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【第十八章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十二章

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お菓子を作り、剣を振るい2

 正直に言えばそんなに強くもないだろうと思っている人が多数なのである。

 ゼレンティガムの騎士の前で戦うことはあったけれどヘギウスの騎士の前で戦う機会はほとんどなかった。


 むしろ一番最初の誘拐事件の時に始まってやられている姿の印象があるのかもしれない。

 あれから時間も経って細くて貧弱なだけだった少年は様変わりしたけれど一度持った印象はなかなか変わらない。


「なっ……うっ!」


 だが先入観を持って人を見るのは危険である。

 ジケはヘンドリクソンの攻撃を剣の腹で滑らせるように受け流すと懐に入り込み、胴を思い切り薙いだ。


 完璧に決まった。

 子供の力といえど無防備に一撃をくらうとダメージは大きく、ヘンドリクソンは剣を落として床に膝をつく。


「ヘンドリクソンの負け!」


「く、くそっ……!」


 言い訳のしようもないほど完璧に負けた。

 騎士が1人前に出てわざとらしく手を上げてヘンドリクソンの負けを宣言する。


 だがここで大人げない態度も取らずにヘンドリクソンはしょぼくれて下がった。

 油断して負けたことは変えられない事実で、悪いのは自分だとすぐに受け入れたのである。


 これもまた日々成長する立派な騎士たる心得だ。


「じゃあ次は」


「俺が!」


「いやいや、俺がやる!」


 ヘンドリクソンを倒したことで騎士たちの興味を引いた。

 多くの騎士がジケと手合わせしたいと手を上げる。


 前途有望な若者を前にしてちょっとばかり戦ってみたいと思うのはやはり強さを極めようとする人には多い傾向がある。

 騎士の方も若い人を中心に選んで戦うことになった。


 楽に倒せるような人は1人もいなかったがジケは連戦連勝だった。

 これは騎士が魔力を使わないということも大きい。


 単純に魔力を使わないというだけのハンデじゃない。

 普通人は大なり小なり魔力を無意識に使っている。


 さらに戦うことがある人は魔力をより使っていて、その習慣が体に身についている。

 ただ戦っていても無意識に体に魔力を込めて強化して戦おうとするのだ。


 無意識の魔力の動きすら抑えようと意識する。

 このことは魔力を使わないだけでなく、使わないように意識になければならないので意外とハンデとして大きいのだ。


 無意識に魔力を使ってしまうこともあるのだけどそこら辺は周りの騎士たちが厳しい目でチェックしてくれている。

 魔力を使った瞬間に周りから注意や野次が飛ぶ。


 魔力を自由に使えるジケと魔力を意識して抑えなければいけない騎士ではジケがかなり善戦を見せていた。


「きゅうけー」


「ほれ、水分補給は大事だ」


「ありがとうございます」


 連戦してジケも気付けば汗だくだった。

 壁にもたれかかって座ると騎士の1人がジケに水を差し出した。


「あっちの子はまだまだ荒削りだな」


 ジケに代わって今度はユディットが騎士と戦っている。

 グルゼイやリアーネが手合わせして実戦的な戦いをユディットに叩き込んでいるが、ユディットは比較的独学に近い形で成長している。


 ユディットはあくまでもジケの騎士であり、グルゼイが自分の剣を教えることはない。

 リアーネも自己流であるし武器のタイプも違うのでユディットに多くは教えられない。


 騎士たちのしっかりとした技術に裏打ちされた戦い方にユディットは苦戦していた。

 ユディットも頑張っているが騎士の方もこれ以上醜態は晒せない。


「踏み込みが浅い!」


 ただ騎士もちょっとしたお節介でユディットの欠点を指摘しながら戦ってくれている。


「腕だけで剣を振るな!」


「うっ!」


 ユディットの剣をかわして騎士が腰をバシンと切りつけた。

 もしかしたらユディットにとって得られるものの多い日になるかもしれないと水をチビチビ飲みながらジケは思った。


「面白そうなことをしているではないか」


「ん? あ、パージヴェルさん、お邪魔してます」


 聞き覚えのある声が聞こえて振り返るとパージヴェルがジケの後ろに立っていた。

 パージヴェルの後ろにはヘレンゼールまでいる。


「休憩中か?」


「ええ、騎士の方々が相手してくれて、今は少し休憩してます」


「ふむ……休憩が終わったらワシと一戦交えぬか?」


「パージヴェルさんと?」


 思わぬ誘いにジケは目を見開いた。


「おっ、パージヴェル様が動いたぞ」


「まさかこちらにおいでになるとはな」


 周りの騎士たちがざわめく。

 昔は一緒に汗を流したものだが、ここ最近は当主としての仕事が忙しくて訓練を共にすることは少なくなっていた。


 パージヴェルがジケと手合わせするかもしれないという流れを騎士たちは興味深そうに見ている。


「男児ならば逃げはしないだろう?」


「へぇ……そんなに俺とやりたいんですか?」


 ジケに挑発するような言葉をぶつけてくるパージヴェル。

 なんとなく、手合わせしたい以外の意図を気がする。


「お嬢様がお菓子をお作りになられることに嫉妬しているのです」


「ヘレンゼール! そのようなことはない!」


「なるほどね」


 家の台所を使うのだしパージヴェルには事前に連絡が入っている。

 リンデランがジケのためにお菓子を作ろうとしている。


 決してジケのためだけではなく、それにみんなでワイワイ作っているのだけどパージヴェルにはそんなこと眼中にない。

 昔はおじいちゃんのためとお菓子を作ってくれることもあったのに今はジケにお菓子を出そうとしている。


 親バカな嫉妬が今のパージヴェルには多分に含まれていた。

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