謀反9
王弟の兵士たちの顔色が悪くなる。
国内でも最強、そして忠誠心の高い者だけに与えられる役職のロイヤルガード。
その名の通り王様を最も身近で守る王の剣であり、王の盾である。
どうして王様の護衛を任せてしまい、いなかったのかは定かではない。
一介の兵士に勝てる相手ではない。
完全に包囲されているし、これまでの状況が逆転した。
誰かが剣を落とした。
それがきっかけだったように次々と兵士たちが武器を捨てて投降をし始めた。
「お前ら何をしている!
目の前にいる王を人質にでも……」
本物の一振り。
ニノサンとは質の違う、経験と鍛錬が生む無駄のない動作。
抵抗を促そうと斧を振り上げたヘンヴェイの右腕が消えた。
ジが気づいた時にはヘンヴェイの右腕はもう無くなっていて、膝をついていたはずのビクシムが剣を振り切っていた。
「誰が、誰を人質にするって……?」
かなり疲労しているとはいえ、ヘンヴェイも相当な強者。
それなのにヘンヴェイですら何が起きているのか分からなかった。
「これが王国の剣……」
大将が戦闘不能になった。
残っていた兵士たちも武器を手放して降参の意を示す。
降参した兵士たちが拘束されていき、ジたちも残されたのだがビクシムは武装を解除させなかった。
「王をお連れしろ」
未だにピリついた空気の中最後の最後に残ったのは裏部隊の面々。
「これはなんの真似だ?」
歓迎されていない雰囲気。
「あなたたちの素性が分かるまで拘束させていただきます」
「こっちはそっちに頼まれてここにいるんだぞ?」
「私が頼んだわけではないので」
「待つんだ、グルゼイ!」
王の護衛として一度引いたルシウスが慌てて戻ってきた。
まだ裏部隊が囲まれていることに気づいて戻ってきたのであった。
自分が雇ったことと身分を保証すること、それに王様からの口添えもあって剣先が向けられる状況はなんとか終わった。
けれども自由とはいかなかった。
兵士の監視のもと治療などを受けて休むことになった。
「あれは一体なんだったんだろうな」
怪我のなかったメンバーはグルゼイとリアーネ、ジともう1人だけだった。
あてがわれたテントの中でリアーネがポツリとつぶやいた。
あれとは今起きたこと。
いきなり味方の兵士たちのど真ん中に移動した。
今いるのはキャスパンの隣の領地で落ちた橋を渡った先だった。
待機させていた騎士団をジラムが呼びにいかせて、橋の手前まで来ていた。
その騎士団のいるところに気づいたらジたちはいた。
おそらく魔法なのだろうということは全員に分かっていた。
しかしそんな魔法の存在は誰も聞いたことがなかった。
その魔法を発動させたのは王様、または王様の魔獣だということも分かっていた。
しかしゴーレムっぽいあの魔獣が本当にゴーレムなのか、初めて見る魔獣であった。
リアーネの疑問に答えられる人はいない。
疲れもたまっているしその後テントの中は静まり返っていた。
「シルチリアン・バウン・ノルスカぁ!」
一方で渓谷を挟んで王弟と王の兵士は睨み合っていた。
王弟の本隊が追いついた時、戦闘があったと思われる場所には馬と幾らかの死体しか残っておらず、人が忽然と消えたようになっていた。
だから早く王を討てと言ったのにと王弟は怒りを隠せなかった。
失敗したと思った。
キャスパン城で王を抑え込むことに力を使いすぎて行動が遅れてしまった。
橋を落としてさっさと王だけでも討ち取るように言ったのに、人が消えたような光景に何が起きたのか王弟だけは分かっていた。
渓谷の向こうに姿を表した自分の兄である王に対して声を荒げる。
「久しぶりだな、カークランズ」
向こうも力を使ったというのになんの変哲もないように馬に乗り、穏やかな表情を浮かべて弟を見ている。
それがまた鼻につく。
「なぜこんなことをした。
息子が大きくなって欲が出たか?」
「そうさ、なぜ兄というだけでお前が王になり、私は地方に追いやられなければいけないのだ。
私にも王になる権利はあり、私の息子にもその権利がある。
王座を明け渡してもらおうか」
「……それは2人で決めたことではないか。
王座が欲しいなら最初から意地を張らずにそう言っていれば良いものを」
「うるさい!
そのように言うなら逃げずに捕まっていればまたよかったではないか!」
もはやあの頃の弟はいない。
シルチリアンは悲しい顔をして馬を返す。
「どこへいく!」
「もう我々の道が交わることはない。
ならば交わすのは言葉ではなく剣であろう」
どの道、渓谷を挟んでは戦えない。
この時を以て兄弟は決別し、国を二分する内戦が始まったのであった。
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