大泥棒の末裔を名乗る男2
「こ、こいつ……」
またも礼儀もないように激しくドアが閉じられてリアーネがイラついたような顔をする。
人間性に問題はありそうだけど詐欺師という感じはしない。
ジケのことを騙してどうにかしようとする人ではなさそうなことだけは安心した。
「次あのドアから手だけ出したら引きずり出してやんよ……」
「いいって……」
別に礼儀にうるさいわけではないリアーネだが最低限の礼儀もないというところには不快感を覚える。
「反応、ないね……」
いざ手記を渡してみたけれどそこからどうするのかジケには分からない。
いつ返してもらえるのか、返事をいつしてくれるのかも不明なのである。
「一度出直そうか」
モロデラが手記の解読するまでに時間がかかることもあり得る。
ひとまず今日は帰って明日にでも出直してみようとジケは思った。
突っ立って待っていても暇なだけである。
「君! これは一体どこで……」
「テメェ、これ以上は許さねえぞ?」
「むやみに会長に近づかないでください」
帰ろと後ろを向いた瞬間ドアが激しく開いてモロデラが飛び出してきた。
手記を片手にジケに詰め寄ろうとしたけれどリアーネとユディットが素早く剣を抜いてモロデラの首に突きつけた。
動けば首が落ちる。
モロデラは両手を振り上げた奇妙な体勢のまま動きを止めた。
モロデラはボロを身にまとった細身の男性だった。
頬がこけていて髪もボサボサ、なのに目はやたらとギラギラしている。
モロデラの額から冷や汗が垂れる。
ちゃんと礼儀を持って接すればこんなことにならなかったのに最初から態度が悪すぎるのだ。
「はじめまして、モロデラさん」
ジケは二人に剣を収めさせることなくニコリと笑ってモロデラに挨拶する。
先ほど通行妨害してきた男たち相手にもそうだが舐められそうならその前にしっかりと態度で示しておかねばならない。
「は、はじめまして!」
リアーネが刃をグッと押し当てるとモロデラは慌ててジケに挨拶を返す。
「ようやくお顔拝見させてもらえましたね」
逆に笑顔のジケが怖い。
モロデラは明らかに失敗したなと思った。
「フィオス商会のジケと申します」
「モロデラです……お話聞いていたのに失礼を働きまして」
流石に剣を突きつけられた状態で先ほどのような態度は取らない。
「それで一体どうしていきなり出てきたのですか?」
「この手記は一体どこで手に入れたものなのですか?」
「気になることがありましたか? 疑っていたようですが、本物でしたかね?」
「……大変、大変失礼しました。是非ともお話を聞かせていただきたいのですが」
どうやら手記が本物であるとモロデラには分かったようである。
剣を突きつけられているせいもあるけれど手記が本物だとしたらモロデラにとってジケはかなり大事なお客様になる。
最初がウソのように殊勝な態度に変わったのでリアーネとユディットに視線を送って剣を下げさせる。
「古くて綺麗でもないですが中で話しませんか?」
「そうしましょう」
これでようやく対等な立場になった。
お誘いに応じてジケはモロデラの家の中に入る。
確かにお世辞にも綺麗な家ではなかった。
古いだけじゃなく物の整頓もされておらず、部屋の至る所に紙が落ちていた。
「これは?」
「すいません……色々と調査しているもので」
モロデラは床に散らばった紙を拾い集める。
ジケが一枚拾い上げてみると地図のようなもので赤くばつ印が描き込んである。
「調査ですか?」
「ええ、昔からパルンサンのことを調べていまして。ここに住んでいるのもこの近くにパルンサンの秘密拠点があったという話があるからなんです」
ジケが拾い上げた紙も話に出た秘密拠点の場所を探した時のものだった。
調査してみて見つからなかった場所にばつ印を描いているのだ。
「未だに……成果はないのですけどね」
モロデラは恥ずかしそうに頬をかく。
「失礼かもしれませんがどうしてパルンサンについて研究を?」
歴史的に有名な人物であるパルンサン。
盗んだものをどこかに残しているという噂はあるのでパルンサンについて調べている人は未だに一定数いる。
ただパルンサンが生きていた時代からかなりの時間も経っているしパルンサンの遺産などおとぎ話のようなものである。
本気で研究といえるまで調べている人はほぼいない。
「……実は私はパルンサンの末裔なのです」
「ええっ!?」
予想外の理由にジケたちは驚いた。
「といっても本当かどうかは分かりませんけど。こちらどうぞ」
モロデラが資料が積まれていた椅子を片付けたのでジケ遠慮なく座る。
「我が家には代々伝わる手記がありまして、それがパルンサンのものであると父は言っていました。どうしてそんなものがあるのかと問うとパルンサンの末裔だからあるのだと答えるのです」
モロデラはテーブルを挟んでジケの対面に座ってテーブルの上にジケが持ってきた手記を置く。
「パルンサンの遺産も気になりますが……本当にご先祖様なのか知りたくて父の研究を継いでパルンサンについて調べているのです」
モロデラは落ち着いてくると非常に理性的で話し方もまともな人だった。
 




