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【第十八章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第八章

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殴ってでも連れ戻す4

 暗がりでは開いているのかもわからないほど細い目をした男がいつの間にか男たちを邪魔するように立っていた。

 薄く差し込む月明かりに顔が照らされる。


 よく顔が見えるようになっても目が細いその男はヘレンゼールであった。


「この服の気に入っていたのですが……」


「な、なんなんだこいつ!」


 男たちが一斉に剣を抜く。

 何者か1人が相手なら一斉に飛びかかれば倒せると思った。


「今私は非常に怒っています。

 口は1つ残っていれば十分だと思いますのでさっさと降参なさるのがいいですよ」


「くっ……!」


 だが男はすぐに察した。

 ヘレンゼールが只者ではないと。


 この人数を前にしても余裕の態度を崩さない。

 盗掘団の男たちだってマヌケじゃないのにここまで接近されるまでヘレンゼールの気配に気がつかなかった。


 首を切り落とした一撃も軽くはなったようで完璧なものだった。


「逆から……」


「そうはさせません!」


 ヘレンゼールの方がダメなら逆から逃げればいい。

 そう思って振り返った男たちの目に飛び込んできたのは氷の壁だった。


 ヘレンゼールとは逆の方にはジとリンデラン、ウルシュナと数名の騎士たちがいた。

 退路を塞ぐようにリンデランが魔法で氷の壁を作り出していた。


「なんだと!

 クソッ!


 このガキ、付けられたな!」


「ま、まさか……俺たちだってこのガキの能力は知ってるだろ」


 目の前にいても見失うような能力をソコは持っている。

 付けられていると感じたら戻ってこないようにも命令していたのでとても付けられていたとは思えない。


「じゃあ今の状況はなんなんだよ!」


「知るかよ!」


「ふふ、フィオス」


 このような状況でも仲違いする男たち。

 ジはソコに完全に逃げられた。


 消えたソコの追跡は難しく、とてもじゃないが付けることなどできない。

 だが男たちは見つかった。


 ジが声をかけるとソコのクロークの中からポヨンとフィオスが飛び出してきた。


「な、なんだこれ!」


「ソコは追いかけられなくてもフィオスは追いかけられる」


 ソコが執務室に入ってきた時にジはフィオストラップを発動させた。

 頭の上から落ちてきたフィオスはただ驚かせるだけの役割を果たしたのではない。


 あの時フィオスはソコにまとわりついていた。

 逃げる時もフィオスはそのままソコに一緒に連れて行かれたのであった。


 最初はフィオスが見えていれば追跡できるだろうと思っていた。

 ソコにまとわりついているとフィオスも見えなくなるしクロークに隠れるとフィオスの魔力も感知できなくなった。


 けれどもジとフィオスは繋がっている。

 見えず魔力を感知できなくてもフィオスがどこにいるのかはジには感じ取ることができるのだ。


 追跡はフィオスの気配を辿ることにしてジは人を集めた。

 騎士たちやヘレンゼール、それに待機していたリンデランとウルシュナと合流した。


 ソコにくっついたフィオスの気配があるところを中心にして周りを封鎖して包囲した。

 ソコに意識があったのならフィオスのことも気づいたかもしれないが意識がないようなソコにはフィオスのことまで気が回らなかった。


 気づいていたとしても体にまとわりつくフィオスを剥がすのは意外と大変である。

 これぞフィオストラップの真の効果であった。


「もう逃げられないぞ。

 観念しろ」


「クソ……クソッ!」


 こんなところで捕まるなんてと男が怒りの表情を浮かべた。

 ヘレンゼールはどうしても勝てない。


 ジたちの後ろには騎士がいるし氷の壁も分厚くて乗り越えられない。

 男はソコを人質にして逃げようとソコに向かう。


「その昔……泥棒はその罪の代償として手を切り落とされた」


「……うわああああああっ!」


 男の行動をいち早く察したジもソコに向かい、伸ばされた男の手を横から切り落とした。


「このガキ!

 おい、そいつを刺せ!」


 真っ赤に血走らせた目で男は叫ぶ。

 男の手から飛んだ血が顔についても表情1つ動かさないソコが動き出した。


「悪いな、ソコ」


 けれどジももうソコが異常な状態で男の言いなりになることなど分かっている。

 突き出されたナイフをかわしてソコの顔を殴りつける。


 ソコは壁に背中を打ち付けて倒れ、ジはすぐさまソコに駆け寄る。


「少し大人しくしててくれ」


 ソコの腕を掴んで後ろに回す。


「フィオス、頼むぞ」


 ジは懐からロープを取り出すとソコの両手に巻いて縛り付ける。

 そしてクロークを剥ぎ取る。


 こうしておけば逃げられても魔力での感知ができる。

 ジやヘレンゼールなら追いかけられるはずだ。


「先ほども言いましたが口は1つあればこちらとしてはそれでいいのです」


 1人が事の真相を話してくれればいい。

 全員を生かしておく必要などない。


 もう逃げ道も働かせられる悪知恵もない。


「お、俺は降参する!」


 1人が武器を投げ捨てて両手を上げて降参の意を行動で示した。


「俺もだ!」


「俺も……」


「お前ら!」


 手を切り落とされた男だけが最後まで武器を手放さなかった。

 何か方法はないか、どうにか逃げられないかとグルグル止めを回すように周りを見回しているけれどこの場にいる誰1人として男を逃すつもりはない。


「降参するつもりはないのか?」


「うるせぇ!

 お前みてえにぬくぬくと生きてるガキが……」


「うるせえ、ってのはこっちのセリフだよ」


 再度降参を進めたジ。

 それは最後通告だった。


 怒り心頭なのは男だけじゃない。

 ソコを脅して盗みさせ、あんな風にした男にジもひどく怒りを抱えている。


 手にフィオスをまとわせて金属化させた。

 怒りの鉄拳。


 まともに顔面でジの鉄拳を受けた男の口から歯が飛び、力なく地面を二転三転と転がっていく。


「殺さないだけ感謝しろよ」


 ソコを戻さねばならない。

 本当なら全員殺したっていいぐらいだけどリンデランのセッカランマンについても聞き出さなきゃいけないので生かしておいてやる。


 騎士たちが降参した男たちを拘束していく。

 巷を騒がせていた義賊とも呼ばれ始めていた泥棒はここに捕まることになったのであった。

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