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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第九章

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退かぬ時もある3

 そしてフェッツがかつてこう言っていた。

 “商人は時に王と対等である”と


 何かの取り引きをする時相手の立場を尊重することは当然大事であるが交渉のテーブルの上では貴賤なんてものはなく王様と物乞いであっても対等なのである。

 今テレンシア歌劇団をめぐってジとクオンシアラの立場は一方的なものじゃない。


 むしろジの方に正義がある。

 だからジは退かない。


 大切なものを守るためにクオンシアラと正面から対峙する。


「何があっても渡さないつもりか?

 その言葉に責任は取れるのか?」


「テレンシア歌劇団が自ら行きたいと望めば俺は止めません。

 ですがこんな状況じゃ望んで行きたいなどと言うはずがないでしょうね。


 むしろクオンシアラ国王様こそ責任は取れますか?」


「なんだと?

 一介の商人に何ができる?」


「なんでもやりますよ。

 俺は貧民出身なんで」


 貧民は時として達観したように全てを諦めて何も持たないこともある。

 しかし一方で数少ない自分の大切なものを絶対に手放さないこともある。


 何者をも恐れず命を賭けようともどんな手段を使っても何かを守ろうとするのだ。

 一介の商人だと侮るなかれ。


 過去に何でも手放して、フィオスだけしか手元に残ってくれなかった男が何かを守ろうとしたらどれほどのものか見せてやるという気概はある。


 当然のことながらジだってなんの考えもなく抵抗しているわけじゃない。

 クオンシアラはジのことを一介の商人だと言ったけれどジは今国を代表する使節のような形で招待されている。


 ジに手を出すこと、それはすなわちその後ろにある友好国に手を出すことにも等しい。

 流石に戦争にまで発展することはないだろうが今後の関係性は悪化すること間違いなしである。


 それでも誰かがケガすることは望まないので武力で来るなら拘束したりするつもりなら大人しく捕まってはやろうかなとは思っている。

 暴れて不利になっても良くはない。


「ふ、ふははははっ!」


「クオン……」


 睨み合うようにジとクオンシアラは視線を合わせていた。

 突然クオンシアラが笑い出した。


 大きく口を開けて涙まで流している。

 その様子を見てブラーダが呆れたように首を振る。


「いい……非常に良い!

 生意気なクソガキかと思っていたが貴公は真っ当な商人であり、男であるな!」


「済まないな……」


 ブラーダは深いため息をつく。


「商売のためならば悪魔とだって堂々と取引するのが商人というものだ。

 この私を前にして一歩も引かぬその態度大いに気に入った!


 ……出来るなら私の無礼を許してほしい。

 テレンシア歌劇団を気に入っていることは本当なんだ。


 信用もできない相手には渡したくないと思うほどにな」


 どうやらジは試されていたらしい。

 そしてそのおメガネにかなったようだ。


「……怒っているのか?」


「はい。

 とても怒っています」


「い、いや待て!

 そんなに怒ることではないだろう!」


「あんな風に脅されて不愉快に思わないと思いますか?」


 形勢逆転。

 クオンシアラはジを気に入ったかもしれないが人を試すようなやり方はジは気に入らない。


 この先に待ち受けるのは馬車などの交渉。

 そうなった時に全ての権限を握るジに嫌われてしまうのはまずいとクオンシアラが焦る。


 あえて浮かべられた営業スマイルがとても怖い。


「しゃ……謝罪する。

 悪かった!


 だから機嫌を直してほしい!」


「ふっふっ、優秀な商人だな」


 想定では良い感じになる予定だったのに今度はクオンシアラがジに追い詰められている。

 機を見逃さず逆に空気を掴んでみせた。


 男気溢れて商人としての矜持を持っているだけじゃなく流れを見て掴み寄せる能力がある。

 ブラーダは大いに感心していた。


 これはクオンシアラのミスだ。

 ジという男の真価を見誤って試すなんてことをしてしまったのが悪い。


 正直ブラーダもただ話しただけで目の前の少年がこんなに老熟した商人のように逆襲までしてくるとは思いもしなかったが。


「どうしたら許してもらえるかな?」


「……今回はブラーダさんの顔に免じて許して差し上げます」


 ブラーダにはモンタールシュに来てすぐお世話になった。

 困らせたところで引き出したい条件もない。


 こんなことで恩に着せるつもりもないのでブラーダがしてくれたこととおあいこという形で終わらせる。


「ありがとう、ジ商会長」


「いいえ、お陰でモンタールシュが楽しい国だと思えましたから」


「くっ……」


 結局話をいい感じでまとめられてしまった。

 ジという人の性格は分かったかもしれないがこの会話はクオンシアラの負けである。


「それにしても歌劇団と関係があったのには本当に驚いた」


 クオンシアラがテレンシア歌劇団を建国祭に招待したのは前から決まっていたことであるし国で抱えたいと呼んだのも公演を見たからであった。

 つまりジを引き合いに出そうとして意図したものではなかったのだ。


 それなのにいざ呼んで話をしてみるとフィオス商会の名前が出てクオンシアラも驚いた。

 不思議な縁があるのかもしれない。


「縁は大切にするものだ。

 私には引き留められないほどフィオス商会とテレンシア歌劇団には縁があるのだな。


 だがテレンシア歌劇団の演劇は素晴らしかった。

 フィオス商会の下に行ったとしてもぜひまたこの国で公演を開いてほしい」


「商会長の許可が出れば考えます」


「イジワルされたからなぁ」


「うっ……!」


 イジワルされたというジの方がイジワルっぽく笑っている。

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