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【第十八章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十二章

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お菓子を作り、剣を振るい3

 ヘレンゼールはそっぽを向きながらサラリとパージヴェルの心情をバラす。

 仕事を置いて出てきたのだ、これぐらいの意趣返しはさせてもらう。


「まあケツの青い子供がこのワシに敵うはずもないがな」


「パージヴェルさんももう良いお年なのですから大人しくいていてはいかがですか?」


 パージヴェルの安い挑発。

 ジケもそんなこと分かりきっているが、一度人生を全うした自負もある。


 ケツが青いなどと言われて何も思わないともいかない。


「まだまだ現役だ」


「自分を若いと思ってる年寄りほど厄介はありませんよ」


「ほーう? お前さんこそ、若いくせに年寄りみたいな……」


 売り言葉に買い言葉とでもいうのだろうか。

 表面上にこやかにしているがジケとパージヴェルの間に火花が散っている。


「うちの御当主様にあんな口利けるなんてな」


「俺だって利けるさ。遺書書いた後ならな」


「んなことしなくてもぶっ殺されはしないだろう。ただ数日御当主様の鍛錬に付き合わされるだろうな」


「だから遺書が必要なんだよ」


 別に敬意さえ払えば多少打ち解けた言葉遣いでもパージヴェルは怒りはしない。

 実力主義的なところも大きいので結果を出しているなら大目に見る。


 だがジケのような皮肉混じりの言い合いなど出来るはずもない。

 きっとそんなことをしたら数日パージヴェルにご指導されることになるだろう。


 遺書まで用意するというのは冗談だがパージヴェルの指導は厳しい。

 できるなら一対一で指導を受けるのは騎士でも勘弁願いたいものだった。


「男なら剣で語るべきだろう」


「いいですよ? ただ負けてもリンデランに泣きつかないでくださいね?」


「はっはっ、同じ言葉を返してやろう」


 ちょうどユディットも騎士にやられたところだった。

 十分な休憩も取れたのでユディットに代わってジケが立ち上がった。


「ふふ、お前さんは少しワシのことを軽んじておる気がするからなぁ。ここらで一つパージヴェル・ヘギウスという存在を知らしめておこう」


 パージヴェルは上着を脱ぎ捨てた。

 あれが年寄りの体かとギョッとするほどに鍛え上げられている。


 当主としての仕事もあるはずなのに鍛錬を怠っていないことが体を見れば一目瞭然である。

 ジケは過去の自分の体を考えた時にいかに貧弱だったかと情けなさも感じる。


「いいですか、御当主。魔力はなしです」


「魔力など使わずとも勝てるだろうな」


「口先ではなんとでも言えますからね」


「ああ言えばこう言うな」


「パージヴェルさんが剣で語ろうと言ったんじゃないですか」


「……そうだな」


 パージヴェルの額に青筋が浮かんでいる。

 孫娘と同じぐらいの年頃の少年に口先では押されている。


 だがパージヴェルは口先のうまさで貴族になった男ではない。

 己の肉体と魔力、剣と魔獣。


 つまるところは全て強さで解決してきた。

 口で勝てないからと子供相手に癇癪を起こしてはならない。


「それではいきますよ!」


 審判役としてヘンドリクソンがジケとパージヴェルの間に立って真っ直ぐ手を上げた。


「始め!」


 ヘンドリクソンの手が振り下ろされ、手合わせが始まった。

 先手必勝。


 そう思っていたのに先に接近したのはパージヴェルの方だった。

 距離を詰められて大きく見える体が一瞬さらに巨大に見えた。


 これで魔力を使っていないのかと思うほどの速度だった。


「決まったと思ったんだがな」


 だがジケもタダではやられない。

 振り下ろされたパージヴェルの剣をジケは受け流した。


 ほんのわずかな金属音しか鳴らない完璧な受け流しだった。

 最初ヘギウス家の騎士になった時にアレに何人やられたことかとヘンドリクソンは思った。


 こうした手合わせや試合ではいきなり試合が始まるのではなく誰かが号令をかける。

 大抵の場合は号令をかけ終わってから戦い始めるものだが、パージヴェルは凄まじい動体視力でもって号令をかけ始める瞬間に動くのである。


 反則ギリギリであるが、号令をかけた瞬間から試合が始まるといってもいい。

 化け物じみた速度で近づかれて攻撃されるとほとんどの人は対応できない。


 ヘンドリクソンもそんな一撃にやられた。

 本番では号令などかからない。


 一瞬の油断が命を奪うのだと体に叩き込まれた。

 思い出すといまだに額が痛むような思いがするヘンドリクソンであった。


「やるな!」


 初撃を防いだということはそれだけでも加入したての騎士より瞬間的な対応力があるということになる。

 防ぎ方も優秀。


 決して軽くはない一撃であったのにパージヴェルがほとんど手ごたえを感じないぐらいに受け流した。

 軽んじていたわけではないが、想像よりもジケの腕前は悪くないとパージヴェルは笑った。


「こ、の!」


 パージヴェルは苛烈にジケを攻める。

 これまでの戦いを見るに大味の戦い方をするのだと思っていたけれど思っていたよりもはるかに隙がない。


 体格に見合わない速度であるにも関わらず攻撃に軽さは全くなく、少しでも油断してしまうと戦いは終わってしまう。

 距離を取ろうにもパージヴェルの攻撃も激しいし、足の長さもジケとは比べ物にならなくて移動速度が違いすぎる。

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