の健康を願うという意味では悪しき習慣でもないが……嘘で塗り固められたつまらない伝統ではあるな」


 王家としてのプライドがあったのだろうかと王様は考える。

 聖水を生み出すとされる本物の聖杯ははるか昔に盗まれてしまった。


 その時に盗まれたことを公表して犯人を追いかければよかったのに当時の王はそのことを隠した。

 偽物の聖杯を作らせてあたかも本物の聖杯があるように聖水を飲ませる習慣を続けた。


「さらには宝物庫を守るためだけにロイヤルガードまで動員してな」


 今でも王城の宝物庫を守るためにロイヤルガードが置かれている。

 ロイヤルを守っていないだろうと王様は鼻で笑う。


 どれもこれも王様には理解できない行為であるが当時には何かの事情があったのかもしれない。


「ですが先日の襲撃ではそのおかげで盗まれたものはありませんでしたから」


 演劇の最中に悪魔教が王様を含めた王城に招待されていた貴族を襲撃するという事件が過去にあった。

 表向きには襲撃事件としてだけ処理されているのだが裏では宝物庫にも侵入しようと襲撃があったのである。


 集まった貴族たちを守るために兵士たちも集中していてあぶないところだったが宝物庫に配置されていたロイヤルガードのおかげで事なきを得た。


「まあ……そうではあるな」


 ロイヤルガードがいなかったら宝物庫から何か盗まれていた可能性はある。

 価値あるお宝もいくつか眠っているのでそうしたものが盗まれることがなくてよかったとは思う。


「ともかくアユインの時もやったのだ、今更取りやめるということできない」


 アユインが生まれた時はまだ王座が安定せず波風を立てないように必死だった。

 今産まれたのが最初の子だったらこんな習慣無視していたかもしれないが一度やってしまったものを今更無かったことにできない。


「しかし……本物の聖杯はどこにあるのでしょうか?」


「パルンサンに盗まれたものの多くは時々出てくるのみで失われたままのものも珍しくない……幸運でもない限りは出てこないだろう」


「迷惑な大泥棒ですね」


「パルンサンに狙われたのだから当時の王が悪い人だった可能性もある」


「そのような事……」


「偽物作って誤魔化すような人だ。あり得ない話ではないだろう?」


 王様はニヤリと笑った。


「まあその聖杯の中身についてはうまく処理しておいてくれ。会場の警備、頼むぞ」


「承知いたしました」


 ビクシムは頭を下げると部屋から出ていった。


「……幸運でもない限りはこの習慣は続くのだろうな」

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[一言] 青い鳥はすでにそばに……
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