ご招待2
留守番だって大事な役割。
主人のいない家を守らねばならない。
看病ついでに家の方も守ってくれれば一石二鳥である。
「ジー」
「ジー」
「……タとケも行くか?」
そして熱烈な視線が2つ。
期待するように見られては無視することはできない。
「いいの?」
「行きたい!」
タとケが視線で自分達も行きたいと訴えかけていた。
ダンジョン攻略やら何やらでなかなかタとケにも構ってあげられなかった。
良い機会だからたまには外に連れ出してあげようと思う。
「もちろん。
ただ保護者は必要だから……」
けれどタとケだけではまだ不安である。
2人ともしっかりとした子ではあるが何があるか分からない。
ちゃんと見守ってくれる大人の存在が必要である。
「……俺についていけというのか?」
「俺はそうは言ってませんよ?」
「分かりきったことを……そして俺が断れないことを知っているくせに」
タとケがウルウルとした目でグルゼイを見上げていた。
見守ってくれる信頼のおける大人など周りには少ない。
というかほとんどグルゼイぐらいしかいない。
グルゼイはタとケに弱い。
自分が父になれるなどグルゼイは思っていないが大なり小なり父性に近いものを2人に対して持っている。
どの道ジもおらず、タとケもいない家なんかつまらない。
「ありがとう!」
タとケがパッと笑顔になるのを見てグルゼイの顔も少し優しいものになる。
最初に会った時のジにも容赦なく殺気を飛ばしていた小汚いおじさんはどこに行ったというのか。
「みんなはどうする?」
他にもニックスやキーケックなど商会に関わる面々もいる。
「俺は良いかな」
ニックスはサラッと辞退する。
興味がないわけじゃないが南の国まで行くとなれば遠い。
それにジについていけば良いものが食べられるかもしれないがその場所は貴族の食事会のようなところになる。
落ち着いてその場にいられるわけがない。
それならのんびりとジがいない間の休みでも楽しむことにするつもりだった。
やはりちょっと遠いことや国からの招待客となることのハードルがあるのかキーケックとクトゥワなどみんなも辞退する。
無理強いするつもりもないのでどうせなら多少ゆっくりとお休みするのもいい。
お留守番する人も多いし家の方は大丈夫そうだ。
「あとは向こうで商談することになるかもしれないんだ」
馬車について招待状にも言及があった以上どこかでそうした話になるはず。
ならば交渉出来る人を連れていかねばならない。
「……会長、よければ私はお休みをいただけませんか?」
となるとメリッサかイスコになる。
ジが視線を向けるとメリッサがそろりと手を上げた。
「たまには家族で過ごそうかなって思いまして」
「そっか。
じゃあイスコ頼める?」
「もちろんです。
モンタールシュならば私もよく行っていたのでご案内もできます」
元より今回はイスコを連れて行こうと思っていた。
南の国で商人として活動していたイスコはジたちよりも土地勘がある。
相手の懐に飛び込んで交渉することにもなり、そうしたところでも商人であるイスコの方が適任だと考えていた。
「メリッサ、いつもありがとう」
それにそろそろメリッサにはしっかり休んでもらおうとも考えていた。
適宜お休みは当然与えていた。
しかし商会の中でメリッサが果たしていた役割は大きく代わりがきかなかったこともあってしっかりと休ませてあげられる余裕がなかった。
お金の管理や商談の同席などここまで商会を上手くやってこれたのはメリッサのおかげと言っても過言ではない。
ジはメリッサに非常に感謝していた。
「少ないけどボーナス渡すから美味しいものでも食べて休んでよ。
エムラスさんにもよろしく言っておいて」
こんな素敵な人を紹介してくれたメリッサの祖父であるエムラスにも感謝している。
関わる機会がないのでエムラスとはしばらく会っていないがメリッサからは元気だと聞いている。
「会長……」
ジの労いと心遣いにメリッサはうるっとしている。
メリッサだってジがどれほど頑張ってくれているかを知っている。
商会が軌道に乗り始めて休みもなく働いてほしいだろうにその中でもちゃんと休みをくれて、メリッサの体調にも気を配ってくれたりしていた。
大変だけど楽しくてやりがいがある仕事に出会えた。
「戻ってきたらまたたくさん働いてもらうからね」
「はい……!」
熱を持って仕事が出来る場所。
メリッサはようやくエムラスの言っていたことが分かった気がした。
きっとヘギウス商会では出来なかった経験。
単なる歯車の1つではなく共に荒波を乗り越える仲間として働ける。
まだまだフィオス商会には可能性もある。
たとえ忙しくても充実度合いは比較にならなかった。
「あとはソコ、お前も行くぞ」
「えっ?」
「モンタールシュはお前に呪いをかけた魔道具が出たところだ。
もしかしたら言ってみれば何か分かるかもしれない」
未だに時折ソコは悪夢にうなされる。
しかし悪夢は不鮮明でヒントになりそうなものもない。
呪いの魔道具はモンタールシュの遺跡から出たものであるのでモンタールシュに行けば悪夢にも変化があるかもしれないと思った。
どうなるか分からないのでリスクはあるがリスクを恐れてばかりでは前進できない。
「そうだね……俺も行く」
「じゃあこんなところで決まりかな?」




