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【第十八章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十一章

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蒸し蒸し2

「ただいまぁ」


「あっ、ジケ兄」


「もうちょっとで出来るから待っててね〜」


「……何作ってるんだ?」


 家の中にややムワッとした空気が漂っている。

 なんだろうと台所を覗くと見慣れない物が置いてあった。


 木で作られた四角い箱のような物がお鍋の上に置いてある。


「それなんだ?」


「むふー、これはね」


「これはね〜」


「蒸し器!」


「だよ!」


「蒸し器? なんだそりゃ?」


 珍しくジケが知らないことがある。

 タミとケリは顔を見合わせてニタリと笑った。


「ヘレンゼールおじさんにもらったんだぁ〜」


「珍しい調理器具があるからって〜」


「ヘレンゼールさんが……」


 あの人も双子に対して大概甘いなとジケは思う。


「これを使って食材を蒸すの!」


「栄養たくさん!」


 どうだ! と胸を張るタミとケリ。


「蒸すのか……珍しいな」


 茹でるぐらいならするけれど食材を蒸すとはジケはあまり聞いたことがなかった。

 水蒸気を使って食材に熱を与えている。


 そのために家の中がややムワッとしているのだ。


「じゃじゃーん!」


「出来上がり〜!」


 分厚い手袋をつけたタミとケリが蒸し器の蓋を取るとモワッと白い水蒸気が出てきた。

 すぐに消え去った水蒸気の中から蒸された野菜とお肉がお目見えした。


「蒸す……」


「ジケ兄?」


「ジケ兄ちゃん?」


 急に何かをぼんやりと考え始めたジケ。

 タミとケリは蒸し器を置いてジケの顔を覗き込む。


 ジケはポツリと蒸すとつぶやいたまま床を見つめていてタミとケリのことが見えていないようである。

 タミとケリは一度顔を見合わせて、それぞれ人差し指でそっとジケの頬をつついた。


「蒸すだ!」


「わっ!」


「びっくり!」


 ジケが顔を上げて大きな声を出してタミとケリは驚いた。


「そうだよ、蒸すんだよ!」


「ジケ兄?」


「わわわわっ!?」


「お前たち天才だ!」


 帰ってきた時よりも強くジケがタミとケリを抱き寄せた。

 ずっと引っかかっていた。


 思い出せそうで思い出せないコブから水を取り出す方法。

 タミとケリのおかげで思い出した。


「すっごい不愉快なこと、ようやく思い出したよ!」


 不愉快だと言いながらジケは大笑いしている。

 タミとケリはジケが何を言っているのかよく分からなくて顔を見合わせて首を傾げる。


「ふふふ、とりあえず飯を食おう。タミとケリのおかげで希望が見えてきた!」


「んー」


「どういたしまして?」


 訳わかんないけどとりあえずジケは嬉しそうで、タミとケリは褒められている。

 ジケが嬉しいならそれでいいかとタミとケリも笑顔を浮かべた。


 双子が作ってくれた蒸し料理はとても美味しかった。


 ーーーーー


「クトゥワさん、キーケック、実験するぞ!」


 ご飯を食べたジケは意気揚々とクトゥワ宅にとんぼ返りした。

 ジケから聞いた話をまとめていたクトゥワは戻ってきたジケを見て驚いたように目を見開いた。


「どうした?」


「思いついたんだ! コブから水を出す方法」


 キーケックは何が何だか分かっていないがクトゥワには分かった。

 ジケの目が輝いている。


 何かを思いついたのだとすぐに察した。

 鉄は熱いうちに打てと言う。


 クトゥワはすぐに動き出して、キーケックも同じくそれに従う。


「何か必要なものはありますか?」


「えーと……」


 やり方は思いついた。

 けれど具体的な方法と言われると意外と難しい。


「……鍋と箱?」


「…………鍋と箱ですか?」


 効率的な方法はこの際置いておく。

 今必要なのはジケが思い出したことが確かなのかどうか確かめること。


 先ほど見た蒸し器を参考にしてひとまず代替として鍋と箱で実験してみることにした。

 壊れてもいいような鍋と壊れてもいいような箱を探した。


 いざ探すとなると適当なものが見つからなかったりしたのだけど、最終的には良さそうな物があった。

 ということで再び洋館跡地の実験場を訪れた。


 すぐに実験したいけれど箱は蒸し器ではない。

 蒸し器っぽくするために底にいくつか穴を空ける準備をする。


 その間にクトゥワが焚き火を起こしてくれていた。


「ということで、実験です」


「実験!」


 箱の中にコブを入れて蓋を閉め、穴を空けた方を下にして水を張って火にかけた鍋の上に設置する。

 多少バランスは難しかったけど上手く調整してなんとか乗せた。


 もし仮にこの方法が上手くいくのならもっと上手いやり方を考えなきゃいけない。


「じっくり〜コトコト〜」


 例によって板の裏から様子を伺う。

 モワモワと水蒸気が上がっていって箱の中のコブが蒸されていく。


「おっ!」


 変化は目に見えて訪れ始めた。

 箱の下の穴から水がボタボタと垂れ始めた。


 水蒸気が再び水になっただけの量ではなく結構多い水が出てきている。


「コブから水が出ているのかもしれませんね」


 今出ている量だけでも火で炙ったものより多そうだとクトゥワは思った。


「ジケ?」


 しかしただ蒸しているだけではない、ということもジケは過去の記憶から思い出していた。

 多少危険はあるのでフィオスで頭を覆い、分厚い手袋をつけて蒸しているコブのところに向かった。


 箱の蓋を開けると水蒸気が立ち昇る。

 ジケが箱の中に手を突っ込んだ。


「なんと!」


「わっ!」


 次の瞬間穴から水が一気に溢れてきた。

 焚き火がジューっと音を立てて消えてしまい、さらなる水蒸気にジケの姿が包み隠されてしまった。


 ほんの一瞬だったけれど箱の上からも水が溢れそうになっているのをキーケックは見ていた。


「ジ、ジケ?」


 真っ白くモワモワとしてジケの姿が見えない。

 火傷でもしていないだろうかと心配そうにキーケックがジケを呼ぶ。


「ふっふっふっ……成功だ!」


 水蒸気の中から汗だくのジケが出てきた。

 手には潰れて薄くなったコブが持たれている。


「青臭さなし! ケントウシソウから水を取り出せるぞ!」

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