遠征6
その後もウルシュナは何回もジに挑んだ。
そんな様子も微笑ましく感じて指導をしてやるぐらいのつもりで手を抜かないでちゃんと相手をした。
「ぐぬぬ……少しくらい加減してくれたっていいじゃないよ!」
「のん! ……何で俺が」
いくらやっても勝てないジにウルシュナが木剣を投げつけた。
ひょいとかわされた木剣はジの後ろに立っていたカクサンにクリーンヒットした。
下腹部を押さえてダウンするカクサン。
かわすのではなく防ぐべきだった。
「ウルシュナ、負けたからといってそのような振る舞いはだめだ」
「お父さん!」
ウルシュナは必死で気づいていなかったけれど途中からルシウスとグルゼイが入ってきて2人の試合を見ていた。
負けて木剣を投げつけたウルシュナにルシウスはため息をつき、グルゼイはジが勝ったことに鼻高々のご様子だ。
父親に見られていたことを知ってウルシュナは気まずそうな顔をする。
正直勝てる相手だと思っていたのに全く歯が立たなかったどころか拗ねて剣を投げつけるなんてみっともない真似をしてしまった。
「まっ、勝てなくてもしょうがない。
俺の弟子だからな」
グルゼイがポンとジの頭に手を置いて撫でる。
このおじさんムカつく。
ウルシュナは渋い顔をして偉そうにするグルゼイを見ていた。
「確かに剣の腕は素晴らしいな。
どうだい私の騎士団に入るつもりはないかい?」
「おいっ、人の弟子を引き抜こうとするな」
「はははっ、覚えておいてくれ。
興味があったらいつでも尋ねてくるといい」
トップからの直々のお誘い。
兵士たちのジを見る目が少し変わる。
「未来の婿殿かもしれないしな」
「はあっ!? お父さん何言って……」
「お父さんと結婚できないなら私は私より強い人としか結婚しない!なんて言っていただろう」
「あれは、子供の時の!」
「今だってまだ子供だろう」
「もう知らない!」
恥ずかしさに耐えられなくなったウルシュナは修練室を飛び出して行ってしまった。
「……いや、済まないな、ジ君。
婿の話はもちろん冗談だが騎士団の誘いの話は本気だ。
身分や出自は私はそれほど重視はしていないから」
「ありがとうございます。
覚えておきます」
「話に飛びついてこないところも余計に好感が持てるよ」
大貴族の騎士団となれれば非常に名誉なこと。
よほどの事件でもない限りは食いっぱぐれもなく、大きな戦争でもあれば手柄を立てて貴族の爵位を賜る機会も生まれる。
別に貧民の子だからではなくルシウスの騎士団は憧れの存在と言えるのだ。
初めて会った時からそうだ。
普通の子供なら目を輝かせて握手の1つでも求めてくるのに、ジはそれどころかほんの一瞬嫌な顔をして見せた。
ウルシュナの父親なことを分かっているからのリアクションであったがルシウスにとって新鮮すぎるその反応は非常に興味をそそられた。
その上腕が立つなら文句なしの人材。
いい人材はいくらあってもいい。
グルゼイの弟子なのもポイントが高い。
「今日はこれぐらいにしておこう。
ジラム」
「はい」
1人の兵士が前に出る。
「ジラム、こちらはグルゼイさんだ」
「よろしくお願いします」
「ひとまず彼が裏部隊を率いますので細かいことは彼に聞いてください」
「分かった。
よろしくな、ジラム」
「はい、よろしくお願いします」
年齢不詳の兵士ジラムとグルゼイが握手を交わす。
もう行きたくないと駄々をこねるタイミングは過ぎ去ってしまっている。
こうしてジは非常にイヤイヤながらキャスパンに向かうことになったのであった。
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